第2章6話 昨日の敵は今日から仲間?
「さぁカザト君。もうこれで動けますよ。エイクック君、君はエミリさんの方を…」
「はい。マスラ様」
エイクックはそうマスラに指示された通りエミリへと近付く。
だが、
「ちょ、ちょっとまって。そんな手で触らないでよ!?」
エミリはエイクックが先程までカザトのご子息に突っ込んでいた右手の指を見ながら拒否をした。
「……」
エイクックはちょっと寂しそうな顔をした。
一定のニコニコ顔で感情を読み取ることがしにくく、無感情と思われがちなエイクックであるが彼も立派に感情はあるのだ。
「えぇ~、なんですか?もしかして汚いとか言うんですか?エイクック君の指先に付いているのは、いわばカザト君のお子さんですよ?あなた、市議会であれだけ子育てに関する件で力を入れているというのに子供が嫌いだっているんですか?」
「そういう問題じゃねぇよ!あ、エイクックさんごめんなさいね?貴方の事を嫌っている訳ではないんですよ?」
エミリはエイクックの僅かな表情の変化。悲しそうな笑みを感じ取り慌てて謝る。
「あぁ、エミリさんは王子様を求めているんですぁ?もぅ、やっぱり女の子は幾つになっても女の子ですねぇ。うひひ、囚われの姫ですからねぇ…、では僭越ながら私が…」
「お前は来るなクズ教師!!」
「えぇ~…、では残っている男性は…」
マスラはカザトの方を見るが、カザトは倒れたまま泣いていた。
「うぅ…ひっく…うぅぅ…」
もう自尊心がズタズタのボロボロであった。
ただ静かに顔を手で隠して泣くしかしていない。
「ダメなようですねぇ…」
「ルイさん…お願いします…」
エミリがそう言うと、
「はい」
と、ルイはスタスタとエミリの傍へと向かって行った。
この一連の流れにマスラは驚愕した表情を見せ、
「えっ…!?まさかの!?いやぁ~マミさんと一緒にいる時の雰囲気から察するに怪しいと思っていましたが、まさかそういうご趣味でしたか~。いやぁ~ゆりゆりでしたかぁ~」
「もうお前は黙ってろよ!!」
エミリは我慢ならずマスラに怒鳴る。
そしてエミリはルイによって拘束を解かれた後、キッとマスラを睨み、
「で、この後どうすんですの?そいつの記憶消すのかしら?」
と、カザトを睨みながら言った。
ちょっとやさぐれてしまっている。
一方カザトはというと、
「もう…いっそのこと殺してくれぇ…」
と、か細い声で懇願している。
「いえいえ、記憶を消すなんてそんなもったいない事はしませんよ?この子は私のお気に入りになったんですからぁ」
「ひっ!?」
マスラのその一言に恐怖を感じたカザトは顔を青くした。
マスラは今まで異常に笑顔を作り、カザトへと近付く。そして選択肢を提示した。
「さて、君には選択肢を与えよう。
一つ目は、私の気まぐれでエイクック君が君に対して先ほど行った生命の神秘探検ツアーを定期的に行われるか。
二つ目は、私の部下となり働くか…。
もちろん二つ目を選んだ場合給料は出ますし、薬の件も黙っていてあげますよ?更に特典として、頭がおかしくなった教師イソダとナカガワ・ヒジリを元に戻します。そして、ナカガワ・ヒジリを留置所から出して普通に生活させ、君の子供を出産させてあげましょう…。教師イソダにはしばらく刑務所の中で生活させ、死刑執行直前に子供が君の子供である事を伝えましょう。それを私と二人で一緒に見るんです!」
マスラにそう言われ、死んだ魚のような目をしていたカザトの目に光が差し込む。
実際に選択肢が無い選択肢であるが、カザトにとって二つ目の選択肢は魅力的なものであった。
なによりももう二度と『生命の神秘探検ツアー』など経験したくはない。
「そ、それは本当か?その二番目の選択肢は俺の復讐に協力してくれると言っているように聞こえるぞ!」
カザトは必死になって聞き返した。
「えぇ、勿論その通りです。更に子供が思春期に突入したタイミングでナカガワ・ヒジリ本人にも伝えてあげましょう。きっと面白い事になるでしょうね。自分と愛した教師の子供だと思っていた存在が、実は全く違う男の子供だったなんて…どう反応するんでしょうねぇ~」
「悪趣味ね…」
エミリはそう吐き捨てた。
それを聞き取ったマスラは憤慨し、
「なにを言いますか!彼は希望なんですよ!?全世界のNTRの屈辱を味わった男子の!!彼の正義が世界を変える一歩となるんです!!これは使命なんです!」
「そんな夢も希望も無い正義なんてお断りよ!!」
と、エミリは言った後、疲れきったかのように先ほどまで拘束されていた椅子へと座り込む。
一方カザトは、
「……その話、乗せてくれ!いや、こちらから是非頼む!!二つ目の選択肢を!!」
と、マスラに縋りつきながら言った。
カザトにとって一つ目の選択肢の恐怖。そして二つ目を選べば明らかに自分が行ってきた活動が無意味にならずに済むどころか成功率が上がるのだ。
