対人戦
みんなが隣に並び立ち、武器を構える。その目には怒り、哀れみ、そして侮蔑の色があった。対する冒険者達は少したじろいだが同じように武器を構える。
互いに睨み合う時間が続く。目配せした冒険者達は一斉に武器を収めて踵を返した。
逃げるつもりか? 走り出した男達を身体強化で追う。ヒゲ面の男の背に飛びかかり、地面に押し倒す。
「ぐぁっ!」
「逃すわけがないだろ」
男の両腕を後ろに引っ張り、押さえ込む。土を食らった男は唾を吐いて情けない声を上げた。
「ひ、卑怯だと思わないのかよ!」
「何が?」
「普通こういうのは数を揃えるもんだろうが!!」
何を言っているんだろう、こいつは。これは決闘でもなければ模擬試合でもない。
「お前は魔物との戦いでも同じことを言うのか?」
こいつは何と言っていたんだっけ。ああ、そうだ。
「冒険中に死ぬのはよくあることなんだろ? ああ、安心しろ。ちゃんと強い魔物に襲われているところを見ましたって証言してやる。そうだな、ハーピーくらいが丁度いいんじゃないか?」
わなわなと口を震わせた男は黙りこんだ。それでも暴れることはやめないようだ。往生際が悪いな。
「ちょっと、リーダーを離しなさいよぉ!!」
短剣を抜いて向かってくる女の前に小さな体が立ち塞がる。その姿を見た女は鼻を鳴らして短剣を向けた。
「エスカの邪魔しようっていうならオイラが相手してやるぞ」
「なぁに、ガキんちょ。アタシと遊びたいのぉ? 泣いて許しをこうたって遅いんだからぁ」
次の瞬間には女の手から短剣が離れていた。ケイトが振り上げた肉切り包丁によって弾き飛ばされた短剣が地面に転がる。女は表情を歪ませ、口元をひきつらせた。
「は……? 今、何が……」
「オイラ、なんでオマエ達がこういうことするのか分かんないけど……サイテーだと思うぞ」
「ちょ、ちょっと、今何したの……? ねぇ、待って」
後ずさる女にケイトが近づく。女が走り出すよりも先に飛びついたケイトによって、女は地面に組み伏せられた。これで残るは大柄な男だけだ。
レイスから受け取ったロープでヒゲ面の男の腕を縛り終え、立ち上がる。大柄な男は顔を歪めて大剣を握りしめた。
「……俺達はミスリルがあればいい。それ以外はいらない。今回は何も言わない」
「だから?」
「見逃す、というのは」
「できない話だな。そもそも事を荒げたのはそこの男だろ」
縄から抜け出そうと身をよじる男をアゴで差す。なんとも無様な姿だ。あれだけ威張り散らしておいてこのザマだなんて程度が知れる。
「それにお前達は知らないだろうけどな、そっちが散々この村から搾り取ったせいで俺達は殺されかけたんだ。実行犯に怒りがないわけじゃないが事情を聞いて同情しちゃったんでね。そういうわけだからさ、元凶のお前達には怒り心頭なんだよ」
「……おおおっ!!」
話しても無駄だと判断したのか、大男は大剣を振りかざして走ってくる。なるほど、こいつも身体強化はできるみたいだな。ならばこっちも身体強化で応えよう。
大剣は攻撃力が高いんだろうが、その分大振りになるものだ。受け止めればこっちの短剣が折れそうだから避けるに留め、がら空きの腹に肘を入れた。もちろんその程度で倒れる男ではない。呻きながらも大剣を返して的確に俺を狙ってくる。三人の中で一番強いのはこいつだろうな。まあ避けるんだけど。
「隙だらけだな」
知能が低い魔物相手ならそれでやれてきたんだろうけど、対人戦となれば話は別だ。後隙を狙って大男の顎に身体強化を加えた拳を叩き込んだ。ガッと上を向いた大男はよろめく。その腹にもう一発拳を叩き込む。初めてにしては肉弾戦できてる方じゃないか、俺。
ずしんと倒れた男を見下ろし、少し痛む手をぷらぷらと振る。鍛え上げているだけあってカッチカチだった。さて、こいつも縛ってしまおう。一番力がありそうだから念入りにな。
こうして三人の冒険者は縛りあげられたわけだが……どうしたものかな、こいつら。放したら腹いせに何をされるか分からないし、かといって殺すというのはちょっと。最初こそ殺意を抱いていたけど、あまりの三下っぷりに怒りは薄れたし、さすがに殺しまではしたくない。頭を悩ませている内にイタチの獣人と村長が近づいてきた。
「まさかこんなにあっさりと倒してしまわれるとは」
「あ、村長。大丈夫だったか? ケガは?」
「おかげさまで無事です。なんとお礼を言ったらいいか……」
村長は深く頭を下げる。直角どころじゃないんじゃないか、それ。
「食料を渡す代わりにもう少しだけ時間が欲しいと粘ったのですが、聞き入れられず……危うく売りに出されるところでした。感謝してもしきれません」
「間に合ってよかったよ。冒険者ってこれで全員か?」
「はい、この三人だけです。他の仲間は見たことがありません」
なら他の仲間から場所をバラされることもないだろうな。来たことがない仲間が他にいたとしたら別だけど……一応聞いておくか。ヒゲ面の男の顔を上げさせる。
「なあ、聞きたいことがあるんだけどさ」
「……なんだよ」
「他に仲間はいるのか?」
「ハッ、誰が教えるか」
男の顔スレスレに短剣を突き立てる。ヒュッと息を呑む音が聞こえた。
「他に、仲間は、いるのか?」
「いっ、いない! 俺達だけだ!!」
パッと男を離す。ぐえっと下から声がした。
「だってよ、村長。他の仲間から村の場所をバラされることはないはずだ。あとはこいつらをどうするかだけど……こいつらに一番被害を受けたのはそっちだし、任せるよ」
村長とイタチの獣人はもう一度頭を下げると、目に涙を浮かべた。
「本当にありがとうございます……おかげでこの村は救われました」
「こいつらには然るべき罰を与えようと思います! 本当にありがとうございましたっ英雄様!!」
「英雄はやめてほしいんだけどな……まあいいか」
二人はとても喜んでいるようだし、多少の恥ずかしさだけで水をさすのも悪いよな。
さて、それじゃあそろそろ行くとするか。
「ミスリルもいただいたし、俺達は出発するよ」
「はいっ! あ、あの……お名前をお聞きしても?」
あ、そういえば名乗っていなかったな。今このタイミングで名乗るのは少し照れるけど。
「俺は『追憶ノ探求者』リーダーのエスカ・トーガだ」
「アタシはリーファ・レヴァ!」
「オイラはケイト・ラットだぞ」
「わたくしはオリヴィエ・フォリエといいます」
「……レイス・クロウスだ」
一通り名乗り終えると、二人は小さく口の中で復唱した。今回のことを村中に広めてもいいけど、せめて尾ひれがつかない程度で頼むよ。
「また近くに来たときはいらしてください。歓迎いたします」
「ああ、考えておくよ。またな」
「またね、村長さんっ! イタチさんっ!」
「元気でやれよ〜!」
村を離れながら、半ば振り向いたリーファとケイトが大きく手を振る。手を振り返したイタチの獣人は口元に手を添えて大きく口を開いた。
「僕はオコジョです!!」




