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宝石

 空は青く澄み渡り、雲は一つも見当たらない。やっぱりあの雷雨は異変の影響だったんだな。

 ダンジョン攻略を終えた俺達は報告がてら戦利品を売りにギルドへ行くことにした。ピュルテ皇国のギルド行くとやっぱり視線が痛いなあ。

 五つの宝石を抜き取り、残りをギルドのカウンターに並べる。レイス曰く、こういった物はギルドを通すよりも直接商人と取引した方が上手くいけば高く売れるらしいけど……俺に交渉術なんてないし、そこまで金に困ってるってワケでもない。それならギルドで売った方が確実にそれなりの金が入る。充分高値だしな。

 裏で精算している間にダンジョンの報告をする。この情報が次いつ使われるかは分からないけど、ちゃんと役立てられるといいな。


「順調なようですね。ネグロのギルドから報告を受けた時にはどうなるかと思いましたが、この調子でダンジョン攻略を頑張ってください」


 なんか一言多くないか? まあいいや。そんなことよりも今の俺にはやりたいことがある。精算が終わって硬貨が入った袋を受け取ったら、いくつもの視線を受けながらギルドを出た。亜人風情とかなんとか聞こえたけど無視無視。


「みんな、先に宿に帰ってもらっていいか?」


 リーファが目を丸くして首を傾げる。


「いいけど、エスカくんは?」

「少し用事があるんだ。すぐ戻るからさ」

「わかった。早く帰ってこいよ!」


 大きく手を振るケイトに小さく手を振り返して、みんなと別れる。さ、行くか。目当ての店を探しながら街を歩く。大体の場所はギルドにあった地図で確認済みだ。

 見つけた店は中々に良さそうな雰囲気をしていた。綺麗に清掃された店内はピカピカと光って見えるほどだ。客はおらず、ショーケースの中では粒揃いの宝石がキラキラと輝いて主人を待ち侘びている。値踏みするような視線に逆らい、カウンターに五つの宝石を置いた。


「このダンジョン産の宝石で、攻略を手伝ってくれたイノセンス達に贈り物がしたいんだ――」


 ……十数分後。俺はたしかな満足感と共に店を出た。相談は上手くいったと言える。イノセンスへの贈り物と言った以上はあの店員が亜人にいい感情を抱いていなくても、そう酷いことにはならないだろう。明日の昼にはできるらしいから昼まで休んで街を出る前に受け取りに来よう。

 ああ、楽しみだな。夕焼け空の下、るんるんと足取り軽く歩き出す。

 宿に帰るとみんなが待っていた。俺が戻ってから夕食にするつもりだったらしい。


「先に食べてくれててよかったのに」

「ダンジョンクリアのお祝いだもん、みんな揃ってからの方がいいでしょ?」

「ほら、座った座った! 今日は厨房を借りてオイラが料理を作ったんだ」


 テーブルにはいろんな料理が大皿で置かれている。各々小皿に取り分けるスタイルか。いろんな国の料理が並んでいて、どれも美味そうだな。

 席について皿を取る。どれにしようかな、やっぱケイトのオムレツは外せないよなあ。あとはステーキと、ポテトと……。

 レイスの分はケイトが取り分けてあげてるみたいだ。全員が取り分け終えたら、各々が思い思いの料理を口にした。


「ん〜っ、おいひ〜!!」


 リーファは頬を押さえてうっとりと幸せそうにしている。やっぱり温かいものが好きなんだろうな。彼女の皿はホカホカと湯気を立てている。


「うんっ、今日も美味くできてるぞ」


 ケイトは獣王国の料理をメインに、他国の料理もバランス良く皿に取ってるな。やっぱりというかオムレツが多めだ。


「優しくて落ち着く味ですね……ふふ、オリーブの枝が恋しくなります」


 オリヴィエは豆のスープを美味しそうに飲んでいる。孤児院で教わったレシピを使ったのかな?

 そしてレイスは黙々と食べている。なんというか……体格に対して少食だな。野菜をメインに栄養バランスに気を使った取り方をしているように見える。


「そういえば……レイス、好きな料理は見つかったか?」

「……好きな料理か。そうだな」


 レイスは具沢山のスープが入った器を見下ろす。


「ポトフと言ったか。この煮込み料理が特に気に入った」

「それはピュルテ皇国の家庭料理らしいぞ。肉と野菜をたっぷり入れて長く煮込むんだ」


 へー、スープっていうより煮込み料理かな? 俺も食べてみようかな。食べ応えがありそうだ。

 ゆっくりと時間が過ぎていく。その日は腹一杯になるまで料理を楽しんでぐっすりと休んだ。


 翌朝。鳥の声で目が覚める。体を起こすとレイスが椅子に座って本を読んでいた。ケイトは布団の中で丸くなって寝ている。

 まだ時間はあるしな。ケイトを起こさないようにベッドから出る。


「おはよう、レイス」

「ああ、おはよう」

「ほいっ、クシと結び紐かして」


 レイスは寝る時に髪を解く。でも腕がない今、自力で結ぶことができないから俺が結ぶことにしてるんだ。

 深い青色の結び紐を受け取り、クシで長い髪をとかす。かなりサラサラしてんなあ。


「思ったんだけどさ、髪切ったりしないのか?」

「腕を失った今、私の保有魔力量は落ちている。髪が蓄えられる魔力量は僅かだが無いよりはマシだ。切るつもりはない」

「あー、そういう理由だったのか」

「……すまないな、いつも結ばせて」


 どこか沈んだ声だ。レイスって分かりにくいと思ってたけど、意外と分かりやすいところもある。


「別に嫌ってわけじゃないから気にするなよ。なあ、この結び紐にも何か意味ってあるのか?」

「それは……」


 レイスは少し黙った後、優しい声で話し始めた。


「……弟の形見だ。彼が栞につけていた紐をそのまま使っている」

「形見? それって」


 髪をまとめていた手が止まった。レイスは本を閉じると机に置き、その表紙を指先でなぞりながら続ける。


「弟は二十五年前に自ら命を絶った」

「……そうか」

「私が殺したようなものだった。だから私は……自戒の意も込めて、その結び紐を使い続けている」


 まずいこと聞いちゃったかな。でも、話してくれたってことは話していいって思ってくれたってことだし……仲間のことを知るのは良いことだよな。

 にしても、そうか。レイスは弟を亡くしていたのか。


「家族を喪った人が集まってるんだな、このパーティは」


 リーファは母親を、ケイトは姉を、オリヴィエは母親を、そしてレイスは弟を。俺も家族同然だった村のみんなを喪っている。


「……はい、結べた。そろそろ朝食の時間かな」

「そうだな」

「お茶だけじゃなくてちゃんと食べろよ、身長の割に細いんだからさ」

「分かっている」


 ベッドに近づき、布団をめくる。丸まっていたケイトがますます体を丸くした。


「おーい、起きろー」


 ほっぺをぷにぷにとつつく。鼻をちょんと触ると、ムズムズするのか口を大きく開けた。


「っくち! んぁ、なんだよう……」

「もう朝だぞ」


 目をこしこしと擦りながら体を起こしたケイトは、ふああと大きくあくびする。開ききっていない目をぱちぱちして口をもにゅもにゅさせている。あー、見てて癒されるなあ。

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