1話 パーティを抜けた僕は、チュートリアルを攻略する。
全部で10話あるかな、位の予定です。
カクヨムさんで先行投稿してます。
「なあ、僕さあ……」
ミシオンは、ずうっと考えていた。
窓枠で頬杖を着きながら青空を眺めている。青い空、白い雲。目が眩むほどの快晴だ。
あくびをしながらそよ風に微睡み、日向ぼっこにかまけつつ。ある一点を見つめたまま、ミシオンは考えていた。
「田舎に帰ろっかなって」
お前らどう思う? と世間話のように告げられた言葉に、ミシオンの仲間達はあんぐりと口を開けて驚いた。
片田舎にある村の幼馴染で構成された冒険者パーティ。
常に仲間を鼓舞し、パーティで先陣を切るリーダー兼剣士のテネタス。
後衛からの支援はお手の物、攻撃も担う魔法士のモーズ。
怪我をした仲間を癒し、即前線に送り出す治癒士のシチア。
そして、鑑定士のミシオン。
ミシオンは自他ともに認めるパーティのお荷物である。
持っているスキルは『鑑定』のみ。しかも薬草と雑草を間違えるポンコツ具合。
テネタスの次に上背はあるが、痩せぎすの体格でシチアよりも力が弱い。
スライムに次ぐ冒険者のチュートリアルであるゴブリンにも負ける冒険者が果たしているのか。
これが一般人なら話は違っただろう。
だが、ミシオンは冒険者である。
ミシオンは自他ともに認める冒険者の最弱である。
それでも幼少期の約束の為に、周囲の評価も噂も冷めた目も気に留めず、パーティの仲間としてしがみついてきた。
だって、テネタス達がミシオンを仲間として求めてくれているから。ミシオンもテネタス達の仲間でありたかったから。
でも、状況が変わった。
「なんで、そんなこと言うんですかぁ。わ、私が至らなかったせいでしょうか……」
ベットの上で両手を胸の前で組み、へにょり、と眉を下げか細い声で反応したシチアの頭には包帯が巻かれていた。後衛で、治癒士で、守られるべき彼女にあってはならないモノだ。
旅を続ける道中に遭遇したドラゴン。直ぐに撤退を決断し、テネタスが殿を務めてドラゴンから逃げる為に懸命に走ったあの日——。
ミシオンを庇って出来た怪我だった。
「落ち着いて。なんでそうなんのさ。シチアは僕を守ってくれたじゃん。至らないのは僕の方でしょ」
「何言ってんだ! 俺の仲間に至らない奴なんかいない! ……ミシオン、俺たちはこうして生きてる」
起き上がろうとするシチアを宥めるようにそう言えば、顔を顰めたテネタスがガタッと音を立てて立ち上がった。依然として仲間方を見ようとしないミシオンの肩に手を添えて、テネタスは訴えた。
ミシオンに無理強いはしたくない。顔を見せたくないなら、そのままでいい。
けれどテネタスは、これだけはどうしても譲れなかった。
「失敗は次に活かせばいい。弱かったなら鍛錬する。強くなって上を目指すのは、ゆっくりでいいだろ。でも、仲間は四人じゃなきゃ嫌だ」
「……テネタス、ありがとう。でもさ、僕に成長の余地があると思う? お前たちと一緒に冒険者になって、一度もレベルが上がってない僕に」
テネタスは口を噤んだ。
言い返す言葉がなかったのではない。ミシオンの凪いだ口調からどうしようもない諦念が伝わってきたのだ。テネタスが何を言っても、彼には伝わらないと悟ってしまった。
シチアは歯を食いしばって俯くテネタスと後ろ姿のミシオンにオロオロと視線を彷徨わせる。重苦しい静寂を破ったのはモーズだった。
「怪我したシチアを運んだのミシオン。前なら抱えられてない」
君はきちんと成長している、とモーズの淡々とした言葉でミシオンの成長を語った。それに対しミシオンは苦笑する。
「あれは、火事場の馬鹿力ってやつ。あの後ぶっ倒れたじゃん」
だから意味ないよ、と。ミシオンはすげなく言い捨てた。
成長とは、本人が自覚しなければまるで意味がないのだな。無表情のモーズは額に手を当てて目を瞑り、心内で息を吐き出した。
「だめ?」
「駄目だ!」
「ダメですぅ!」