これは二つ目の選択肢を選ぶしかない。
「うひひひひ。君ならそう言うと思っていました。いいでしょう、君の人生をかけた壮大な復讐劇に全力で力を貸しましょう!」
「あ、ありがとうございます!!」
カザトは地面に頭を擦りつけるほど下げながらお礼の言葉を言った。
「うひひひひ。いいんですよぉ~、うひひひひ」
「はぁ~…絶対楽しんでるよ、このゴミ教師…」
エミリはそう言って溜息を吐き、目頭を押さえていた。
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翌日。
マルカワ軍需品研究所。所長室。
「え!?それで解決して今はマスラ先生の所でアルバイトをしているんですか!?」
と、マミは驚きながらカザトの方を見た。
「はい。そうですよね?カザト君」
マスラはそうにこやかにカザトの方を見ながら言った。
「はい、マスラ所長。貴方のありがたい説教により、私は改心させられました!」
と、カザトは言う。
「……」
それを横目で見ていたエミリは呆れ顔だ。
この日、エミリと一緒に研究所へ訪れたマミに対してマスラは事実とは違う説明をした。
・カザトは違法薬物ではなく、現在では合法の薬物を取り扱っていた。
・カザトはエミリの事が好きであったが、見事振られてしまった。
以上の嘘を伝えた。
ちなみにマスラ達は昨日のあの後は大忙しだった。
・カザトの仲間や取引相手の記憶操作。
・カザトへ麻薬を売っていた大元の組織との繋がりを絶つ。
・教師イソダとナカガワ・ヒジリを正常な性格へと戻す。
・ナカガワ・ヒジリが教師イソダと一緒にシマザキ・ユカを殺したという記憶や事実の隠蔽。全て教師イソダのせいにする。
・ハヤセ・カザトに自分達の正体を明かす。
・念の為ハヤセ・カザトの脳内を改造し、マスラ達の情報を外部に伝えられないようにする。
まぁ、大忙しと言えど、カザトの仲間や取引相手、教師イソダ達はカザトの脳内から記憶を読み取り、研究所のマスラの部下達に飛び回ってもらった。
苦労したのはマスラ達の正体をカザトに説明している時だ。
カザトはずっと興奮しっぱなしでなかなかと先に進まなかった。
その興奮は恐怖から来るものではなく、年相応の男の子が見せるような憧れ的なものだった。
そんなこんなで事態がゆる~く纏まり、マスラは非常に満足していた。
「いや~、しっかしエミリはモテるねぇ~」
と、しみじみと言うマミ。
「これだけの美人さんであればモテるに決まっているよ」
今度はお茶出しを終えて今は一緒に座っているカザトが言った。。
「ふふふ。いくら違法ではないからと言ってお薬をやっている人とは付き合えませんってエミリさんに言われてしまった時は可哀想でしたが、薬を止めた今はチャンスかもしれませんよ?」
マスラがそう言うと、
「ありえませんからご安心を」
と、エミリは冷たく言い放った。
「ありゃりゃ…これはなかなかと厳しいですねぇ」
マスラはそう言ってカザトを見るとカザトは苦笑いをしていた。
その表情は若干依然とは違い憑き物が落ちたかのように柔らかなものであった。
「ともかく、これで学校からは薬が消え、平和になるでしょう。マミさん?もうこんな危ない事をしちゃだめですよ?」
と、マスラは注意するが、
「でも、その危なさで今回私は救われたわ。不本意ですが、お礼を言います。ありがとう」
そうエミリがマミへ言った。
「「………」」
「な、なによ!」
エミリはマミとマスラが驚愕した表情をしていることに気付き、問いかける。
「「デレたーーーーーーーー!!?!??!」」
「黙れバカ共!!!」
マスラとマミ。そしてエミリの声が研究所に響き渡った。
「んもぅ。そんなに怒っちゃ嫌よ?エミリちゃん」
「そうですよぉ~。怒ってばかりでは人生損をしてしまいます」
「くっ…こいつら…」
エミリは怒りでプルプル震えている。
ここでマミはこれ以上エミリを怒らせたら拙いと思ったのか、話題を変えることにした。
「それよりもマスラさん。マスラさんって説得するのが上手いですね!なにかコツがあるんですか?」
そう言ってちょっとだけ尊敬の眼差しをするマミ。
「え?う~ん、そうですねぇ…」
いきなりそんな質問をされたマスラはちょっと考え込む。
「コツ…ですか…?あっ!」
そして、昨日マミが駆け込んできてとある事を言っていた時のことを思い出す。
マミもマスラの何か思いついたような仕草と言葉で回答に期待を寄せる。
マスラは真っ直ぐマミの方を笑顔を作りながら見て、
「コツは…簡単な事ですよ―――」
マミどころかエミリもちょっとだけ回答を期待する。
そしてウインクをしながら右手の人差し指を立ててこう言った。
「ふふふ、マミさんと同じです。"たまたま"です」




