第2章3話 マミの調査
翌々日。
地球で言うところの土曜日。
この世界の一週間は微妙に日本違う。
まず、一週間は7日という点は一緒である。週に2日休みが連続してあるという点も同じ。
だが、決定的に違う点は、一週間が日本感覚で言うと、月曜日から始まるのだ。
それはさておき、今日は普段であるならば世間様は休日。
だが、マスラは研究所に居た。
無論、研究所も本来であれば休日である。
休日出勤をしている者も居る。だが、マスラは特に仕事があるわけではないのに研究所に居た。
単にここ意外に行くところが無いのである。
この惑星に来てまだ1週間ちょっと。この世界に慣れても居ないし、この世界の文化も知りたいとも思っていなかったマスラは研究所で適当に過ごしていた方が気楽であったのだ。
研究所に来ても何もする事がないマスラは、リラックスをしながら窓の外を見て自身の顔面の骨格を変えて遊んでいた。すると…。
「まーすーらーさーん!」
と、扉の向こうから聞き覚えのある声を上げながら迫ってくるのを感じた。
慌てて顔を元に戻すマスラ。
バタン!
扉は勢い良く開けられた。
マスラの顔面は元に戻っている。間に合ったのだ。
「マミさん…どうしたんですか?今日は休日ですよ?」
内心慌てていたがそれを表情に出さないマスラは、部屋に入ってきたマミに問いかける。
「た、大変なんです!麻薬を学校に売りさばいていた犯人が分かりました!」
「……」
マスラは開いた口がふさがらなかった。
先ほど慌てていた事を顔に出さなかったマスラの表情をいとも簡単にマミは打ち破ったのだ。
「なぜ…貴方はそこまで危ない橋を渡ろうとするのですか…?」
やっと出た言葉がそれであった。
「いあ~偶然ですよ。偶然」
なぜか顔を赤くして恥ずかしがるマミ。
別にマスラは褒めたつもりで言ったわけではない。
「昨日の放課後に、"たまたま"旧校舎に居たんですよ!"たまたま"ですよ?"たまたま"」
「ふ~む」
マスラは"たまたま"を連呼する若い女学生の光景を見て感心したような唸り声を出す。
ちょっとこの光景が気に入ったらしい。
「そして、その時に―――」
と、マミはマスラが頼んでもいないのに話を始めた。
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昨日。マミは放課後旧校舎に居た。
理由は簡単。麻薬の売買は学校でされていると噂があったので、もしかしたら麻薬の売人がこの旧校舎に現れるかもしれない。と思ったからだ。
ここならば人目につきにくい。
エミリも一緒に誘ったのだが、
「もしかして、貴方は頭がおかしいのかしら?あ、ごめんなさい聞くまでもなかったわね…」
と、言われ先に帰ってしまった。
仕方が無いので、マミは一人で一番上の階からカーテンの裏に隠れて下を覗く。
普段は使われていない旧校舎。
中はボロボロ。殆どの教室は倉庫代わり。旧校舎は現在そんな状態であった。
しばらく見張っていると、
「むむ!?」
マミは見た。旧校舎に入ってくる男女を。二人とも学生だ…。
「よ~し…」
マミは足音が出ないように気をつけながら下の階を階段の上から覗く。
どうやら上の階には上がってこず、一階に二人とも居るようだ。
「(さて…二人ともどこ行った?)」
マミは男女二人を探す。
「(ん?)」
声が聞こえた。
場所を特定しようと耳を澄ませると…、
「あっ―――!あっ―――!」
そんな声が聞こえてきた。
「(もう薬を使っているの!?)」
そう思って進んでいくと、『保健室』と書かれた部屋に到着した。
明らかに声はその保健室から聞こえている。
「(さて…、中でどんな事が…)」
