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巨大カタツムリ

 巨大カタツムリとの戦いはなかなかに激しいものとなっていた。

 転がってくる巨体を避けては短剣で斬りつけ、また転がってくるのを避けては斬りつけ。それでも短剣が刃こぼれするばかりで光沢のある殻には一切の傷がつかない。これがミスリルの強さか。

 リーファ達も応戦しているが決定打を与えられずにいた。ただただこちらが消耗させられるばかりだ。


「まったく、少しは大人しくしたらどうなんだ。狙うに狙えん」


 ため息をついたレイスが杖を振る。地面から突き出した岩の杭にカタツムリがぶつかったが、スピードが乗った状態では簡単に折られてしまっている。


「カタツムリ硬過ぎだよ〜! 炎も効かないし!」

「オイラの包丁もボロボロだぞ……あの殻、どうにか剥がせたらいいのにな」

「わたくしの杖も効きませんね。反動で手が痛くなってきました……」


 狙うべきは柔らかい中身。それは分かっているのに、縦横無尽に動き回るせいでなかなか狙えない。矢で射抜こうにもタイミングを合わせようとしている間に轢かれそうだし。

 ここはダンジョンじゃない。あまり暴れさせすぎると崩落する危険だってあるだろう。できるだけ早く決着をつけないと。

 焦れば焦るほど事態は悪くなってしまう。できるだけ冷静に、慎重にやらなければいけない。


「どうしたものかな……ッ!」


 突進してくるカタツムリをギリギリで避ける。広いといってもそこまでではないのが救いか。もしもっと広かったら、その分だけ相手のスピードも上がっていただろうから……あ、そうか!


「レイス、分厚い岩壁を作れるか!?」

「可能だが、何か策でも見つけたのか」

「この空間を分断してくれ。狭い場所に追い込めば、アイツも身動きがとれなくなって隙を見せるはずだ!」


 レイスは唇の右端だけを上げて小さく笑うと杖を構える。


「上出来だ、エスカ。私に任せるといい。全員下がれ、カタツムリから離れろ」


 彼が杖を振り上げると同時に地面が隆起する。分厚い岩壁が空間を三分の一ほどに切り分けた。その中に閉じ込められたカタツムリは何度も壁にぶつかるが、パラパラとわずかに岩壁が削れる音がするだけで崩れはしない。

 岩の階段を作って壁の上に乗り、レイスと共にカタツムリを見下ろす。さすがにジャンプはできないみたいで、ただひたすらに壁へ突進するだけだ。


「この辺りか」


 タイミングをみてレイスが杖を振ると、更に三分の一ほどまで空間が狭くなる。隔離されたカタツムリはスピードを出しきれなくなったようで、随分とゆっくりした動きで壁にぶつかっている。パラパラという音も聞こえなくなった。


「これで充分だろう。決めろ、エスカ」

「ああ!」


 三本の矢をつがえ、弦を引き絞る。狙うは殻の中、ただ一点。壁に体を擦りつけ続けるカタツムリめがけて矢を放った。

 一本、二本、三本。連続で放った矢は柔らかな体に突き刺さり、殻の奥まで貫いた。


 ギィィイイッ!!!!


 甲高い断末魔と共に巨体が倒れる。ズシンと音を立てて地面に沈んだ体はぴくりとも動かなくなった。


「……よし! 仕留めたぞ!」

「よくやったな」


 足場の岩場達がゆっくりと沈んでいく。空間が元通りになると、やり遂げたとう達成感が湧いてきた。集まったみんなとハイタッチする。


「みんなお疲れさま」

「ナイスだよエスカくんっ! よく気づいたね!!」

「へへっ、まあな。っていうかレイス、気付いてたなら言ってくれてもいいじゃんか」

「そーだそーだ! 避けるの大変だったんだぞ!」


 ケイトが両手でぺちぺちとレイスの脚を叩く。その手をそっと掴んだレイスは、気をつけの姿勢になるように体の側面へぴったりと手を揃えさせた。されるがままに気をつけのポーズをとったケイトはぷくりと頬を膨らませる。

