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 フィオは、人魚に睨まれている事を恐れて小さく数歩後退(あとずさ)る。

先程まで感じた訴えのようなものはもう、今は何も聞こえなくなっているが、互いの顔をずっと見合っているままだ。




 弱った人魚の重さは、負傷によって脱力している影響もあり、漁船にいる人数でも支えるのがやっとだった。

海へ返すには、その肩に貫通している槍1本だと不安定な状態にあり、マージェスは渋々、これまで逃がしてきた通り尾鰭の根元付近を掴むと、体重を分散させていく。

カイルが槍を先頭で支えながら頷く背後で、同じように槍を支える4人は苦い表情をした。

散々戦ってきたとは言え、見るに耐えない。






 濁声(だみごえ)を出し続ける人魚のオレンジの眼は、フィオに腕をぴんと伸ばしている。

カイルとマージェスに下がるよう言われた彼女だが、やはり気になってしまう。

恐ろしく、直ちに消えてもらいたいところだが、現れた目的や自分を見てくる理由が何なのか、知りたくてならない。






 マージェスがカイルのすぐ傍のビクターに手を貸すよう頼むと、彼は、発声する以外にすっかり抵抗できなくなった人魚の下半身を両手で抱える。

鏡の鱗の感触は固く、冷たい。

そこにまじまじと目をやると、人魚の緑の血で汚れた自分の姿や顔でみっちり埋め尽くされていた。




 後の3人は引き下がりながら、彼等の様子を窺う。

船室付近で立ち尽くしていた南の老人も、背筋を凍らせながら東の者達の機敏さに圧倒されていた。






 人魚が船縁に近付いた時、これまでに無い大きな悲鳴が漁船内に轟いた。

周囲は思わず耳を塞いだが、それを支える3人は庇う事などできず、一時、目が眩む。




「何てこった!ったく、二度と来るなよ」




カイルは耳を痛める中、マージェスとビクターと掛け声に合わせてそれを海に投げ捨てた。

落下と共に再び泣き叫ぶ声が尾を引くように上がる。

頭痛を呼び起こす程のそれは、今にも天を貫く程だ。






 「「!?」」




その声に、海上を走るレックスとグレンも驚く。

遥か高い上空に、まるで弾丸が撃ち込まれたような亀裂が走った。

歪な空間は突如、新たに入った亀裂から、辺りに走る細かな割れ目に繋がっていく。

景色はみるみる、ヒビ割れで覆われ始めた。




 ジェットスキーを追う人魚の群が、忽ち悲鳴を上げる。

それが重ね合わさる事で、更に亀裂が多発した。

皆、キンと突くような声に耳を塞ぐ。

天から周囲にかけて稲妻の如く、細く細やかな銀の線が無数に空間に描かれていく時、取り囲む荒んだ景色は途端、瞬く間に大破し、本来照りつける陽光を受けた破片が飛散した。




煌びやかに降り注ぐそれらと共に、人魚や歪な風景は、吹きつける温かな風に払拭され、消えた。

辺りには、美しい光の水面を広げる大海原が(ようや)く、皆を温かく迎え入れた。








代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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