姿絵
ケイトもレイスも起きて、朝食を摂った後。俺はリーファとレイスが魔法の練習をしているところを眺めながら姿絵の続きを描いていた。
木漏れ日の中でリーファは真剣な面持ちで両手を突き出している。きゅっと結んでいた口を開くと呪文を唱えた。
「ファイアボールッ!」
小さな炎がリーファの手にまとわりつく。「あちちっ!」と手を振る彼女に、レイスが魔法で水をかけた。
「杖を持っているときと同じように魔力を流しているだろう。自分の腕を杖とみなせ」
「うう、腕が杖、腕が杖……ファイアボール!」
再び炎が彼女の手を包む。レイスが杖を振って水をかけた。
「あちちちっ!」
「まだまだ道は遠いな、リーファ。手を貸せ、手本を見せる」
うわあ、熱そうだなあ。あれは後でオリヴィエに治してもらった方がいいだろう。
それにしてもすっごく頑張ってるなあ。何度も手を焼きながら(文字通りの意味だ)なんとか習得しようとしている。彼女の頑張り屋なところ、すごくいいよなあ。応援したくなるというか、俺も頑張ろうって思えるっていうか。
何もできないと言っていた彼女だけど、その頑張りで遠距離魔法を使えるようになったし、料理もできるようになってきた。本は……まだあんまり読めないけど。この前、魔導論学の本を貸したら数分で寝ていたんだよな。絵本は大丈夫でも文字がびっしり書いてある本は苦手みたいだ。
弓を持った俺の絵は描き終わったから、次はリーファだ。彼女の燃えるような赤い髪、オレンジの瞳、かわいらしい顔立ち……それらを自分なりに表現してみる。ポーズは杖を構える姿にしてみた。うん、いい感じじゃないか?
「エスカ、お絵描きしてるのか?」
ケイトが家から出てくる。たしか昼食の準備をしていたはずだ。
「そうそう、みんなの絵を描こうと思ってさ。下ごしらえは終わったのか?」
「ばっちり終わったぞ! もうほとんど完成してる。なあ、横で見ててもいいか?」
「もちろん」
ケイトはぽてぽてと歩いてきて俺の隣に座ると、足をぷらぷらさせながら絵を覗きこんだ。見られながら描くって、なんかちょっと恥ずかしいな。リーファの色を塗り終えて、次はケイトを描き始める。
「おっ! オイラだ!」
「かわいく描いてやるからな」
「へへっ、楽しみだぞ」
ケイトのかわいさ……それはなんといってもそのサイズ感だ。俺の腰ほどしかない身長、俺の半分ほどしかない小さな手。長いピンクの尻尾も大事だし、ぴょこんとした小さな耳は言わずもがな。ポーズは体に見合わない大きな肉切り包丁を構えている姿にした。
……そういえばケイトって何歳なんだろう。お姉さんに婚約者がいたくらいだから、見た目通りの年齢じゃないのかもしれないけど……獣人の年齢って分かりづらい気がするんだよな。あ、でもエルフの俺も大概か。
まあ何歳でもケイトがかわいいことに変わりないからな。褐色の肌と赤い目もしっかり塗って完成だ。次はオリヴィエだな。
彼女が頭に被っているベールのようなもの……あれってどうやって描けばいいんだろう。それっぽくなればいいか? ポーズは杖を持った姿にしよう。彼女のおしとやかな感じを出せていればいいんだけど。ポーズ自体に動きがない分、少し風が吹いたようにすることにした。服をひらひらさせればそれっぽくなるかな。
「あら、わたくしですか?」
「そうだよ。ちょうど描き始めたところ」
後ろからオリヴィエが覗きこんでくる。ナイスタイミング、そのベールがどうなっているか見せてもらおう。じっとベールを見つめ、その構造を完全に理解……することはできなかった。見れば見るほど分からん。仕方ない、どうにかごまかそう。
「お上手ですね、エスカさん」
「へへっ、照れるなあ」
