思い出話
白い岩がある場所まで戻ってきた俺達は、再びあのエルフを前にしていた。
やっぱり俺を睨んでくるんだよな。混血が嫌いなのは分かったけどさ、生まれちゃったものは仕方ないじゃんか。俺のせいじゃないって。
「マスタートレントの枝とアラクネの捕縛糸、そして高品質の魔石だ。受け取れ」
枝は長いので地面に置いて、他の素材はレイスが手渡す。枝を見下ろしたエルフは訝しげに片眉を上げる。
「マスタートレント? どこにいたんだ」
「私の杖用の枝を取りに行った場所だ」
エルフは枝を一本手に取ると、なにやら調べ始めた。断面を見たり軽くこづいたりしているけど……あれで分かるものなのか?
「……本物だな。幸運な奴らだ。それで、取ってきたのはこれだけか?」
「充分な量だと思うが。それに多く取ってきても文句を言うだろう、お前は」
エルフは鼻を鳴らすとリーファを見た。
「おい人間」
「え、アタシ?」
「貴様の杖のことだ。貴様以外に誰を呼ぶと? こちらへ来い」
リーファはよく分かっていない表情でエルフの傍に寄った。エルフは一本の枝をリーファに差し出す。
「握れ」
「えっと、こう?」
「杖を構えるように握れ」
「こうだね!」
枝を握るリーファの手元をじっと見つめたエルフは、口元に手を当ててぶつぶつと何かを呟いている。何してるんだ? リーファは首を傾げながらも枝を構えたまま待っている。
「……もう少し細くした方が握りやすいか?」
「え? えっと……そうだね。その方が握りやすいかも!」
あれ、なんだか思っていたよりも真面目?
「意外だな。そんなにしっかり取り組んでくれるのか」
「黙れ雑種。ワタシが杜撰な仕事をするとでも思っているのか?」
「思ってない思ってない。それじゃあ俺の弓も調整してくれるのか?」
「……当然だ」
あ、すっごく嫌そうな顔。
一通り打ち合わせを終えた後、エルフにしっしと手で払われた。枝を運ぶために仲間を呼ぶらしい。なんとしても他のエルフとは会わせたくないようで……エルフ曰く「同胞の目を腐らせたくない」だそうだ。俺ってそんな劇物だと思われているってこと? 酷くないか?
「彼はいつもああいう物言いをする。あまり気にするな」
「レイスはよく……二十五年だっけ? そんなにアイツと付き合えたよな」
「彼との付き合い自体は二十年ほどだがな」
レイスの家に向かいながら話をする。ふと気になって、あのエルフとの出会いについて尋ねてみることにした。
「そういえば、あのエルフとはどうやって出会ったんだっけ? 前も聞いた気がするけど……」
「彼がドラゴンに襲われているところを助けたのが始まりだ」
「俺達と同じ感じ?」
「ああ。その時はさっさと立ち去られて会話も何もなかったがな」
え、それじゃあどうやって関わるようになったんだろう。レイスは過去を思い出しながら、ぽつりぽつりと続ける。
「翌日、家の前に果物入りのカゴが置かれていてな。あのエルフかと合点がいった私は、解体したドラゴンの素材を果物と引き換えにカゴに入れて置いておくことにした」
「ドラゴンの素材って貴重なものじゃないのか?」
「貴重だが……あのエルフもドラゴンにそれなりのダメージを与えていたからな。不意に襲われていたにせよ自ら挑んでいたにせよ、受け取る資格がある」
律儀というかなんというか。初対面のエルフにも優しいんだな、レイスは。
「その素材って受け取ってもらえたの?」
「翌朝にはカゴが無くなっていたから受け取ったのだろう。それから暫くは会うこともなかったのだが……家の近くを散策している時に白岩の広場を見つけ、そこで再会した。あちらは会う機会を窺っているようだったな」
「へ〜! エルフさんはレイスさんに会いたかったのかな?」
「いや、森に住み着いた私を警戒していたのだろう。開口一番に何が目的だと問われた」
だろうなあ。会いたいとか思うようなタイプじゃないだろうしな、あのエルフ。レイスの家とエルフの住処が偶然近くなっちゃったのかもしれないけど、だとしたら運が良いのか悪いのか……。
「私はそれにどう返したのだったか……何にせよ、私達はそれから時に助け、助けられを繰り返しながら細々と交流を続けて今に至る」
「印象深い思い出はありますか?」
「思い出……そうだな」
レイスは暫し考えると「そういえば」と呟いた。
「十年ほど前だったか……森の中で偶然出会った際に、珍しい花を見つけたことがある」
「珍しいお花? どんなお花なの?」
「繊月草という。たしか……ああ、あった」
収納鞄を漁ったレイスは、一つの瓶を取り出した。中には細い花弁が集まった花が一輪だけ入っている。花弁は薄く、透き通るような黄色だ。すごく綺麗な花だな。
「それが珍しい花か? たしかに見たことないけど」
「ああ。百年に一度、満月の夜にしか咲かないらしい」
「……満月の夜に出歩いていたってことか? この森の中を?」
それってすごく危ないんじゃないか? ここ、昼間でも魔物がわりと出るのに。
「魔法研究のためにある素材を探していた。その素材は夜が最も見つけやすい。必要なことだった」
「そこでエルフと出会ったって? 偶然?」
「ああ。向こうも何かを探しているようで、私に同行することになり……そこでこの花を見つけた」
レイスは瓶の中の花を見つめ、懐かしそうに目を細める。
「とても珍しいからと、長く保存できるように彼が加工してくれた。おかげで十年経った今でも当時と変わらない姿を保っている」
「へえ、エルフさんって優しいね!」
「ああ……あの夜は珍しく大人しかったな。彼もこの花に見惚れていたのだろうか」
百年に一度の花かあ、それってすごく豪運だな。良いものを見せてもらった。
「常に持っているように言われている。幸運のお守りでもあるらしい」
「へ〜、幸運のお守りかあ」
そうこうしている間に家につく。土を固めて作ったような家……これも魔法で作ったんだろうな。この家に入るのも久しぶりだ。
「リーファの杖が折れている以上、杖が出来るまでは待っておくべきだろう。先に作るよう頼んであるから……そうだな、三日ほど待つことになるだろう」
レイスが扉を開けて中に入る。外観からは想像つかないけど、かなり整えられた空間だ。懐かしいなあ、初めてレイスと会った時はここで休ませてもらったんだ。彼と出会えたのは幸運だった。じゃなければ俺達の旅は終わっていただろうからな。
「さあ、好きに休んでくれ。私は部屋の整理をしておく」
レイスはさっさと自室に入っていった。
それじゃゆっくり休ませてもらおうかな。ソファに腰掛け、体を伸ばした。




