トラップ・アンド・トラップ
度々魔物に襲われながら暫くさまよっていると、次のフロアに続く階段を見つけた。魔物はあの触手のやつだけだし結構あっさりだったなあ。
やっぱり難易度が上がったといっても元が初心者向けって言われるくらいのダンジョンだったわけだから、あまり大したことないのかもな。
みんなで階段を下りていく。見た感じは上の階と変わらないな。デコボコの岩に囲まれた通路がずっと続いているだけだ。
「この調子なら簡単に攻略できそうだな」
「油断するな、エスカ」
「おう、分かってるよ。うっかりで死ぬなんてごめんだからな」
レイスに注意されつつ、罠があるかどうかも気にしながら慎重に通路を進んでいく。こうもピリピリしてると気疲れしそうだ。仕方ないんだけどさ。
「あっ、あれ罠じゃないかな? ねえ、きっと罠だよ!」
リーファが指さす先を見れば、壁にいくつもの小さな穴があいていた。指が二本入るかどうかってくらいの穴がびっしりと。うーん、明らかに怪しい。
「迂回するルートなんてないしなあ。ここを通るしかないんだろうけど……通りたくないよなあ、あれ」
「絶対なにか出てくるぞ……」
足元に落ちていた石を拾い、軽く投げてみる。カツンと地面に落ちた瞬間、無数の穴から凄まじい勢いで槍が突き出てきた。反対の壁にガッと当たって音を立てる。
「うわあ、あのまま通ってたら串刺しだったな」
「ひえ……」
リーファとケイトが抱き合ってぷるぷる震えている。自分が通っていたときのことを想像したんだろう。そりゃ怖いよな。
「ケイト、あの槍を叩き切れるか?」
「え? うん、できるけど……」
「頼む」
ケイトはおずおずと槍に近づくと、肉切り包丁を振り上げて思い切り叩きつけた。バキバキッと音を立てて槍が折れていく。
手前側を切り落としたところで一旦待ってもらって、もう一度石を投げ入れた。うん、一度発動したところはもう出てこないみたいだ。
それが分かったら充分。ケイトに全部叩き切ってもらって、あとは通るだけ。落ちている槍のせいで少し歩きづらいけど進めないことはない。
「よし、これで進めるな」
「足元がごろごろするよ〜」
「転ばないでくださいね、リーファさん」
全員が槍ゾーンを抜けたら、再び前進だ。今のは分かりやすくて良かったけど、全部が全部あそこまで分かりやすいことはないだろう。もっと気をつけていかないとな。
「あっ、宝箱!」
いくつかの分かれ道を通っていくと、ぽつんと通路の先に宝箱が置いてあった。走っていくリーファを追いかける。
「おいリーファ、あんまり走ると危な――」
「うわぁっ!?」
リーファの体が宙に浮く。足首に太いツタが絡みつき、ぷらんと逆さまに吊り下げられている。おお、思いっきり罠じゃないか!
「大丈夫か、リーファ!」
「う〜、やっちゃった……! 大丈夫だけどちょっと怖いよ〜!」
「待ってろ、すぐにツタを切ってやるから」
短剣を取り出したところでツタがうごめく。新たに何本ものツタが現れ、俺達に襲いかかった。
「うわっ!?」
迫りくるツタを切り落とす。切っても切っても終わりが見えない。一体どれだけあるんだよ、このツタ! っていうか明らかに魔物か何かだろこれ!
「エスカくん! 大丈夫!?」
「なんとか! っくそ、次から次へと……!」
ちらりとみんなを見ると、あっちはあっちでツタに襲われている。このツタどこから生えてきてるんだ? ツタの根元あたりをじっと見てみると、天井に張り付いた大きな目玉が見えた。黒目がギョロリと動き目が合う。
「見っけ! 絶対アレだろ本体!」
大本を見つけてしまえばあとは簡単……とはいかないな。弓を構える余裕もないほど絶え間なくツタが迫ってくる。よし、こうなったらスピード勝負だ。
「はぁッ!」
足に魔力を込め、高く飛び上がる。迫ってくるツタを切り落としてひらけた視界の向こうにある巨大な目玉へと刃を突き立てた。
ギィィイイイイイ!!!!