白を入れて杖の光沢も出そう。うんうん、いい感じだ。
さあ、最後はレイスだ。ポーズは短い杖を構えた姿にしよう。長い水色の髪を高く括って、ケープとローブはひらひらさせて……表情はキリッとかっこよく。知識があって、強くて、頭もよくて……とても頼りになる大人だ。何度も助けられてきたな。
「ファイアボール!」
「少しはマシになったな。その調子で続けろ」
「うんっ! ファイアボールッ!! あちちっ!!」
「……その調子とは言ったが調子に乗れとは言っていないぞ、リーファ」
リーファの特訓も順調……順調? みたいだ。時々失敗しているみたいだけど、レイスが傍で見ているから大丈夫だろう。安心して描いていられる。
黄色いクレヨンに手を伸ばす。レイスの金色の目を塗ったら完成だ。これで全員を描き終わったな。
「完成ですか?」
「ああ。どうだ? 結構な自信作なんだけど」
絵を広げて見せると、オリヴィエは胸に手を当てて微笑んだ。
「素晴らしいです。ふふ、こんなに素敵に描いていただけて嬉しいですよ」
「みんなかわいくてかっこいいぞ。へへっ、嬉しいな。すっごく嬉しい!」
ケイトは耳をピンクに染めて、ペタンと伏せた。立ち上がったケイトはぴょこんぴょこんと飛び跳ねながら辺りを回っている。すごい喜びようだな。こんなに喜んでもらえると俺も嬉しいよ。
「エスカくん、絵を描いてたの?」
「お、リーファ。特訓はもういいのか?」
リーファはにっこりと笑って隣に座る。
「そろそろお昼だから休憩!」
「あらリーファさん、手を火傷しているじゃありませんか。治療しましょう」
「うんっ、お願いねオリヴィエさん」
オリヴィエがリーファの手に回復魔法をかける。赤くなっていた手はみるみる治っていった。元通りの綺麗な手だ。
「ありがとう、オリヴィエさん!」
「いえいえ」
「リーファ、これを描いてたんだけど……どうだ?」
リーファに絵を見せると、彼女はぱあっと顔を輝かせた。
「わっ、みんなの絵だ! すごーい!」
「へへ……ありがとな、リーファ」
「なるほど、上手く描けているな」
レイスも歩いてきて俺の絵を眺める。目元が柔らかいから、多分喜んでくれてるな。
「ありがとう。なんかくすぐったいな……そうだ、リーファの特訓はどんな感じなんだ?」
「調子にさえ乗らなければ明後日には最低限使えるようになるだろう」
「おっ、さすがリーファ。飲み込みが早いな」
「えへへ」
リーファは肩を少し上げて照れたように笑う。レイスも息をはくように小さく笑うと家の中へと入っていった。辺りで跳ねていたケイトがハッとして伏せていた耳を立てる。
「あっ! そろそろ昼ごはんの時間だな。オイラ、仕上げてくるぞ」
「お手伝いしますよ」
「それじゃ俺も。皿を用意しておこうかな」
「アタシも! アタシもお手伝いするよっ!」
みんなで家の中に入る。すでに美味しそうな匂いが漂っていた。今日のメニューは何だろう? ふわりと香るこの匂いは……ミルクが使われているっぽいな?
「今日のメニューは鳥肉のミルク煮込みだ。寒い日にぴったりだぞ!」
「おっ、今日も美味そうだ。楽しみだな」
「とびっきり美味しいからな。ほっぺた落とすなよ〜」
わいわいと言葉を交わしながらキッチンに向かう。あったかい仲間にあったかい料理。うん、今日も幸せだ。
ミルク煮込みは優しいミルクの味が染み込んだ柔らかい鳥肉が口の中でほどけていく、あまりにも美味しい料理だった。ピュルテ皇国のレシピを参考に少しアレンジしたらしい。体の芯からじんわり温まっていく。
午後からはリーファの特訓を眺めながらスクロールを書く練習をした。俺だって頑張らなくちゃな!




