冒険者達
それからしばらく時間が経ち、巨大カタツムリの殻は無事に五等分された。リーファとケイトはやりきったとばかりに額を拭っている。
「これなら収納鞄に入れられるな」
細長く切り分けられた殻を収納鞄に入れてみる。おお、するする入っていくぞ。そのうち収納鞄の仕組みについてレイスに聞いてみようかな? 彼なら知っているはずだし。
全ての殻を詰め込んでから収納鞄を背負う。あれだけの量が入っているのに重さは変わらないっていうのが素晴らしいよな。
「それじゃあ帰るか。案内頼むよ」
「はい、お任せください!」
獣人は意気揚々と出口へ向かう。その足取りは軽やかで今にも飛び跳ねそうだ。なんだろう、この子からケイトに似たかわいさを感じる。もちろん、うちのケイトの方がかわいいけどな。そこは譲れないぞ。
しばらく歩いて坑道から出ると、太陽がほぼ天辺に昇りかけていた。村に入る頃には飯時だな。今日はどんなメニューになるんだろう。ミスリルを手に入れたことだし多少豪勢にしてもいいんじゃないか?
「みんなに報告するのが楽しみです。冒険者様方の活躍はみんなで語り継ぎますね!」
「語り継ぐって、そんな大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃないですよ! 僕達にとっては死活問題だったんです。それを解決してくれた皆様はまさに英雄、語り継いでいくべきですよ!」
ふんふんと興奮した様子の獣人がぐっと小さな拳を握る。感謝してくれるのは嬉しいけど、そこまでされるとちょっと恥ずかしいな。英雄ってガラでもないし。
「ほどほどにしてくれよ?」
「はいっ! ばっちりと! しっかりと! 広めますね!!」
「そうじゃないんだよなあ」
苦笑しつつ村に戻る。なんだか向こうが騒がしいな。何かあったのか?
首をひねっていると突然獣人が慌てたように走り出した。とりあえず俺達も走ってついていく。何をそんなに急いで……
「だからぁ、アタシら何度も言ってるよねぇ?」
ねっとりとした女の声がかすかに聞こえてくる。東の入り口からだ。獣人を追い越して柵から出る。
そこには三人のイノセンスと村長がいた。村長はガタイのいい男に胸ぐらを掴まれて足が浮いている。さっき聞こえた声はその隣で腰に手を当てている女のものだろう。
「アタシらはミスリルが欲しいの。アンタらのクッサイ飯なんてどうでもいいワケ。分かるぅ?」
「おいおいやめてやれよ、こいつのちっせぇ脳ミソで分かるわけねぇだろ?」
女の反対側にはヒゲを生やした男がいる。明らかにバカにしたように、とんとんと人差し指でこめかみを叩いた。
「あ〜、そうだったそうだったぁ。ごめんねぇキツネさ〜ん」
きゃはきゃはと笑う声が耳に障って思わず顔が歪む。四人に近づくと、男達はこちらを向いた。
「あ? なんだよエルフまでいんのかよ、この村」
「エルフ……いいな、高く売れそうだ」
「でもぉ、エルフって性格悪いんでしょぉ? よっぽどのヘンタイじゃなきゃ買わなくなぁい?」
「……村長を離してもらおうか」
できるだけ感情を抑えながら言えば、男は耳に手を当てて片眉を上げた。いちいちムカつく顔だな。
「あぁ? 今なんか言ったか?」
「離せって言ったんだよ。その耳は飾りか?」
ああ、もう全部分かった。こいつらが例の冒険者だな。
俺達があやうく焼け死にそうになったのも、元を返せばこの冒険者達が村を追い詰めたのが原因だ。向こうはそんなこと知るよしもないと思うが。
「……亜人風情が調子に乗るな」
村長から手を離した大柄な男が近づいてくる。鍛え上げられた肉体は見事なものだが。それをこんな脅しに使うなんてな。なんとも勿体無いことをする。
「なになに、なにが起きてるの!?」
追いついてきたリーファが隣に並ぶ。他のみんなはまだ来ていないようだ。
「俺達以外にもここを見つけた奴がいるのか……そいつはまずいな」
ヒゲ面の男が面倒そうに頭を掻く。腰に下げた剣を抜き、リーファに向けた。
「悪いな、嬢ちゃん。取り分が減るのは避けたいんでね……死んでもらうぜ」
「ええっ!? 意味がわからないよ!?」
慌てふためくリーファの前に出る。男は訝しげに眉を寄せた。
「あ? んだよ、邪魔すんじゃねえ」
「俺の仲間に刃を向けたな?」
「……あ? 仲間? だから何だよ、冒険中に死ぬなんて冒険者にゃよくあることだろ? 安心しろよ、ちゃんと強めの魔物にやられたってことにしておいてやる。それとも弱い魔物にやられたマヌケにされたいか?」
「っていうかぁ、そいつらって亜人の味方なのぉ? 信じらんなぁい、クッサイ亜人のどこがいいワケ?」
馬鹿にしたように笑う女も短剣を抜く。大柄な男も背負っていた大剣を持ち出した。こいつら全員前衛かよ。
「俺達に歯向かったらどうなるか教えて――」
ガキンッ!! 金属音が鳴り響く。噛み合った男の剣と俺の短剣がギリギリと音を立てた。身体強化した不意打ちを受け止めるなんて、腐っても冒険者ってことか。
「ッ、おいおい不意打ちとは卑怯じゃねぇか……ッ」
「先に武器を抜いたのはお前で、殺すと宣言したのもお前だろ。これくらいされる覚悟があって言ったんだよな? なぁ」
強く押しのけて距離をとる。この短剣、先の戦いで随分とボロボロになったからな。切れ味は相当落ちているだろうが……こいつらを倒すくらいはできるだろう。
こんなクズに負けていられるか。ギラギラと闘志が湧く。いや、殺意か? どっちでもいい。こいつらを倒せるなら、それで。
「みんな、手を貸してくれ」
刃こぼれした切先を冒険者達に向ける。こちらへ近づく足音が到着を教えてくれた。
「件の冒険者だ。この村を守るぞ」