「だめ!」
やっとこちらを振り向いたミシオンの問いかけを三人は一斉に拒絶する。これ以上言葉を交わしても平行線を辿るだけだろう。
「そっか。ならやめとく」
***
ミシオンの言葉に分かりやすく安堵した三人に、ニヒ、と笑いかけたのが一週間前。
「ほんっと、あいつら疑わないな」
ゴブリン集団の討伐依頼を受けて、つい先程ミシオンを除くパーティは出発していった。
腹痛だと嘘をついた罪悪感に胸が締め付けられるが、これも仲間のため。
念には念を入れて、出発から三十分はベットの住人になって。簡易的にまとめた鞄を持ってミシオンは宿を後にした。
『何をしているっ! 早く仲間の元へ戻れ! 貴様自身は雑魚なんだぞ!』
仲間達が向かった方と正反対に歩き出したミシオンを引き留めるように、頭の中に声が響いた。耳をつんざく声にミシオンはぶっきらぼうに悪態をつく。
「うっせぇ。これも全部お前のせいだからな。僕が弱くたって、成長しなくたって、テネタス達に嫌がられるまで一緒にいるつもりだった!」
『ならばどうして! 自身の安全を捨ててまでその様な行動を取る! まさか死ぬつもりではなかろうな!?』
デカイ声で言われた見当違いの言葉に怒りがふつふつと湧き出し、ミシオンは立ち止まって身体を震わせた。
「どう考えても頭オカシイだろーが! 自分の“スキル”が喋るなんて!」
この謎の声はドラゴンに遭遇する一ヶ月前に突然現れて自分は“鑑定”スキルだと名乗った。
正直意味が分からなかったし、ミシオンは遂に自分の頭がイカれてしまったのかと顔を真っ青にした。
ミシオンの意思に関係なく好きに喋る自称“鑑定”に今日まで頭を悩ませていた。
コイツのせいで連日寝不足が続き、日中集中が切れることがしばしば。結果、件のシチアの怪我に繋がってしまった。
「うう、モーズならなんか分かんのかなぁ。でも、拒否されたら僕が死ぬ! もうポンコツでいいから元に戻れよ!」
『ポ、ポンコツだとぉ!? 貴様、言葉には気を付けろよ! またアレをお見舞いしてやろうか!』
「マジでやめろ! 僕の耳が終わるだろ! テネタス達と話してる時にギャーギャー喚かれたこっちの身にもなれ! マジ迷惑! マジウザい!」
歩く騒音に音量調整出来ないかな、なんて思いながらミシオンは再び歩き始める。
『まったく! それで、何処に向かっている』
「は? 村だけど」
『村? とはどこにあるんだ?』
「だいぶ距離あるよ。急いだらだいたい一ヶ月くらいで着くんじゃない?」
『はァ? 辞めた、と言っていただろう。里帰りとやらか?』
「んー、ま、似たようなもんかな」
『では、仲間とはいつ合流するのだ』
“鑑定”の言葉にミシオンは押し黙った。
ミシオンの行動を一時の帰省だと勘違いしているのだろう。それを訂正してやる義務は無いので沈黙で返答する。
『おい。なぜ黙る。……まさか貴様!?』
どうやら気付いてしまったようだ。内心で舌を打つ。
ミシオンは仲間と合流するつもりはない。
田舎に帰ったら、そこで一生を終えるつもりだ。
近い将来、仲間達の活躍がミシオンまで届いたら凄く嬉しいな、くらいの気持ちで帰路に就こうとしている。
『……弱いままでいいのか』
「…………」
『周囲に舐められたまま諦めるのか』
「…………」
『貴様一人ではスライムに取り殺されて終いだぞ』
「はあ? スライムぐらい勝てるわ!」
『ならば、ゴブリンにも勝て。そら、来るぞ』
「……え?」
ガサリ、と草むらから物音がして、ミシオンが振り向いた先にゴブリンがいた。
ゴブリンは森の中で集団行動するのが基本だ。道路まで出てきたということは、あのゴブリンは群れからはぐれた個体だということ。
ミシオンは咄嗟に小刀を構える。
彼が唯一所持する武器だ。対してゴブリンは素手であったが、ミシオンを見つけた瞬間、傍目も振らず襲いかかってきた。
「うわっ!」
『避けてばかりでは何時までたっても終わらないぞ。しかも貴様はミジンコ体力。狩りに慣れたゴブリンとどちらの方が持久力が持つのか、明白だろう?』
