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魔物は討伐しません、診察します〜転生獣医のもふもふサファリパーク開拓記〜  作者: あおにし
第3部 魔王軍接触

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第70話 土を耕し、役割を紡ぎます

いつも応援ありがとうございます!お楽しみください!

午前中のルシェルドの治療と森の除染作業を終え、俺たちは職員食堂で昼食をとった。食事が一段落したところで、俺はマルタとリュシアに話しかけた。


「今後の治療に関して相談があります。午後、新棟のダイニングに来てもらってもいいですか」


「はい。大丈夫ですよ」


リュシアは了承した。マルタも頷いている。


「マルタさん。トーマさんも一緒に来てもらってもいいですか?」


「わかりました」


***


新棟のダイニングにはリコ、エーリス、オルフェン、ノクシア、リュシア、マルタ、トーマが集まっていた。


「リュシアさん。作っていただいた鎮静軟膏のおかげで、トゲマルの治療が進みました。ありがとうございました」


「これまでわたくしの治療でもリュシアさんの薬草にずいぶん助けていただいております」


「そう言っていただけると嬉しいです。役立ててよかったです」


リュシアは穏やかに答えた。


「先日食堂でも話しましたが、今後も魔王軍の攻撃があるかもしれない。そうすると、人間や魔物の治療が今よりも増えることが想定されます。ですから、あなたの薬草をもっと活用していきたいんです。そこで、保護区の中に薬草畑を作りたいと思っています。どうでしょうか」


リュシアは目を輝かせた。


「本当ですか? 今は家の前で薬草鉢を使って細々と作っています。でも薬草畑が作れるのであれば、もっと多くの種類の薬草を育てることができます」


「母様の薬草の質の良さは私も保証します。これまで薬草師として扱っていた時、どこの村に行っても好評でした」


ノクシアが言った。


「しかも、以前は瘴気の中で育てていました。この保護区に来て、清浄な空気の中で育てる薬草は、以前の物よりも色が鮮やかになり、成分も濃くなっています。これを薬草畑で栽培できるのであれば、もっと質のいいものが作れると思います。是非お願いします」


リュシアが普段よりも少し早口に言った。


「でも、ワタル。薬草畑をどのあたりに作るのだ? マルタ農園の中?」


マルタが首を横に振った。


「薬草を植えるなら、あそこの南東の緩斜面がいいね。水はけが良くて、午前中の光がよく当たる。ただ、あそこは少し泥の瘴気が抜けきってないから、念入りに浄化排水を撒いて耕し直す必要があるよ」


「ええ、マルタさん。消炎に使う『月見草』は湿気を嫌いますから、その水はけの良さは助かります。逆に、解毒に使う『根深草』は少し粘土質の土を好みますから、そこは畝(うね)を分けて、土壌を調整しましょう」


マルタが指で図面の斜面をなぞり、リュシアがその横に薬草の名前を書き込んでいく。


乾いた土を好む畝、少し粘りのある土を残す畝、水を逃がす溝。


二人が言葉を交わすたびに、何もなかった斜面に薬草畑の形が浮かび上がっていった。


トーマも「耕すのは任せてくれ」と頼もしく頷いた。


リュシア、マルタ、トーマは薬草畑の候補地を見に行くためにダイニングを出ていった。


このようにして、保護区の治療体制を支える仕組みが動き出した。


***


「レオン君は、今日からリハビリではありますが、無事に復帰できました。午前中も除染作業の際の見回りをしてもらいましたし、今後少しずつ警備業務に戻ってもらうことになります」


俺が言うと、ノクシアが下を向いた。


「そうするとサラさんの臨時任用も終わりになりますね」


「そうなんです。サラには短い期間ながら本当によくやってもらいました。ですので、これからサラを呼んで感謝を伝えたいと思いますが、どうですか?」


「はい。そのような機会を作ってくれてありがとうございます」


ノクシアが感謝を述べた。


「そうしたら、リコ。サラはドッグランのあたりにいると思うから、呼んできてくれるか?」


「わかった」


リコがダイニングから出ていき、サラを連れて戻ってきた。


「ワタル先生、何かありましたか?」


席に座り、サラは俺に尋ねた。


「今日からレオン君が業務に復帰した。まだ完全な形ではないけど、今後警備業務をよりやってもらうことになる。サラさんにはレオン君が入院中、本当にお世話になった。ありがとう。今日で臨時警備補助を一区切りとします」


「いえ。こちらこそご迷惑をおかけしました」


サラは照れくさそうに頭を掻いた。そして、羊皮紙の束をオルフェンに渡した。ノクシアやオルフェンと共に魔物たちを観察し、羊皮紙に彼らの歩幅や耳の動きを記録してきた「巡回日誌」だ。


「あ、これ。この数日間、記録したものです」


オルフェンは渡された羊皮紙をめくって、真剣な表情で読み込んだ。そして、すべてのページを読み終えて顔を上げた。


「サラ。あなたの記録は、魔物たちの小さな変化をよく捉えています。ただ見張っていたのではありません。暮らしを見ていたのです。あなたには、観察員としての素質があります」


「ええ。サラさん、臨時任用は終わりますが、魔物たちのことで気づいたことがあれば、いつでも私たちのところへ教えに来てくださいね」


ノクシアも優しく微笑んだ。サラと一緒に過ごしたこの数日間は、ノクシアとしても楽しい思い出になったのだろう。


「サラさん。あなたのお兄さんを思う気持ち、仕事に対する責任感と誠実さ。本当に素晴らしいと思います。またいつでもこちらに顔を出してくださいね」


エーリスもさらにねぎらいの言葉を告げた。


みんなの温かい対話が一段落したその時、ずっと手元で帳簿をめくっていたリコが、パタッと帳簿を閉じた。そして小さな麻袋をサラの前にそっと差し出す。袋の中からは、チリンと金属の軽い音が響いた。


