岩の巨人
あれからまた歩き回って、やっと次の階段を見つけることができた。ここはどうも罠が多い階層だったな。天井からトゲが降ってきたり、地面に穴が空いたり。下手に進むと足元をすくわれて大変だった。
でもその分、普通に襲ってくる魔物は少なかったけど……ああいや、あのツタを伸ばしてくる目玉も魔物か。あいつは結構あちこちにいたからなあ、そう考えると魔物も多かったのか。
そんなこんなで見つけた階段を前に、俺達は休憩を挟んでいた。
「ふう、染み渡りますね……薄めているのに少々苦味が強いですが」
マグカップに口をつけたオリヴィエが息をはく。小さな焚き火がパチパチと音を立てた。
「慣れさえすればどうということはない」
「この苦み、うまく調理すれば化けそうだぞ」
「料理に使うのはやめておけ」
ケイトはおずおずとレイスを見上げる。
「……ダメか?」
「駄目だ」
しゅんとケイトが肩を落とす。オリヴィエとレイス、それからケイトはマギア草を煮出したお茶を飲んでいた。
俺とリーファはまだまだ魔力に余裕があるから飲んでいない。味は気になるところだけど、保有魔力の上限を超えて摂取すると最悪の場合死ぬぞと脅されたんだよ。もちろん言ったのはレイスだ。
「よし、それじゃ行くか。多分次がボスだよな」
「そうでしょうね。気を引き締めて参りましょう」
焚き火を片付けてから階段を下りていく。
ここのボスは何だろうな? またドラゴンだったりするのかな。それとも……あの目玉の魔物をもっとデカくしたやつとか? あまり強すぎないといいんだけど。そう思いつつ次の階層に進む。
そこは岩壁に囲まれた大きな広場だった。うん、いかにもなボス部屋だ。
「行くぞ」
武器を構えて中央へ進む。均された地面にはいくつもの円や記号が刻まれている。この模様に何の意味があるのかは分からない。魔法陣のように見えなくもないけど……。
「これって指示にあたる記号が見当たらないから魔法陣じゃないよな、レイス」
「学んだことが身についているようだな。そうだ、これは不完全な陣……おそらくはただの装飾だろう」
「やっぱりそうなのか。雰囲気出てるもんな」
中央につくと地面が強く揺れた。ゴゴゴと低い音も聞こえてくる。
さあ、何が出てくるんだ?
奥の岩壁が揺れて見える。いや、確実に動いている。ゆっくりと振り返ったそれは四角い人の形をしていた。
目があるべき位置に埋め込まれた二つの魔石が赤く光る。
「ゴーレムか」
ぽつりとレイスが呟く。いや、ゴーレムかってそんな冷静に言ってる場合じゃないだろ。だって、あのゴーレム……三メトルはある巨体が三体もいるんだぞ!?
「ひゃあ、おっきいね!」
「ゴーレムさん、わたくし達はこのダンジョンを攻略するため……ってあらら、お話を試みている場合ではなさそうですね」
ゴーレムがこちらへ歩いてくると同時に体を温かいものが包む。オリヴィエの支援魔法だ。
「ふふ、攻撃力アップの魔法も使えるようになったんです。お試しくださいな」
「助かるぜ、オリヴィエ!」
キリリと弦を引き絞る。狙うは目になっている魔石だ。ゴーレムが地に足をつけるたびに少し揺れるが、これくらいで狙いを外すことはない。俺だって成長しているんだからな。
しっかりと狙いを定めて矢を放つ。魔力を込めた矢はまっすぐに魔石へと飛んでいったが、巨大な岩の手のひらで防がれた。矢が刺さった手のひらからボロボロと砕けた石が落ちる。
さすがに穴をあけるほどの威力には満たなかったらしい。それでも深く突き刺さっているようだけど。
「身体強化からの〜っファイア!」
リーファが炎をまとった杖を握りしめて走り出す。振り下ろされた巨大な拳を避けて懐に潜り込んだ彼女は、そのままガラ空きの足をぶん殴った。あまり効いているようには見えない。
「戻ってこい、リーファ! 遠距離で攻めろ!」
「はーい! もう、ゴーレムって硬すぎるよ〜! アタシ相性悪いかも?」
「いや、そうでもない」
氷柱を飛ばして少しずつゴーレムの体を削っていたレイスが呟く。何か策があるのか?
