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魔物は討伐しません、診察します〜転生獣医のもふもふサファリパーク開拓記〜  作者: あおにし
第3部 魔王軍接触

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第67話 聖域の境界はみんなで耕します

いつも応援ありがとうございます!お楽しみください!

俺はリコ、エーリス、ノクシア、オルフェンと共にルシェルド療養地に向かった。ルシェルドの古傷を洗い終えた頃には、朝の緊張が少しだけ遠のいていた。


だが、保護区へ戻ると、隔離ケージの中で眠る二匹のシャドウパンサーが、現実を思い出させた。


「今回はルシェルド様の飛来でドレイグを撃退できましたが、奴らは間違いなく、この保護区の存在と『白い境界線』の性質を魔王軍へ報告するでしょう。次は、さらに狡猾な手段で仕掛けてくるはずです」


ノクシアが低い声で言った。


「ああ。魔王軍の影がこれほど近くに迫っている以上、もう俺たち保護区だけの問題じゃない。村の人たちの安全や流通網を守るためにも、今回の出来事はギルドや村とも協議し、共同で対策を立てる必要がある」


「ええ。ゴラン村長もモルガナさんも、この事態を正確に知っておくべきよ。……すぐに村へ行きましょう」


リコの言葉を受け、俺たち5人はルミナ村に向かった。


***


村長ゴランの家に入ると、ゴランはただごとではない雰囲気を感じ取り、表情を引き締めた。


「ワタル先生……それに、ノクシアさんたちまで揃ってどうした。また何か、保護区で問題でも起きたのか?」


「村長、極めて重大な報告があります。今朝、北側外縁の境界線に、魔王軍の『魔物遣い』が直接接触してきました。首輪付きのシャドウパンサーを使い、こちらの出方を探っていたようです」


ゴランの顔から一気に血の気が引く。


「な、何だと……!? 密猟者ではなく、本物の魔王軍が動いたというのか……!」


「はい。幸い、ルシェルドの威嚇で敵は引き、取り残された二匹の魔物は保護しましたが、今後の警戒体制を急ぎ整えなければ、村全体が危険に晒されます。……村長、今回のことは保護区、村、ギルドの三者で緊急の協議を行いたいです。至急、冒険者ギルドに集まるよう、招集をお願いできませんか」


ゴランは立ち上がった。


「分かった。事態は一刻を争うな。わしからモルガナや、警備のキャスパーたちにも声をかけ、至急ギルドに集まるよう手配しよう。お前たちも、すぐにギルドへ向かってくれ!」


***


冒険者ギルドの土間。普段は冒険者たちが食事をしたり、依頼の相談をしたりしている、雑然とした木のテーブルが並ぶ広い土間に、俺たちは座った。


最初に席についたのは、ゴラン、モルガナ、キャスパー、リコ、エーリス、ノクシア、オルフェン、そして俺だった。


皆一様に表情が重い。


俺は今朝の魔王軍の襲撃について説明した。


「魔王軍……」


モルガナが呟いた。ルミナ村のような辺境の地では、魔王軍が直接姿を見せることはこれまでなかった。


「本物の魔王軍が保護区の北側外縁に現れた以上、これまでの考え方では村を守りきれん。あの森の境界の線引きについて、根本的に見直す必要があるな」


険しい顔をしたゴランが言った。


「そうですね。ですが、ただ机の上で線を引くだけでは、本当に安全な防衛線は作れません。……実際に、北側外縁の巡回や観察を担当しているサラと、現場の開拓を進めているトーマさんの意見を聞きましょう」


ゴランは頷いた。


「うむ。急いで呼んでくれ」


「リコ、すまないが、保護区に戻ってサラとトーマさんを呼んできてくれるか?」


「わかった、急いで連れてくるのだ!」


俺の指示を受け、リコは大急ぎで保護区へと戻った。


「お待たせしました」


リコと共に駆け付けたサラとトーマが席に座った。繋ぎ合わせたテーブルの椅子は完全に埋まり、ぴったりと満席になった。


「待っておった。魔王軍が来たことを踏まえ、境界の線引きを見直すべきかどうかを話し合っておる。おぬしらの意見を教えてもらえるか?」


サラとトーマは顔を見合わせた。そして、トーマが話し出した。


「保護区は除染を続けて、清浄な空気に包まれています。でも、一度開拓を止めて森を放置すれば、そこから再び瘴気が勢いよく侵食してきて、これまでの防護柵も畑もすべてダメになります。退くべきではありません」


「そうですね。もし境界を引き下げて守る範囲を狭めても、森の魔物たちは、少しでも綺麗な空気を求めて境界の手前まで必死に寄ってきてしまいます。実際、ウィンドウルフ母狼たちもそうでした。境界を狭めれば、それだけ魔物たちが村のすぐ近くに密集することになり、かえって危険です」


サラも力強く話した。二人の意見を聞き、ゴランは咳払いをした。


「ゴホン。……だが、それならどうやって守る? 退かないとなれば……」


「アタシもトーマたちの言うことは分かるよ。だけどね、退かずに除染範囲を広げれば、今度は守るべき防衛線が伸びて戦力が分散し、敵の侵入路を増やす自殺行為になる。それならどうやって守るんだい?」


モルガナが淡々と話した。確かにモルガナの意見は正しい。トーマとサラも口を閉ざして下を向いた。


その時、ノクシアが口を開いた。


「いいえ、モルガナさん。戦力を分散して守る必要はありません。なぜなら、除染された土地そのものが、魔王軍の支配を弱める防壁として機能するからです」


「どういうことだい?」


モルガナがノクシアに尋ねた。


「魔王軍の支配首輪に込められた瘴気は、保護区の清浄な空気に触れると急速に中和され、命令の伝達力が著しく低下します。今朝、魔物遣いのドレイグが境界線であれほど執拗に、異様な頻度で鞭を振るっていたのは、そうしなければ魔物の制御を維持できなかったからです」


