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魔物は討伐しません、診察します〜転生獣医のもふもふサファリパーク開拓記〜  作者: あおにし
第3部 魔王軍接触

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第74話 保護区で蜂蜜も作ります

いつも応援ありがとうございます!お楽しみください!

ルシェルドの治療と森の除染を終えて、職員食堂で昼食を食べた後、俺は診療棟で患者の治療を行った。


今日は、ノクシアとオルフェンにも立ち会いを依頼した。トゲマルを隔離ケージからドッグラン管理へ移す判断と、クロナとヨルの今後の環境調整について、生態観察の意見を聞くためだ。


隔離ケージからトゲマルを処置台に連れてくる。『絶対診察眼』で診ると、瘴気の影響もなくなり、皮膚炎もすっかり収まっていた。


「オルフェンさん。トゲマルはこれまで慣らしでドッグランに入れていましたが、治療は終了の段階になりました。今後はドッグランでの生活観察と順化を中心にしたいと思いますがどうでしょうか?」


オルフェンがトゲマルをしばらく観察する。トゲマルが背中の棘を少し震わせた。


「そうですね。慣らしの間も少しずつ動きが出てきています。今後、隔離ケージから出してどのように過ごせるか見ていけるといいですね」


「ありがとうございます。そうしたら、トゲマルの生活観察と順化について、オルフェンさんとノクシアさんにお願いしたいと思います」


ノクシアは小さな搬送箱にトゲマルを入れ、刺激しないよう布をかけて、ドッグランへ運んでいった。


次にシャドウパンサーのクロナとヨルの二頭。だいぶ落ち着いてきてはいるが、人の声や光にまだ敏感に反応し、こちらを見て牙を剥く。


『絶対診察眼』で心の傷までは見えない。それでも、二頭の反応を見れば、恐怖がまだ体に残っていることは分かった。


「以前からオルフェンさんは、クロナとヨルの今後について、ケージだと心の治療までは難しいと意見をいただいています。ただ、首元や背中の傷がまだ深いものですから、しばらくは隔離ケージの中にいてもらわないといけないです」


オルフェンはクロナとヨルをじっくり観察した。


「そうですね。少しは落ち着きが出てきてはいますが、ワタル先生のおっしゃる通り、深い傷を持ったまま外気に触れさせるのはお勧めできません。ですので、外傷の治療を優先させましょう。その代わり、隔離ケージをなるべく暗くして、シャドウパンサーが過ごしやすい環境を作ることでしばらく様子を見るのがいいと思います」


「ありがとうございます。そのようにしたいと思います。また、今後のリハビリのタイミングを計るときにご意見をお聞かせください」


「わかりました。これから、私もトゲマルを観察しにドッグランに戻ります」


オルフェンは頭を下げて診療棟を出ていった。


その後、エーリスの『魔力鎮静』でおとなしくなったクロナとヨルを治療した。


***


治療が終わり、ドッグランに向かうと、ロッカが、蜂蜜店のルッカ、夫のバルト、息子のテオを連れてきていた。


「ワタル先生。少し話したいんだけどいいかい?」


「ええ、どうぞ。今なら、リコもエーリスさんもいますので」


俺は4人を新棟のダイニングに連れて行った。


リコはお茶を入れ、全員の前にティーカップを並べた。


ロッカはお茶を一口飲んでから言った。


「ワタル先生。今後、ウィンドウルフの区画(サファリ)を作ることになっただろう。仕事があまりに多くなってきたから、村の石工仕事は弟子たちに回して、アタイはしばらく保護区に腰を据えようと思っているんだ」


「それは助かります。何かあったらすぐに相談できるし」


ロッカは微笑み、ルッカたちを見つめた。


「それでな、お願いはルッカたちのことなんだ。ルッカたちを保護区でお願いしたいんだ」


「実は、瘴気が濃くなって、星蜜草(せいみつそう)が枯れてしまいました。もう、あそこで蜂蜜を作ることができない。保護区の方では空気がきれいだから、まだ星蜜草(せいみつそう)が咲いている。だから、こっちで蜂蜜を作らせてもらえないかと考えているんです」


バルトは淡々と話した。しかし、バルトが握った手は少し震えていた。


「確かに、今、森の奥の湖に向かって除染をしていますが、星蜜草(せいみつそう)が咲いているのを見ます。ですから、こちらで蜂蜜作りを再開できる可能性はあると思います」


俺の話にルッカが安心したように息を吐いた。


「ただ、前にバルトさんたちの蜂蜜屋の近くで見た星蜜草(せいみつそう)と比べるとそこまでたくさん咲いているわけではないです」


「えっ、そうなんですか?」


「はい。ただ、今すぐ蜂蜜屋として十分な量を採れるかは別です。除染で少しずつ増えてはいますが、まだ群生地と呼べるほどではありません。だから、こちらに来ても蜂蜜屋をやるだけの蜂蜜をすぐに作ることは難しいかもしれません」


俺の話を聞き、バルトとルッカは下を向いた。二人とも、希望が無くなったように元気を失っている。


「ですが、提案があります。蜂蜜屋を作るのではなく、保護区で働きませんか?」


「どういうことですか?」


バルトが尋ねた。


「星蜜草(せいみつそう)を増やすためにも、森の除染を進める必要があります。保護区の職員になって、森の除染を続けることで、いずれ蜂蜜をたくさん集めることができるようになると思いますし、そこまでの生活もそれほど多くはないですが、給金をお支払いします。なので、お二人には蜂蜜の製造部門の責任者として保護区で勤務していくというのがいいと思ったのですが、どうでしょうか?」


