(3)
第八話 秘(2)
ビクター「どっか歩いてたんだよな。
で、音が聞こえたんだよ。
何か……ringて……こう……
何かもっとting-a-lingだ。
分かるだろ!?」
ジェド 「何だよそれ!分かるか!」
ビクター「ああもう!分かれよ!」
※1320字でお送りします。
老いた青い目は瞬きも忘れ、白髪の下で炎と共に震えている。
束の間だろうが、杖を手放せる生活を送れるようになった。
再び贈られたそれは、いつか解けてしまうのか定かでない、竜の精霊の魔法によるものだ。
時に任せて、再び老い直すという事か。
あの眩しい、オーロラのような衣を纏う空島の女王リヴィアは、わざわざそれを告げる事などしなかった。
得たのは足腰の強さだけではない。
話す勢いも、頭の回りも以前に比べて優れている。
この感覚は、現役を引退する前に近いものがあった。
以前よりもましな体である内に、思考を巡らせたかった。
僅かながら知っている事実を、いつ、どのようにあの子達に打ち明けるべきかと。
遅いのかもしれない。
もっと早い方がよかったのかもしれない。
今日まで、あの子達について考えなかった事はない。
彼等は日々の生活の多くを、笑いながら和気藹々と過ごしてきた。
自分は、それに甘え過ぎている。
4人の身に起きた事は、実際にこの目にした出来事もあれば、謎めいているが故に推測までに留まっている事も多い。
フィオは島で生まれたというのに、父親の存在は分かっていても、母親が分からない。
思い出せないという歪な現象は、ある部分の記憶だけ、故意に切り取られているようだ。
消されているというならば、決して綺麗ではない。
敢えて、もっと別の何かに振り向かせようとでもするようにも取れる。
ボートで父親と漂流していたジェドの一件は、本人に事を話すよりも先に、マージェスの精神状態を安定させる事を優先した。
彼は己が招いた事である以上、自らの口で打ち明けたいと希望しているが、時は経過しつつある。
そうすぐに腹を割って切り出せるような事ではないと、誰しもが分かっていた。
しかしマージェスはどうしてもと、共に話そうとする自分や仲間を止めた。
瓦礫と共に流れ着いたシェナは一体、どこの誰なのか。
本人は以前の記憶を失くし、未だ思い出せずにいる。
いつかは、どこかへ帰らせてやらなければならないのだろうか。
西にも南にも、未だ彼女を知る者はおらず、探しに現れる者もいない。
体に部分的に残る奇妙な跡の事を考えても、ここで共に暮らし続けている方がいいのではないかとも思う。
煌々と朱く灯る目を伏せた時、瞳は青さを増した。
老いた手は、掴んでいた木箱の蓋を僅かに開く。
中ではコツンと静かに音が転がると、寂し気に、たった1つringと鳴った。
透視能力を持つ海の神、シャンディアを迎え入れた時から、半ば恐ろしくてならない。
彼女は4人の全てを見通し、把握しているだろう。
また彼等に限らず、自分自身を含む島の者の事も。
彼女は優しいだろうが、警戒を解く事はできなかった。
秘められたものを紐解く事は時に、本人やその周囲、世界をも変えてしまう。
紐解いた先に見えるものが果たして、鮮やかか否か。
個々により異なるそれは、場合によって引き金と化す。
どうか、自分達人間が下す判断が鈍かれ、手際が悪かれ、あの子達の心が強引に掘り起こされぬ事がないようにだけ願いたい。
間違っても、あの子達を失ってしまわないように。
決してここから、世界から、いなくなるような事がないように。
長老は心の中で呟き終えると、手元の箱に、ビクターの影を落とした。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




