平原にて
街を出た俺達はまっすぐに初心ノ洞窟がある街、ビギンズへ向かっていた。しかしまあ、なかなかに距離があるな。地図上で見るとそこまで……いや、普通に距離あったわ。
柔らかな草を踏みしめながら平原を歩く。時折出てくる魔物もちゃちゃっと倒せるし、平和といえば平和だ。魔核はそれなりの値段で売れるし懐が潤うんだ。といっても、この辺にいる魔物の魔核だとサイズは小さいし質も良いわけじゃないから安いんだけど。
「そういえば、どうして魔物って魔核を持ってるんだろ?」
リーファがさっき抜き取ったばかりの魔核を眺めながら呟く。
「それ、考えたことなかったな。魔核があれば魔物というか、そういうものだとしか思ってなかった」
たしかに言われてみれば不思議だ。そもそもの話、魔核ってどういう物なのかも知らないな。魔石の代わりになるってことは知ってるけど、それくらいだし。レイスを見ると彼は仕方ないなと言わんばかりに口を開いた。
「諸説あるが、有力な説としては大賢者がもたらした恵と言われている」
「大賢者が?」
「ああ。大昔、人々が争う様を見た彼は人類共通の敵として、そして有益な素材を得るためのものとして魔物を創造した。魔核はその証である……と」
へ〜、そんな説があるのかあ。それが本当ならダンジョンといい魔物といい、大賢者ってこの世界の常識に大きく関わっているんだなあ。
「初めて聞きました。魔物は教義に反する存在です。それが大賢者様の創造物だったなんて……」
「これは私の憶測だが、魔物による被害が大賢者の試練として人々を納得させられないほどに増えたからではないかと思っている。そもそもが人類共通の敵として創造されたものなら、魔物を敵視する教義は理に適っていると言えるが」
大賢者の試練、か。たしかに……大切なものを魔物によって奪われた人が、大賢者の試練だからと言われて納得できるとは思えない。俺だってそうだ。逆に大賢者を恨む可能性だってあるよな。
「っていうか、そもそも大賢者って何者なんだ? そんなすごいことができるなんて魔術師か何か?」
「彼が行ったことは魔術の域を超えている。ダンジョンの仕組みも未だ解明されていないほどだ。大賢者や英雄については出自も明らかになっていないばかりか、不敬であるとして今でも研究してはならないことになっている」
「ふけい?」
「……失礼だからということだ」
「なるほど! レイスさんは物知りだね〜」
一気に場が緩んだ。リーファがいると真面目になりすぎなくて済むからありがたい。
「もっとも、隠れて研究する者はいるだろうがな」
「じゃあ少しは分かってることもあるのか?」
「いや……どうだろうな。仮に見つかっていたとして大々的に発表できない以上、表に出ることはないだろう」
「永遠の謎ってことかあ」
大賢者……大賢者ねえ。大賢者も英雄も気になるけど、研究しちゃダメって言われてるなら変に詮索しない方がいいんだろうな。ヘタに手を出して怒られたくないし。
「そろそろ休憩しようぜ。オイラもう歩き疲れたぞ……」
「そうだな、昼飯にするか。今日は俺が作るからケイトは休んでていいぞ」
「お、いいのか? それじゃあありがたく休ませてもらうぞ」
ヘロヘロになったケイトは大木の影で休むことにしたらしい。そっちの方へふらふらと歩いて行った。
さて、俺が料理を担当することになったわけだけど。何を作ろうかな。あまり手の込んだ物は作れないし、シンプルに焼いた肉とパン、野草のスープかな。
ケイトに借りたフライパンで下味をつけた肉を焼きつつ、同じく借りた鍋でスープを作る。苦めの野草もしっかりと煮てアクを取り除けばまろやかな味になるんだよな。
暫く煮込んでスープは完成。肉もスパイスが効いて良い感じだ。パンに合いそうだな。
「さ、できたぞ……あれ? リーファは?」
いつの間にか姿が見えなくなったリーファを探す。なんならレイスもいないんだけど。
「皆さんならあちらの木陰に」
「あ、ケイトを起こしに行ってるのか? 俺達も行こうか」
「そうですね、行きましょうか」
二人で大木へ向かうと、木の前でレイスが立ち尽くしていた。何やってるんだ?
木の根元に寄りかかって眠るケイトが口をもにゅもにゅさせている。
「むにゃ……レイスゥ、それはまだ出来てな……むにゃ」
「……どんな夢を見ているんだ?」
レイスが呟いたところで「うぅん……」とリーファの声がした。
ケイトの隣で眠るリーファが眉を下げている。いつの間に一緒に寝てたんだ?
「つまみ食いはダメだよぉ、レイスさん……むにゃむにゃ……」
「……なぜ私なんだ」
ぽつんと立ち尽くすレイスが呟いたのがなんだか面白い。どんな夢を見てるのか知らないけど、あの二人の夢に引っ張りだこみたいだ。
「大人気だなっ」
ニッと笑ったところで俺を呼ぶ声が聞こえる。
「エスカァ、それはまだ生煮え……」
「えっ俺も?」
まさか俺まで夢に登場してるとは思わなかった。隣に立つオリヴィエが口元を隠して小さく笑う。
「ふふっ、楽しそうですね」
レイスと一緒に仕方ないなあと笑った。
木漏れ日の中で眠る二人は見ていて癒される。平和の象徴って感じだ。
でも、もう料理はできたからな。ケイトの前にしゃがみ込んで、小さな鼻をつまむ。
「ふがっ」
「起きろー、料理できたぞ」
「ううん……なんだよう、だからそれは生煮えなんだってぇ……」
「それは夢の話な。ほら起きた起きた」
くああ、と大きくあくびしたケイトが体を伸ばす。くしくしと目元を拭っている間に、隣で眠り続けるリーファの肩を揺らす。
「リーファ、起きろー」
「んん……つまみ食いはダメなんだよう……レイスさぁん……」
「どれだけ食い意地張ってるんだよ、夢の中のレイス」
後ろでレイスが苦笑した。目を覚ましたリーファは眠そうな目をぱちぱちと瞬かせて空を見ている。
「あれ、お昼……?」
「昼寝してたからな。ほら、食べに行くぞ」
「ごはん! 食べる〜!」
みんなで揃って焚き火へと戻った。
さて、ケイトの料理に慣れちゃった俺達だけど……俺の料理で満足できるかなあ。そこだけ少し心配だ。
結果から言えば、何の心配もいらなかった。みんな美味しそうに食べてくれたからな。時々ケイトと一緒に料理してたから、少しは腕も上がったかな?