ルッカの顔が明るくなった。


「ありがとうございます。ここでも蜂蜜が作れないと聞き、今後どうすればいいかと思っていました。保護区で働かせていただけるのであれば、その間も生活ができます。是非お願いします」


「ただ、保護区もそこまで給金をたくさん支払うことはできない。でも、世帯用の住居はあるし、食事も職員食堂でできるから、いいと思うのだ」


リコが帳簿を見ながら言った。


「お父さん、お母さん。保護区に住めたら、毎日ハニーに会えるね!」


テオが嬉しそうに言った。


「そうね。それもテオにとっては嬉しいわね」


ルッカがテオの頭を撫でた。


「では、保護区で働かせていただきます。よろしくお願いします」


バルトが頭を下げた。


「では、引っ越しについては、リコと話してください。また、今晩良ければ職員食堂で歓迎会を行いますが、どうですか?」


「是非、お願いします。楽しみです」


ルッカが答えた。それを見てロッカが言った。


「いいねえ。ワタル先生、アタイも行ってもいいかい?」


俺は笑って「いいですよ」と答えた。ロッカは胸をなでおろした。


その晩、職員食堂でバルト、ルッカ、テオの歓迎会を行った。


マルタとリュシアはバルトとルッカに蜂蜜の集め方とか色々聞いていた。今後、薬草や野菜の受粉にも大いに役立つはずだ。


テオはライザと楽しそうに話していた。


***


歓迎会が終わり、新棟に帰ってきた。このところ、節水のために控えていたお風呂に久しぶりに入ることになった。


まずはリコとエーリスが先に入り、その後、交代して温かいお湯に浸かった。久しぶりのお風呂は本当に気持ちがいい。


俺がお風呂を出て廊下を歩いていると、ダイニングからリコとエーリスの話し声が聞こえた。


エーリスが、お風呂上がりのリコの銀の髪と尻尾を、ブラシで優しく梳いていた。


リコはいつものエーリスの、とろけるように丁寧な手つきに恥ずかしがり、耳をピコッと折って両手でぎゅっと隠す仕草をしながら顔を真っ赤にしている。


「もう、私は診察される側じゃないのだ。背中を触りたいだけでしょ……」


照れるリコだが、背後の尻尾は嬉しそうに「パタ……パタ……」と健気に揺れてしまっている。


「リコさんの毛並みは本当に美しいです。ブラッシングをすると、絹のように透き通ってふわふわになります」


ブラッシングをされながら、リコがふと、窓の外の静かな夜の森へと目を向けた。


「……お風呂に入って、こうやって髪を梳いてもらっていると、時々、私の父さんや母さんのことを思い出すのだ。母さんも、私が眠る前に、いつもこうやって優しく毛並みを整えてくれたの」


リコの声が低くなった。


「家族のみんなは、今もどこかで生きているのか……。それとも……。何も分からないのだ。でも、この保護区にいると、時々、みんなで一緒だった頃の温かさを思い出す」


エーリスはブラシを止め、リコの肩にそっと手を添え、本当に慈しむような微笑みで見つめた。


「……大丈夫ですわ、リコさん。ここは治す場所ですが、わたくしたちが共に暮らす我が家でもあります。わたくしは、リコさんのご家族も、どこかであなたを思っていてくださると信じています。……そして何より、今のリコさんには、わたくしやワタルさん、みんながここにいます。あなたはもう、一人ではありませんのよ」


リコは耳を隠していた手を少し緩め、ぽろりと一滴だけ温かい涙をこぼした。


「……うん。ありがとう、エーリスさん」


俺は二人の会話を邪魔しないようにそっとその場を離れた。


(この安らぐ場所を、何があっても守り抜かなければならないな)


俺は決意を新たにした。


【施設管理カルテ】

患者経過(スパイクマーテン・トゲマル):瘴気反応および皮膚炎の鎮静化を確認。急性期治療を終了し、今後はドッグランでの生活観察および順化管理へ移行する。

患者経過(シャドウパンサー二頭・クロナ、ヨル):首輪跡および背部外傷の治療を継続。声および光への過敏反応が残るため、当面は外傷治療を優先し、隔離ケージ内を低照度・低刺激環境に調整する。外傷の改善後、短時間のリハビリ移行を検討する。

サファリ造成体制の移行:石工棟梁ロッカの保護区内常駐を受理。村側の石工仕事は弟子たちに任せ、ウィンドウルフ用「草原区画」の造成に向けて、本格的な土木基礎設計に着手する。

蜂蜜製造部門の設立:蜂蜜店のルッカ、バルトを保護区の正式職員として受け入れる。瘴気により村外れの星蜜草群生地が枯れたため、保護区内および除染済み森林区画における星蜜草の保全・増殖、蜜蜂管理、採蜜体制の再構築を進める。マルタの農園管理、リュシアの薬草知識と連携し、受粉、薬草栽培、蜂蜜製造を一体的に管理する。

生活・衛生管理:節水により控えていた新棟浴室の使用を再開。除染作業後の汗、泥、瘴気付着を落とす清潔管理として運用する。

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