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RE:初心ノ洞窟

 数日の間平原を歩き続けた俺達は、ようやくダンジョン街ビギンズに辿り着いた……んだけど、やっぱりこの街もおかしなことになっているようだ。


「うわあ……空が真っ黒」


 思わず呟いたくらいには空が黒い。暗いじゃなく、黒いんだよな。それもビギンズの周辺だけ、街を中心に黒い雲とも違う何かが渦巻いている。明らかに異常の影響だよなあ、これ。あまりの不気味さにケイトとリーファはすっかり怯えている。


「あの空なんだぁ? うう、怖いぞ……首の後ろあたりがぞわぞわするんだ」

「だよね、こわいよね! これも異常のせいなの?」


 ケイトもリーファも俺の背中にぴったりくっついている。正直歩きにくいけど、こうも怖がってると離れろとも言えないしなあ。好きにさせておくか……ぶっちゃけ俺も少しばかり怖いしさ。

 とにもかくにも街に入らないと始まらない。ということで、三人寄り添いながら街に入る。後ろの二人の視線が生温かいのは気にしないことにした。だって怖いものは怖いしさ、仕方ないじゃんか。

 街の中は思ったより落ち着いていた。異変が起こってから多少時間が経っているから街の人々は慣れてきたのかもしれないな。パッと見た限りだといつも通りに日常を送っているように見える。空を見上げればやっぱり不気味な黒が広がっているし太陽が遮られているせいで暗いんだけどさ。それに街の雰囲気もなんか暗い気がするし。


「なんかジメジメっとしてるなあ……とりあえずダンジョンに向かうか」

「そうだね。ぱぱぱーっとクリアして怖い空とはバイバイ! これが一番いいよ」


 薄暗い街の中を歩き、ダンジョンの入り口に向かう。道中、道端で酒を飲む冒険者をちらほら見かけた。やっぱり異変が起きたダンジョンに挑戦しようって人はいないんだな。それか挑戦したけど諦めたか? 依頼として受けてる俺達としては先にクリアされる心配がなくていいんだけど……いや、むしろクリアしてくれた方が仕事が少なくなっていいのか?

 まあいいや。とにかく俺達の他に冒険者はいないみたいだから遠慮なく攻略させてもらおう。ダンジョンの入り口、初心ノ洞窟に繋がる石門からは黒い霧のようなものが立ち上っていた。あの中に入るのは少し気が引けるけど、ここで引き下がるなんてことはできないしな。


「よし、行くぞ」

「はいっ!」


 意を決して一歩踏み込めば、すぐさま視界が切り替わる。広がった景色はまるで洞窟の中のようにデコボコした岩壁に囲まれた通路だ。相変わらず光源もないのに薄暗い程度で済み、道の先は見えない。

 いつ魔物が出てきてもいいように、それぞれが武器を構えて通路を進む。ピチャンと水滴が落ちる音にも警戒してしまうが、気を抜くよりはずっといい。だってほら、水滴の音と共に魔物が現れることだってあるのだから。


「来たぞ!」


 天井から降って現れたのはプルンとした笠の下から何本もの半透明な触手を持つ魔物だった。村で読んだ図鑑でも見た覚えがないな。なんだアレ?

 宙に浮いている魔物はウネウネと触手を波打たせている。狙うべきはあの笠か? 矢をつがえたところで、ケイトとオリヴィエが飛びかかった。


「おりゃあっ!」

「はああっ!」


 伸ばされた触手をケイトの肉切り包丁が切り落とし、オリヴィエの杖が笠に振り下ろされる。笠はぽよんと衝撃を受け止めるばかりで効いているようには見えない。打撃は効果がないのか?


「きゃっ!?」

「おわぁっ!?」


 二人から悲鳴が上がる。ケイトは足首を触手に巻きつかれて逆さまに吊られ、オリヴィエは体に巻きつかれて宙に浮いている。オリヴィエの胸が絞り出されているように強調されて目のやり場に困った。普段は気にならなかったけど、思ったより大きいな……じゃなくて!!


「待ってろ、二人とも!」


 半透明な笠の中にトクトクと脈打つ核のようなものが見える。狙いを定め、たっぷりと魔力を込めた矢を放った。光の軌跡を描いた矢は見事核を打ち抜き、しおれた魔物の触手はボトリと二人を落とした。

 よしよし、やっぱり弱点はあの核で合ってるんだな。それさえ分かればこっちのものだ。

 戦っている気配に引き寄せられたのか、同じ魔物がうようよと現れた。あのみずみずしい感じ、もしかすると炎も効果的かもしれない。


「リーファ、遠距離で頼む!」

「まかせてっ! ファイアボールッ!!」


 いくつもの火球が魔物めがけて飛んでいく。魔物達は避けようとしたが、それよりもファイアボールの方がずっと速い。魔物はあっけなく焼かれていった。


「よしっ! ナイスだリーファ!」

「えへへっ、あの魔物ならアタシだけで大丈夫そうだね!」


 魔物は全部倒したが、ケイトとオリヴィエは未だ地面に座り込んでいる。一向に立ちあがろうとしない二人に近づいたところで様子がおかしいことに気づいた。


「あれ、二人とも大丈夫か? 震えてるけど」

「あ、ああああの。からだ、しびれ、て」

「うごけない、ぞぉ……」

「えっ、あの触手って毒でもあったのか!?」


 なんてこった、まずいじゃないか! 解毒薬の類でどうにかなるのか? それとも普通のポーションとか? 焦る俺の横でレイスがしゃがみ込んで二人の様子を見る。


「パラライズか。それなら私でも治せる」

「本当か!」

「容易い。少しばかり魔力の消費が大きいがな」


 レイスが杖を振ると淡い光が二人を包んだ。ケイトもオリヴィエも自分の手を見て握ったり開いたりしている。動けるようになったみたいだな。


「どうなることかと思ったぞ……ありがとな、みんな」

「ありがとうございます。お恥ずかしいところを見せてしまいましたね」

「二人とも無事で良かったよ。あの魔物には近距離で挑まない方がいいみたいだな」


 二人は立ち上がって土埃を払う。改めて洞窟を進んでいった。道中で現れた触手の魔物はことごとくリーファが焼き尽くしていった。俺の出る幕ないな、こりゃ。

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