(18)
海上で切羽詰まる2人を気にしていた漁船の皆は、宙が割れ始める現象に騒ぎ立てる。
「本当は晴れてるのか!?」
ビクターが真上の大きな亀裂を仰ぐと、船首に駆け登って周囲を見渡した。
漁船は進んでいるが、風景は変わっていない。
先程見た岩がまた接近してきており、まるで桶の中を回っているようだ。
だがその壁も、直に壊されようとしている。
完全に破壊するにはまだ力が足りないのか。
奇妙な空間からの脱出に難航する最中、シェナが顰め面を浮かべて柱の人魚に向かう。
それを見たフィオも後を追った。
「ちょとあんた!あたし達をどうしようっての!?
この状況、どうにかしなさいよ!
何か言ってみなさい!」
シェナの鋭い声に乗せられた感情に合わせ、火に当たるような温かい突風が吹きつけた。
柱の人魚の尾鰭が激しく揺れ、嗄れ声を搾り出しながら苦しみを訴える。
真下の緑の血溜まりにその姿を映し、滴る流血に輪郭を歪めた。
フィオは、人魚に刺さった槍に触れる。
怖い。怖いのだが、放っておけなくて仕方がない。
シェナがそれに驚き、彼女の名を放つ。
その叫びに合わせて次は冷たい突風が吹き、人魚の尾鰭や船内の者達の髪など、靡くもの全てを横殴りにした。
「返そう!返してって言ってる!」
「何言ってんだ、さっきから!」
ジェドが慌てて槍に触れるフィオの肩を掴み、人魚から引き離す。
「嬢ちゃんあんた、そいつの言ってる事が分かるのか!?」
南から来た老人は目を丸くさせた。
「そんな気が……
でも…でも言っている事がどうとかじゃない!
早く返してあげよう!
だって、彼等の居場所は陸じゃない!苦しそうよ!」
フィオは固く突き刺さった槍を再び握ると、引き抜こうと全身に力を加える。
そこにカイルとマージェス、他の3人も加わった。
激痛に悲鳴を上げる人魚。
カイルが投擲した最長まで伸ばされた槍により、暴れる鋭い爪を持つ両手から、辛うじて距離ができていた。
前方に大人2人、その後方に4人が並び、引き抜く動作を繰り返す。
やがて、柱から軋む音がし始めた。
木屑が落ちながら、減り込む先端が直に顔を出そうとする。
槍には人魚の重みが圧し掛かり始めた。
相手が抵抗する事で激しく振られ、握力が分散する最中、やっと人魚が柱から落ちた。
肩に槍を残したまま、弱々しい威嚇を見せる。
定まらないオレンジの眼球を泳がせる光景に、一同は僅かに身を引いた。
鋭利に光る汚れた尾鰭。
床に叩きつける傍から、細かい鱗が飛び散った。
「これ…こいつらの……
昨日からこの辺にいたのか…!?」
ジェドは、昨日の漁で引き上げた網に大量に付着していたそれらに、煩わしい思いをした事が過ぎる。
高低差をつける人魚の悲鳴は、床に爪を立てる音と重なると引っ掻きながら、身を前進させてきた。
その先にはやはり、フィオが立っていた。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