薬を使っている現場を見ることができると思ったマミは意を決して少し開いていた保健室の扉から中を覗くと…。
「あっぁっあっぁっぁっ」
「っっうっ!」
「(……………)」
中では男女がイケナイ事をしていた。
「(…は!?って、あわわわわわわわわわ)」
一瞬フリーズしていたマミは慌てて保健室から離れる。
「(旧校舎ってこんな使われ方もしてるの!?)」
と、マミは顔を赤くしながら校舎を出ようとした。
「(もう帰ろう…)」
マミはそう思って玄関へと近付いた。
が、
「よし、いいぞ入れ」
「はい」
玄関の方から声が聞こえた。
「!?」
マミは慌てて物陰に隠れる。
隙間から見てみると男が五人。この学校の生徒のようだ。
「中には誰も居ないようだな…」
「これでようやく買う事ができる…」
と、口々に男子生徒は言っていた。すると、
「あん?おい、向こうの方で声が聞こえるぞ」
一人の男子学生がそう言ってマミの隠れている方向を指差した。
マミは一瞬ドキッとしたが、
「あぁ…気にするな。いつもの事だ。保健室で男女が運動会しているだけだよ」
と、左目の部分を前髪で隠したひょろっとした男子生徒がそう言った。
その男子生徒は他の4人と比べて一番背が小さかったが、なぜか一番態度がでかい。
「ふはは。マジかよ」
別の男子がそう言っていやらしい笑みを浮かべている。
「まぁ、やつ等の声が俺達の声を消してくれるさ。行くぞ」
そうひょろっとした男子がそう言い、他の男子生徒達も後から付いていった。
「(今度こそ…怪しい!)」
マミはそう思い、男子生徒達の後ろを付いて行った。
場所は2階の教室。廊下の周りは背丈ほど詰まれたダンボールが無作為に並んでいた。
教室の中に男子生徒達は全員入っていく。
マミは教室の両扉の間にあった大きな布がかけられた長机に潜り込む。長机はマミの体がすっぽりと入るくらいの大きさだ。
長机の下にはマミが思ったとおり小さな扉があった。引き戸タイプである。
何の扉か分からないが、今回聞き耳を立てる際に役に立つだろう。
丁度扉も少し開いているので、声も聞きやすいだろう。
そして、中に居たリーダー格と思われるひょろっとした男子が、
「おい。お前は見張りだ」
と、体格の良い男子生徒に命令をする。
「(今更かいっ!!)」
と、マミは突っ込みをする。
どうやら彼等は結構なお間抜け集団なようだ。
男子生徒達は見張りの男が行った事を確認すると、眼鏡をかけたいかにもまじめ君という風貌の男子生徒が最初に口を開いた。
「お忙しそうですねぇ…。イソダ先生達が居なくなってから貴方がわざわざ販売をしなくてはならなくなったとは…」
と、溜息を吐きながら言った。
「あぁ、全くだよ。何をトチ狂ったか、販売所のこともあいつ等は喋ったらしくてな…。もうあそこで売る事ができん!」
と、ヒョロ男は怒りで顔をゆがませながら言った。
「新たな売人はいつ頃用意できるんですか?」
「具体的な日程はわからん。だが、直ぐに用意する。一人、いい役を見つけてね…」
「へぇ。それはどんな奴なんです?」
「二年の『ナカグラ・エミリ』だ」
「(!?)」
思わぬ名前が出てきた事にマミは驚く。
「ん?確か二年の中で二年美人4天王に数えられている奴でしょ?好きですねぇ~。確か捕まった"ナカガワ"もその中の一人だったような…」
ナカガワ。教師イソダと一緒に捕まった教師イソダの女『ナカガワ・ヒジリ』である。
「チッ。あぁ。あいつはイソダの女だったから常にベッタリくっ付いてた。あの馬鹿、だから一緒に捕まったんだ…。今回はナカグラ・エミリを薬漬けにして売人にさせる作戦だ」
「(エミリちゃんを薬漬けですって!?許せない!!)」
静かに話を聞いていたマミは段々と怒りが溜まってきた。
