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*完結* 大海の冒険者~人魚の伝説~  作者: terra.
第三話 鋒
41/187

(20)




 (いかだ)に乗る子ども達は、まるで泡が弾けたように海に現れた漁船に声を上げる。

その横に立つグリフィンは声を失い、唖然としていた。

先程まで点滅していた現象はなくなり、漁船は大人しく優雅に浮かんでいるではないか。




 輪郭は見えなかったが、確かに漁船の周りを何かが覆っていたに違いない。

それが陽光を受け、銀に光りながら海へ煌びやかに落ち、消えていく。

何らかの欠片が飛散する様子は、流星を思わせる程の美しさだが、その現象こそが身震いを催してならない。




 そしてまた、その豹変振りに足先から一気に悪寒がする。

子ども達は戻ってくる漁船の様子が分かるや否や、悲鳴交じりの声を上げ続けた。

その姿は緑の汚れや傷に酷く塗れ、帆が落ちた幽霊船に等しい。






 島では、別の船が戻ってきたと騒ぎになる。

しかし、どう見ても乗船しているのはここの漁師達と4人だ。

彼等は殆ど、転倒による打撲までに留まったものの、体は緑の返り血に塗れ、顔は疲労に満ちている。




「何があった!?」




それに、見知らぬ老人がいるのはどういう訳かと、人々は次から次へと度肝を抜かれる一方だ。




 漁船の脇から、ジェットスキーで飛び出したグレンとレックスが現れる。

先にグレンが着くと、乗っていたそれを放り出してレックスの元に駆けた。






 顔色が悪く、大量の汗を滲ませるレックスは、右足に深傷を負っている。

巨大な人魚の爪痕は焼けるように熱く、激痛は眩暈まで発症させていた。




「掴まれ!」




グレンや他の住民が寄って(たか)るも、彼は発言するのもやっとのところ。

今すぐにでも足を切り落としたい程の激痛に、患部からは毒々しい人魚の血が滲み、沸々と細かな泡が弾けていた。




「ああ…バケモンになっちまう前に、いざって時は

躊躇うなよ……」




苦痛の表情に失笑を僅かに滲ませながら絞り出すが、とんでもないと皆は首を振り、彼を両側から支えて運び出す。




「こんな時に冗談言うな!」






 叩くようにグレンが言う最中、レックスは浅瀬から浜に引き上げられた。

しかし、継続的に襲う激痛は彼の体勢を強制的に崩させ、膝から落ちてしまう。

視界がぼやけ、人々の騒ぎ声は遠ざかっていくと、とうとうその場で気を失ってしまった。




 それに追いつくように、悍ましい容姿と化した漁船が浜に振動を起こしながら到着する。

船体には、見るに堪えない血や傷の他、銀色の鱗も大量に付着していた。






 この状況に不釣り合いな穏やかな潮風は、島を包む植物や林の合間を縫って爽やかな音を鳴らす。

どこかから香る料理や花の匂いも、今は誰1人感じるどころではない。

その頃、隣の孤島からグリフィン達の筏が到着すると、彼等は収穫物も放り出したまま、皆の元に駆けつけた。

そこから、浜を撫でる波に1輪、ピンク色の柔らかな花がふわりと落ち、陽光と共に揉まれた。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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