 ……かわいいなあ。


「あと少し手間取っていたら助言するつもりだった。その前に気付いたようだがな」

「ふふ、まるでお父さんみたいですね」

「……そうなのか? 私にはよく分からないが」


 わいわいとしているところに獣人がゆっくりと近づいてくる。まるで夢でも見ているかのようにふわふわと覚束ない足取りだ。カタツムリを見下ろした彼はぽつりと呟く。


「すごい、本当に倒しちゃうなんて……」


 俺達を見上げた彼の目はミスリルに負けないほどキラキラと輝いている。


「すごい、すごいです!! お強いんですね、冒険者様!!」


 突然の褒めでにんまりと口元が緩みそうになる。なんだか照れちゃうな。みんなと顔を見合わせて笑った。


「へへ、ありがとう。これでミスリルが採れるようになったんだよな?」

「はい、おかげさまで! みんなの怪我も治していただいたので、すぐに採掘できそうです! 早くみんなに伝えなくちゃ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねた獣人はすぐに道を引き返そうとして足を止めた。振り返った彼は少し恥ずかしそうに頬を掻く。


「えっと、その前にお礼しないとですよね。ええと、ミスリルですけど……どれくらい必要なんですか?」

「そうだな、武器の分だけだから二つ塊をもらえればそれでいいんだけど……これくらいのサイズで作るからさ」


 俺の短剣とケイトの肉切り包丁を見せる。獣人はうーんと首をひねってカタツムリを見た。


「このカタツムリの殻って全部ミスリルでできているんですよね? これを丸ごと差し上げますよ」

「えっ、いいのか? 結構な量になりそうだけど」

「冒険者様方が討伐した獲物ですから」


 そういうことなら受け取っておこう。レイスは殻を見つめると指の背で軽く叩いた。


「一度体に取り込まれているからか不純物もないようだ。そこの壁にあるミスリルよりも高品質になっている」


 それって見て分かるものなのか? 分かるんだろうな。俺にはさっぱりだけど。


「あ、でもこの大きさじゃ運べないですよね? どうしよう……」


 たしかにこのサイズだと収納鞄にも入りそうにない。みんなで首をかしげてうーんうーんと考える。

 ……だめだ、思いつかない。ちらりとレイスを見ると、彼はただ一言呟いた。


「ミスリルは鉱石の一つだ」


 そりゃそうでしょうけども。えっと、ヒントか? ミスリルは鉱石、鉱石……そういえばこんなに硬い鉱石をどうやって加工するんだろう。他の鉱石と同じようにやるのか? だとすれば……


「……熱して切り分ける?」

「その通りだ」


 レイスは満足そうに頷いた。よかった、間違えなくて。別に間違えたからって何があるってわけじゃないけどさ、ヒントをもらっておいて間違えるのってなんか悔しいじゃんか。


「ならリーファが熱して、切り分けるのは……ケイトの肉切り包丁とか?」

「それがいいだろう。包丁は使えなくなるかもしれないが、すぐに新調するのだから問題は……」


 言葉を止めたレイスはケイトを見下ろす。ケイトは不思議そうに見つめ返した。


「……その包丁は特別なものか?」

「ん? いいや、とにかくでっかくて丈夫そうなのを選んだだけだぞ」

「ならば問題ないな」


 レイスはカタツムリの殻に近づくと、すっと指を滑らせた。


「等間隔に……そうだな、五等分くらいにすれば収納鞄にも入るだろう。リーファ、来い」

「はーい! どうすればいいの?」

「細い炎を出せ。できる限り高温にするんだ。そして……ここからここまで熱しろ」

「わかった、とにかく熱い炎だね。任せて! ファイアー!」


 リーファは杖を構えると細長い炎を出した。黄色がかった白に近い色をしている。あれってどれくらいの温度なんだろう。

 しばらく熱していると、レイスが小さく頷いてリーファに声をかけた。よく見てみると熱された場所だけ白く変色してる。


「そろそろいいだろう。ケイト、少し変色しているところが目印だ。その通りに切ってみろ」

「おう!」


 リーファと交代でケイトが殻の前に立つ。肉切り包丁を強く殻に押し当てると、ゆっくりと沈んでいった。


「おお! 切れるぞ!」

「冷え固まる前に切り分けてしまえ」

「任せろー!」


 刃をぐるりと一周させると、きれいに殻が切り取れた。ケイトの包丁には溶けたミスリルがまとわりついている。たしかにあれじゃあ使えなくなるだろうな。


「あと三回繰り返す。リーファ」

「はーい!」


 隅の方にオリヴィエと一緒に座って三人の作業をじっと眺める。

 リーファの炎、ゴーレムと戦った時とも色が違うよな。また腕を上げたか?

 本当に俺の仲間達は頼りになるなあ。うんうんと頷いているとオリヴィエがふふっと笑った。

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