「清浄な空気が武器になるってことかい?」


「はい。清浄域を広げることは、戦力を分散して守る線を増やすことではありません。敵の支配能力をその土地から奪い、近づきにくくするための防衛線の押し上げなのです。」


ノクシアの意見を聞き、モルガナの鋭い目が輝いた。


「なるほどね……。敵の足場を奪うための開拓かい。それなら、戦力を分散させずに、敵を近づけさせない防壁にできるね。であれば、除染は続けたほうがいいね」


モルガナは大きく頷いた。


モルガナとノクシアの会話を聞き、考え込んでいたゴランが口を開いた。


「仮に除染を続けるのであれば、村の入り口方面も進めてもらえないか?」


「というと、二方面除染ということですか?」


俺がゴランに尋ねると、ゴランは頷いた。


「そうじゃ。わしは村長として、この土地の生活と安全を守らなければならない。だが、知っての通り、入口付近も徐々に瘴気で汚染されつつある。そこが汚れたままでは、村人も不安で外に出られんし、商人の馬車も近づけなくなる。命綱を守るためにも、入口方面の除染を最優先に組み込んでほしい」


「わかりました。今回の問題は、村全体の問題ですから村の入り口の除染も同時に行いたいと思います。でも、人手の問題があって、保護区の職員だけでは二方面を同時に行うのは難しい……」


「ならば、ギルドの方で村の入り口の除染をやるよ。キャスパー。お前、村の入り口の除染の責任者として差配してくれるかい?」


モルガナがキャスパーに向かって尋ねた。


「叔母さん……。俺でいいんですか? いや、やります。やらせてください。門番の仕事ですから」


キャスパーは力強く宣言した。


「わかりました。そうしたら、明日から除染を開始します。キャスパーさんは朝一番に保護区に来て、浄化排水の受け取りを行い、プルを連れて行ってください。除染の具体的なやり方については、トーマさんに確認してもらえると間違いないと思います」


「ワタル、分かった」


(魔王軍は魔物を支配し、使い潰す。だけど俺たちは、今はまだこの少し手狭な木のテーブルだけど、同じ席を囲んで、知恵を出し合って、手を取り合って進むんだ。この繋がりこそが、あいつらの暴力に負けない、俺たちの本当の強さだ)


【施設管理カルテ】

安全・防衛管理:魔王軍魔物遣いドレイグによる境界付近の偵察行為を受け、冒険者ギルドにおいて、保護区、村、ギルドによる共同会議を実施。今後も必要に応じて継続することを確認。北方外縁の監視体制を強化するとともに、無断追跡の禁止令を再徹底する。

開拓・除染計画:清浄域の境界線見直しに伴い、清浄域が魔王軍の支配首輪に与える中和・減退効果を確認。除染を「防衛策としての土地再生」と再定義し、二方面除染体制へ移行する。

森方面:浄化担当プルツー、および現場責任者トーマを中心に、湖畔方面へ続く生態管理区画の除染を継続。サラ、ノクシア、オルフェンが観察・警戒・生態判断を補助する。

村入口方面:浄化担当プル、およびギルド側責任者キャスパーを中心に、村落接続経路の防衛除染を開始。冒険者ギルドは警戒、運搬、立入整理を補助し、村は住民への周知と導線管理を行う。

外部協力:村長ゴラン、ギルドマスター・モルガナとの連携により、保護区外縁の安全管理を地域防衛の課題として共有する。


***


その頃、澱んだ黒い瘴気が立ち込める、獣王ガウルの居城・謁見の間。


ドレイグが片膝をつき、冷や汗を流しながらガウルに報告していた。


「それで、おめおめと引き返してきたのか!」


「申し訳ありません。氷泉竜ルシェルドが動かないように、やつのいる場所から離れた地点で偵察を行ったのですが、直接飛来してきて阻止されてしまいました」


「連れて行ったシャドウパンサー二匹はどうなった?」


ドレイグの声が小さくなった。


「あの二匹は、保護区の清浄域によって支配首輪の瘴気が弱まり、動けなくなりました。その隙にルシェルドに圧倒され、保護区側に奪われました」


玉座の脇、黒い柱の影で、二つの大きな気配が低く笑った。一つは、獣の唸りではなく、言葉を知るものの嘲笑だった。もう一つは、牙を見せず、ただ喉の奥で息を鳴らしている。


「魔物遣いが、魔物を奪われて戻ったか」


どちらが言ったのか、ドレイグには分からなかった。ただ、その場にいる誰もが、自分より上位の魔物であることだけは分かった。


ガウルは激高した。


「結局、偵察に出して、手駒を奪われたのにのこのこと戻ってきたということか!」


「申し訳ありません。また、ノクシアが完全に裏切り、保護区側についていて、邪魔をされました」


ガウルは奥歯を噛みしめた。ギリギリと嫌な音が響く。


「ノクシアめ。裏切った上に逆らうのか」


「ただ、ガウル様。今回の偵察は失敗だけではありません」


「何?」


「保護区の北側外縁はルシェルドの療養地に近く、竜の反応が早すぎます。ですが……あの竜から最も遠い村の入り口方面であれば、ルシェルドの目も届きません。あの保護区と村のつなぎ目を裂いて混乱させれば、流通も止まり、中の人間どもは容易に自滅します」


ガウルはドレイグを睨みつけた。しばらく沈黙が続いた。


「……次はない。村とのつなぎ目を裂け」


ドレイグは、鈍く光る黒革の鞭の柄をコツンと鳴らした。


北ではない。次に裂くのは、村とのつなぎ目だ。

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