「で、なんでわざわざ女なんです?」
「決まってるだろ?理由は他と殆ど交友関係が無い。まじめだから薬の売人だと誰も思わない。それに美人だから調教のし甲斐がある。だ」
「くははっ!最後のは完全にあなたの趣味じゃないですか」
「ふんっ。その位の楽しみがあっても良いだろ?」
ゲスである。ゲス達の馬鹿みたいな会話がマミの耳を汚染させた。
マミには怒りしか湧かなかった。
「おい。アレを持って来い!」
「ヘイ!」
「(ん?あ、あれは!)」
マミは決定的なモノを見た。
「それじゃぁ、今回の薬だ」
「はい、ありがとうございます。ではこちらを…」
ヒョロ男が透明な袋に沢山の子袋に分けられた白い粉を。眼鏡が膨らんだ茶封筒をお互いに渡した。
パラパラパラ。
ヒョロ男は封筒からなんと札束を出して数えだした。
マミは目を見開いてその現金の束を凝視する。
「ふむふむ。重さは丁度良いですし…ペロッ。ふむ、純度も良さそうですねぇ」
と、眼鏡の男は持ってきた計量機械で重さを量り、中に入っている粉を舐めた。
「では、取引成立だな」
ヒョロ男がそう言うと、
「えぇ、ではまた次回…」
と、眼鏡は鞄に薬を入れて出て行った。
「よし、行くぞ…」
ヒョロ男がそう言うと、全員教室から出て行った。
「(これは早速エリカに伝えなきゃ…)」
マミは今回は慎重に周りを見ながら一階に降りた。
外を見ると、例の5人は旧校舎から出て、真っ直ぐ新校舎へと向かって行った。
「(よし、後は見つからないように…。その後急いでエミリに知らせなきゃ…あれ?)」
1階まで降りた時にマミは思い出す。
エミリは先に帰ってしまった。
そして、マミはエミリの住所や携帯電話の連絡先をしらない。
「(あ~!!!!)」
やってしまった。と、マミは愕然とした。
「どうしよう…」
明日は土曜日(地球で言うところの)。エミリに伝える事が出来ない。
マミは頭を悩ませてしまった。
旧校舎の廊下では虚しく保健室から聞こえる男女の運動会の声が聞こえた。
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「で、昨日の夕方マスラさんならエミリの連絡先を知ってると思って来たのにマスラさん居ないし!」
と、マミはプリプリと怒っている。
そして一通り話をした後、ルイが途中で持ってきた紅茶を一気に飲み干していた。
「昨日は貴方のお父さんと基地でお話していましたからねぇ」
マスラはそう言って遠い目をした。
昨日の夕方はマミの父、モチダ大佐に研究所で作成した武器の説明をしていたのだ。モチダ大佐は大変喜んでいたが、それはともかくマスラが遠い目をしていた理由。それは、
「え?何でわざわざそんな危ない橋を渡る真似するんです?」
と、マミへ対しての呆れだった。
その呆れからくるマスラの質問に対し、
「事件が私を呼んでいるのです!」
と、マミは拳を自身の手前で握り締めながら言った。
「どこのマスコミですか…貴方は…」
マスラは首をガクッと下げながらそう言った。
「分かりました。エミリさんには私から伝えておきます。それでいいでしょう?」
「ちゃんと私が調べたって事を強調してくださいね!」
「はいはい。では、ちゃんと伝えますので、もう二度とこんな危険なことしないで下さい。そうしないと分かるまでここで教育しますよ!」
※訳:この研究所で脳みそを直接いじくってしまいますよ!
「え~…勉強は嫌だなぁ」
と、マスラの言った意図を理解せず嫌がるマミ。いや、この場合マスラの本音が出ていないので気付くわけが無い…。
「まったく…。では、貴方はもう帰りなさい」
「は~い」
マスラに促されマミは素直に返事をして所長室を出て行った。