甲高い断末魔と共にツタの勢いが弱まる。俺が着地すると同時にリーファを捕らえていたツタが緩まった。彼女の体は重力に従って落ちていく。
「わぁああっ!!」
「リーファ!」
一瞬心臓が縮まったのを感じながら強く地面を蹴り、落ちる彼女の下を陣取る。差し出した両腕に細い体が収まった。
「ケガはないか、リーファ」
「……うん。ありがとう、エスカくん」
ホッと安堵の息をつく。ふと彼女の頬がほのかに赤らんでいることに気づいた。オレンジの瞳が柔く細められる。互いに絡んだ視線を外すことなく、数秒。
「エスカ、早く行こうぜ」
「少し待つべきですよ、ケイトさん」
「えっ、なんでだ?」
「……オリヴィエがそう言うのなら、私達には分からない何かがあるのだろう」
後ろからみんなの声が聞こえて、なんだか恥ずかしくなってきた。カッと顔が熱くなる。そっとリーファを地面に下ろして頬を掻いた。
「あー……宝箱開けるか」
「うんっ!」
「何が入ってるんだろうな? オイラ、待ちきれないぞ!」
うー、顔が赤くなってる気がする。ごまかすように早足で宝箱に近づいた。さすがに二重で罠を仕掛けているなんてことはないだろう。オリヴィエが後ろでくすくすと笑っているのが気になった。なんだよ、言いたいことがあるなら言えよな。もう。
「おー、立派な宝箱だ!」
タタッと走ってきたケイトが隣に並ぶ。興味津々といった風だ。俺の腰ほどまでしかないケイトのつむじを見下ろす。
「ケイトが開けてみたらどうだ?」
「えっ、いいのか?」
「ああ」
こっちを見上げたケイトはウキウキで宝箱に手をかける。一生懸命にふたを押し上げる小さな後ろ姿を見ていると落ち着いてきた。ケイトはかわいいなあ。
「よいしょ……っと」
ギィと音を立てて開いた宝箱を覗き込む。中にはかすかに光る水色の液体が入った瓶があった。瓶を手に取ったケイトはいろんな角度からそれを眺めている。ケイトの手が小さくて瓶が大きく見えた。
「んー、ポーションか? この色、ケガを治すポーションじゃなさそうだぞ。ケガ治すのは緑だもんな」
「鑑定してみるか?」
「おう! 頼むぞ!」
収納鞄から鑑定のスクロールを取り出す。結構安定して作れるようになったんだよな、これ。
スクロールをかざすと魔法陣が光る。えっと、なになに?
「神秘ノ秘薬? 体力と魔力を完全回復するんだと。すごいなこれ」
「えっ、そんなすごい物なのか!?」
「わあ! すっごいお宝だね!」
ケイトは大切そうに両手で瓶を持ち直すと、緊張した面持ちでそっと瓶を差し出した。小さな手がかすかに震えている。
「オイラ、落としちゃいそうだぞ……エスカが持っていてくれ」
「わかった。あ、そうだ! これならレイスの腕も治るんじゃないか?」
これは名案だ。そう思ったんだけど、当のレイスは首を横に振るだけだった。
「私のことはいい。片腕が無くとも命に別状はないのだから、それは先のために温存しておけ」
「そうか? まあレイスがそう言うなら持っておくけど……収納鞄に入れておけば大丈夫だろ」
いい案だと思ったんだけどなあ。でも本人がああ言ってるのに、無理矢理飲ませるのは違うし。これから先に何があるか分からないし、彼の言う通りに温存しておこう。これを使わなきゃいけない場面なんて見たくもないけどな。
秘薬を収納鞄に入れて、来た道を引き返す。この階もそろそろ攻略できるかな……階段を見落としてなきゃいいんだけど。