そんなこと、自分が一番分かっている。
冒険者になったばかりの時。最初の依頼でゴブリン討伐を請け、ミシオンは素手のゴブリンに負けた。腹に一発もらって戦闘不能になったのだ。
あまりの情けなさに、ミシオンは思い出す度血が滲むまで唇を噛んでしまう。
ミシオンは、自分がゴブリンに勝てる未来が想像が出来なかった。
『私を使え』
「……ッ、ポンコツに、何が出来るってんだ!」
『私は成長した。したから話せるようになった。勿論、能力までも』
ミシオンは“鑑定”の言葉を鼻で笑う。
ポンコツが成長したところでポンコツには変わらないのだ。
『む、なにか失礼なことを考えているな。そも、貴様らは鑑定が何たるかを勘違いしているのだ。“鑑定”とは見て判断するものではない。無論それもできるがな。いいか。“鑑定”とは鑑て定めることだ!』
「あーもう! 意味わかんねぇ!」
ミシオンはヤケになって叫ぶ。
危機的状況だけれど、ここまで言うのなら使ってみようか。プラスにならないかもしれないが、マイナスにもならないのだから。
ミシオンはゴブリンから距離を取ってスキルを発動する。
「『鑑定』!」
『そうさな。同じになればになれば、貴様でも勝てるだろうよ』
【対象:ゴブリン Lv:2 状態:雑魚】
「雑魚……?」
ミシオンは戸惑いながら、鑑定結果を呟いた。
鑑定の表示が変わっている。
前は対象の名前と外見の情報を並べるだけだった。“状態”という表示を見るのは初めてだ。
『そら、状態を定めてやったぞ』
ゴブリンが距離を詰めてきた。
牙を剥き出しにして飛び込んできたゴブリンを見て、避ける。向かってくる鋭く尖った爪を半身を捩って、避ける。
「……?」
ゴブリンの動きが遅く見える。
というか、ゴブリンの動きが鈍く、覚束無いように感じた。
これなら、ミシオンでも攻撃が届くのではないか?
これなら、避けられずに一撃で急所を狙えるのではないか?
再びゴブリンが走り出す。
同時に、腰を低くしながら小刀を構えてゴブリンが来るのを待ち受ける。相手の動きは単調だ。ミシオンはゴブリンを視界に捉えて離さない。
見て。
見て。
見続けて。
ズブッ。ミシオンはゴブリンの心臓を一突きした。ゴブリンの爪がミシオンの腕を引っ掻く。皮膚を抉られる痛みを歯を食いしばって耐え、更に心臓の奥へ刃を埋めていく。
ミシオンは自他ともに認める最弱の冒険者である。
しかして、冒険者なのである。
目の前にぶら下がったチャンスを、過去のトラウマ如きで不意にするほど愚かではない。
ゴブリンは大量の血を吐き出して絶命した。
「はァ、はァ……はあ」
ミシオンはゴブリンの胸から小刀を抜き、左耳を切り取った。
ゴブリンを討伐した証だ。
戦えないミシオンが仲間の役に立つためにしていた事の一つ。死んだ魔物の相手は自分にも出来た。
だから、ほぼ無意識の行動であった。
仲間を頼らず、ミシオン一人で成し遂げた初めての討伐。
切り取った耳とジンジンと熱を持った腕の痛みが、これが現実だと教えてくれる。
「やばァい! なあ、テネタスっ!」
興奮とともに達成感を仲間に共有しようと、名前を呼んでふと気付く。真っ先に報告したい仲間をミシオンは置いて行ったんだった。
「…………」
冒険者は討伐して終わりではない。
次に活かしてこそ、冒険者といえる。
今のミシオンがやるべきことは、ただ一つ。
「……“鑑定”。お前の能力、全部吐いてもらうからな」
『フフン。ようやく私の有能さを理解したか。まずはこれを見てみろ』
【対象:ミシオン Lv:2 スキル:鑑定 状態:引っ掻き傷】
脳内に表示されたのはミシオンのステータスたった。
(レベルが……!? いや、てか——)
それを確認してミシオンは頭を抱える。
「なんで、“自分”のステータスが鑑定できてんの??」
どうやら、成長した“鑑定”はとんでもない能力を引っ提げてきたようだ。