「……えっ? 何これ、リコ」


「少ないけれど、この数日間、あなたが警備を助けてくれたことへの『手当』」


サラは目を丸くして、慌てて両手を振った。


「そんなの受け取れないよ! 私、まだ見習いだし、今回はお兄ちゃんの代わりにちょっとお手伝いしただけだし……!」


「いいえ、受け取って。見習いだろうと、代わりだろうと、あなたがこの場所を守るために働いてくれたのは事実なのだ。働いてくれた人に何も支払わないのは、この保護区ではおかしい。私たちは、みんなの力を借りて、みんなで運営する場所なんだから」


リコの毅然とした、しかし温かい言葉に、サラは驚きつつも差し出された麻袋を両手で受け取る。自分が仕事をして得た「初めての対価」の重みに、サラの胸にじわりと熱いものが広がった。サラが麻袋を受け取ると、リコの尻尾の先が小さく揺れた。


「ありがとうございました。私もここで働かせてもらって、毎日楽しかったです。魔王軍も実際に見られたし」


サラの言葉にみんな笑った。


「でも……。もう、毎日はあの子たちをじっくり見られないんだ……」


サラはそう言って、窓の外のドッグランを見つめた。


***


「ただいま」


ルミナ村の南側にあるサラとレオンの自宅にサラは帰った。


「おかえりなさい。大変だったでしょう」


母親のメリナが笑顔を向けた。数日ぶりだが、サラは母親の顔を見て少しほっとした。


「うん。毎日いろいろあって充実してたよ」


サラは、リコから受け取った小さな麻袋をテーブルの上に置いた。メリナが、それを見て不思議そうにさらに尋ねた。


「おや、サラ。それはどうしたんだい?」


「これね……今日で、兄さんの代わりに入っていた臨時警備補助が一区切りになったんだけど、リコが『働いてくれた正当な手当よ』って言って、渡してくれたの」


サラは大切そうに麻袋を握りしめ、この数日間、保護区で魔物を観察し、記録していた時間がどれほど特別だったかを、ぽつりぽつりとメリナに伝えた。


サラの寂しそうでありながらも、生き生きとした瞳を見たメリナは、優しく微笑んでサラの頭を撫でた。


「レオンはお父さんに似て不器用で、無理をして誰かを守ろうとするけれど……。サラ、お前にはお前の守り方があるんだよ。誇りを持てる仕事を見つけたのなら、お母さんは応援する。自分で、これからの生き方を決めなさい」


「自分の生き方……」


「何を自分がしたいのか、自分の心に聞いてみるといいよ」


サラは、テーブルの上の麻袋をぎゅっと握った。


「お母さん。ちょっとギルドに行ってくる」


「あらそう。遅くならないようにね」


サラは玄関を飛び出した。


***


黄昏時、サラはギルドでモルガナと対面していた。


「おや、サラ。久しぶりだね。保護区はどうだった?」


「はい。モルガナさん。保護区ではこれまで見られなかったものを見てきました」


サラは森の動き、魔物の日常、魔王軍との対峙についてモルガナに話した。モルガナはサラの話を楽しそうに聞いていた。


「そうか。サラも色々経験できたんだな」


モルガナは微笑んだ。サラはすこし口ごもった。


「それで、モルガナさん……。私、冒険者を辞めて、保護区で働こうかと思っているんです。……警備員じゃなくて、魔物の『観察員』として」


モルガナはサラの瞳を見つめた。そこにはゆるぎない決意があった。


「そうかい。あんたもレオンと一緒で剣を置くか……」


モルガナはゆっくり息を吐いた。それからフッと、かつての「閃光」の面影を残す頼もしい笑みを浮かべた。


「今のあんたには、剣を振る依頼より、あの場所で目を使う仕事の方が合っているのかもしれないな。あの場所で魔物の息遣いを読み、彼らを生かす道を切り開く方が、あんたのその鋭い『目』にはよっぽどお似合いさ。行ってきな。ギルドマスターとして、あんたの門出を喜んで承認してやるよ」


「モルガナさん……」


「ただ、登録まで消す必要はないさ。冒険者の登録を残したまま保護区で働くといい。レオンも同じようにしているから」


「兄さんも……。ありがとうございます」


「時代が変われば、ギルドの仕事も変わる。いつまでも、魔物を斬る依頼だけで食っていく時代じゃないのさ。あたしだってワタルから色々教えてもらったよ。しっかり学びな」


サラは満面の笑顔で深く頭を下げた。


【施設管理カルテ】

農業・薬草管理:医療用・生活用薬草の安定確保を目的として、マルタの土壌管理、リュシアの薬草知識、トーマの耕作実務により、薬草畑の新設計画を開始する。土質、水はけ、日当たり、薬草ごとの畝の分け方を確認し、南東の緩斜面を候補地とする。

安全・防衛管理:レオンの軽作業・日中見回りへの部分復帰に伴い、サラの臨時警備補助を本日で一区切りとする。サラが記録した魔物の行動・環境観察日誌を、オルフェンおよびノクシアへ引き継ぐ。

生活・労務管理:リコは、サラの臨時警備補助に対する手当を支給する。短期間であっても、保護区のために働いた者には対価を支払う方針を確認する。職員食堂では、ダリオ、セリア、ベルナによる食事供給および保存食づくりを継続する。

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