戻ってきたリーファをちらりと見たレイスは、ゴーレムに杖を向ける。
「リーファ、お前が今出せる最大火力で熱しろ。ゴーレムといえど素材は岩、高過ぎる熱には耐えられまい」
「えっと、えっと、とにかくすっごい炎で焼けばいいんだねっ!?」
「ああ」
「それならできるよ! オリヴィエさん、ケイトちゃん、下がってて!」
ゴーレムを相手どっていた二人がこちらへ戻ってくる。
杖を構えたリーファはムムムと眉間にシワを寄せた。肩幅くらいに脚を開き、ぎゅっと握りしめた杖を突き出す。杖の先端にはめこまれた魔石が赤く光り輝いた。
「ファイアストーム……すっごく頑張ったバージョンッ!!」
大きく燃え上がった炎が渦巻く。眩しいほどの黄色い炎がゴーレムを包み込んだ。すごいな、ここにいても熱気が伝わってくる。
ごうごうと燃え続ける炎の中からビキバキと硬質な音が聞こえてきた。
「ううう……!!」
リーファは懸命に炎を操っている。やがて燃え盛る炎の奥からゴーレムが姿を現した。ズシンズシンと足音を立てながら近づいてくる巨体のあちこちにヒビが入っていてボロボロだ。炎は広がるように消え去り、熱風が吹き荒れる。
「効いてる! かなり効いてるぞリーファ!」
「はぁっ、はぁっ……どうかなっ!? すっごく頑張ったよ!」
「ああ、上出来だ。ああなれば少し叩いてやるだけで崩れるだろう……エスカ」
ぐっと短剣を握りしめる。
「分かってる。ケイト、オリヴィエ! 一人一体だ、行くぞっ!!」
「おうっ!」
「はいっ!」
三人でゴーレムへと駆け出す。地面と空気はまだ熱いが、すぐに温度が下がる。これはレイスのサポートだな。
今にも崩れ落ちそうなゴーレムの顔めがけ飛び上がる。
「はああっ!!」
額に入ったヒビに短剣を差し込んだ。魔力を込めた渾身の一撃。ヒビはみるみる大きくなり、ビキッと大きな亀裂となった。崩れた岩の顔から魔石の目が落ち、カツンと音を立てて転がっていく。
「よしっ! これでどうだっ!?」
地面に着地し、ゴーレムを見上げる。魔石を失った体はバラバラに崩れ地面に落ちていく。ガラガラと音を立てた岩を見下ろし、深い息をついた。
「倒せたみたいだな……ケイト、オリヴィエ! そっちもいけたか!?」
「おう! もちろんだ!」
「無事に倒せましたよ」
ケイトとオリヴィエの足元には大量の岩が転がっている。崩れた三体のゴーレムが光の粒子となって消えていった。
「ふう……みんなお疲れ」
「みんなナイスだったぞ!」
「やったね! あんな大きいゴーレム倒せちゃうなんて、もしかしてアタシ達ってすっごく強くなってる?」
「ふふ、これが成長というものですね。素晴らしいです」
「……あまり調子に乗りすぎるな、いつか足元をすくわれるぞ」
みんな集まって肩を叩き合う。みんなで協力して強敵を倒せた時の達成感、癖になりそうだな。
ひとしきり労った後、改めて広間を見渡す。
「さて、今回の戦利品は何かなっと」
瓦礫が消え去ったあとには三つの腕輪が落ちていた。
一つ拾い上げる。細かな模様が彫り込まれた金色の腕輪だ。刻まれている模様を見れば魔法陣のようになっているのが分かった。指示の記号もちゃんと入っているように見える。
「これ、模様が魔法陣になってるのは分かるけど……何の効果があるかは分からないな。鑑定するか」
なんでもかんでもレイスに聞くっていうのも悪いしな。収納鞄から取り出した鑑定のスクロールをかざす。スクロールはこれで最後だ。また作っておかないとな。
「えっと、力の腕輪……物理ダメージがアップするんだってさ」
「へえ、物理ダメージ! オイラ達にぴったりだな!」
「わたくし達が付けてもいいでしょうか……?」
ケイトとオリヴィエが腕輪を拾う。リーファはこくりと頷いた。
「うんっ、三人がつけていいと思う! アタシ達は魔法があるもんねっ」
「ああ」
レイスも頷く。それじゃありがたく貰うことにしよう。ケイトはつまみあげた腕輪を見つめている。
「でも、この腕輪すっごく大きいぞ。オイラの腕じゃぶかぶかだ」
ケイトは腕輪をつけてみせる。たしかにぶかぶかのすっかすかだ。あれじゃすぐ落ちちゃうだろうな。そう思った瞬間、腕輪がきゅっと縮まった。完全にケイトの細い手首にフィットしている。
「わっ!? 急に縮まったぞ!」
「なるほど、そういう機能があるんだな。丁度いい」
明らかにサイズの合わない腕輪をつけてみると、きゅっと縮む。外そうとすると元のサイズに戻った。便利だな、これ。
オリヴィエも腕輪をつけた。彼女の腕輪もちゃんと縮まっている。この腕輪がどれだけの効果があるかは分からないけど、ないよりはあった方がずっといいな。
「よしっ、それじゃあ帰るか」
「うんっ! 宿に戻ってゆっくり休も〜!」
みんなで転移ノ紋に乗る。青い光と共に視界が切り替わった。
澄んだ夕焼けの空が広がっている。黒い霧はどこにも見当たらない。
初心ノ洞窟、完全クリアだ!




