↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物は討伐しません、診察します〜転生獣医のもふもふサファリパーク開拓記〜  作者: あおにし
第3部 魔王軍接触

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/72

第58話 保護区の仕事は、村にも届いています

午前中のルシェルド治療などを終え、食堂で昼食を取った後、俺とリコはルミナ村へ向かった。


ギルドに「息守りマスク用交換フィルター」の最新ロットを納入するためだ。


ギルドに着くと、以前の活気が戻りつつあるように感じた。


「ワタル、リコ、ご苦労様」


ギルドマスターのモルガナがマスクのフィルターを受け取って労った。


「これが今月分の利益だ」


リコが銀貨の袋を受け取り、銀色の耳をぴんと立てた。


「重いのだ。……先月よりだいぶ多い」


「この前、氷泉竜ルシェルドが山道から離れただろ? それでまた通れるようになって、長らく停滞していた城下町レグナとの物流が再開されたんだ。それで、村外の商人が多数村に来たんだけど、そいつらがマスクを買っていったんだよ」


モルガナは微笑んだ。


「それで、買った商人がマスクのことを別の商人に伝えて、口コミでその性能の良さが広がったんだろうな。その後、大量に買い付けがあったんだよ」


そこまで言って、モルガナはワタルを見つめた。


「山道を塞いでいた伝説の竜を、保護区の近所に引っ越しさせたんだ。流通は戻るわ、マスクは売れるわ……あんたは何をやっても村の商売に火をつけるね!」


モルガナは大きな声で笑い飛ばした。


「収入が増えるのは助かります。保護区も大きくなって、人が増えていますから。先日、ノクシアさんとそのご両親を、試用期間という形で受け入れました」


「ノクシア……。あの薬草師のか……」


「はい。実はノクシアさんは、魔王軍の観察官だったのです。ですが、魔王軍で働くことに疑問を抱き、両親と一緒に魔王軍を離れて保護区に来たということです」


俺はモルガナに伝えた。モルガナは目を丸くして黙った。


「魔王軍……。確かに、あの娘は歩く音がしなさすぎた。気配の消し方が上手すぎると思っていたんだ。でも、ワタル、大丈夫か? 魔王軍のスパイの可能性はないのか?」


「実際に、リコとエーリスと俺とで面談をして決めました。ノクシアさんは、最後の報告でプルたちの浄化能力や、保護区の除染作業には触れず、ルシェルドの存在だけを強調してきたそうです。両親も専門能力が極めて高く、保護区にとっても非常に有用と考えました」


「私も面談の時、3人をじっくり見たのだ。彼らは嘘をついているようには見えなかったし、全員誠実な人柄だった」


モルガナは俺とリコの話を聞いて、小さく息を吐いた。


「そうか……。お前たちの目を信じるよ。ただ、何かあったらすぐに相談してくれ。こちらでも力になれることがあるだろうから」


「ありがとうございます」


「あと、これからゴランに報告に行くんだろ? その時には、ノクシアたちの出自を伏せたほうがいい。行政責任者がそれを知れば、村を守るために排除へ動かざるを得なくなる。あの爺さんを余計な板挟みの危険に晒すんじゃないよ」


モルガナの言葉から俺は情報管理の重みを知った。組織を維持するためには、情報の共有範囲を意識しなければならない。


「アドバイス、ありがとうございます。これから村長のところに報告に行ってきます」


「頑張ってな」


***


ギルドを出て、村長ゴランの家に来た。玄関の前でミーナが遊んでいる。


「あ、ワタル先生。こんにちは」


「ミーナちゃん、こんにちは。最近、具合が悪いところはない?」


「すごい元気だよ。走っても息切れしないし。そうそう、伝説の竜は最近どう?」


「毎日治療を続けているよ。傷は少しずつ落ち着いてきているけど、まだ時間はかかりそうだ。でも、こちらを信頼してくれている感じはある」


「そうなんだ。竜が見られるようになったら、最初に教えてね」


「うん。約束するよ。村長は中にいる?」


「おじいちゃんは、中にいるよ」


俺はゴランの家に入った。ゴランはダイニングで椅子に腰をかけ、アルノと話し合っていた。


「ワタル先生。竜は最近どうじゃ?」


「治療は進めています。傷は少しずつ落ち着いてきていますが、根本的な改善にはまだ時間がかかりそうです。ただ、治療時にこちらへ危害を与えるそぶりは見せませんし、療養地までの除染も進んできたので、移動もずいぶん楽になってきています」


「そうか。それを聞くたびに、寿命が少し戻る気がするわい。何か変化があったら、すぐに知らせるように」


「わかりました。あと報告があります」


「なんじゃ?」


俺は深呼吸をしてから、ゴランに言った。


「保護区にノクシアさんとそのご両親を、試用期間という形で受け入れました」


「ノクシアというと、村に滞在していた薬草師か?」


「はい。ご両親も魔物の観察や薬草の知識に長けているので、生態観察と薬草の専門家として頼りになります」


俺の話を聞いて、ゴランが目を細めた。


「先生のところには、本当に人が集まるのう。それはワタル先生が、来た者に誠実に向き合うからじゃろうな」


その言葉を聞いて、俺は反射的にゴランから視線を外した。少しだけ胸の奥が重い。


すべてを話しているわけではない。けれど、今ここで話せば、ゴランを村長として危険な判断に巻き込むことになる。


俺はもう一度頭を下げ、ゴランの家を後にした。


***


「ワタル、本当に良かった?」


リコが俺を心配そうに見つめた。


「ああ。モルガナさんの言うとおりだ。嘘はついていない。ゴランさんを危険な判断に巻き込むことはできない。それに、ノクシアさんの家族は保護区にいわば逃げてきた人たち。この人たちの安全を害するわけにはいかない」


「そうね。ノクシアさんたちは頼りになるし、いい仲間。でも、難しいのだ。大人の世界って」


リコはそう言って、微笑んだ。俺は黙って頷いた。


***


保護区に戻った俺は、ドッグランを眺めた。


コロはノクシアの足元でお腹を見せて転がり、甘えている。リーフは西日を浴びて日向で丸くなり、満足げに毛並みを休めている。ハニーは柵に鼻先を乗せ、ダリオが干している根菜の甘い匂いを熱心に嗅いでいる。


そこには、かつての患者たちが取り戻した「生活」がある。そして、それをいとおしそうに見つめるノクシアの目がある。


(ここにあるのは戦力ではない。患者だった魔物たちが、そして魔王軍から逃れてきたノクシアたちがようやく手に入れた生活だ。)


俺は、この生活を守らなければならない。保護区を大きくするためではない。ここで眠れるようになった魔物たちと、ここで息をつけるようになった人たちのために。


【施設管理カルテ】

事業収支:息守りマスク用交換フィルターの先月分利益を冒険者ギルドより受領。城下町レグナとの流通再開に伴い、村外商人による購入が増加。性能評価の口コミにより、今後も需要増加が見込まれる。

外部連携:冒険者ギルドに対し、ノクシア、オルフェン、リュシアの三名を試用採用した旨を報告。ノクシアの出自については、危機管理上、ギルドマスターのみに共有。

行政報告:村長ゴランに対し、氷泉竜ルシェルドの経過および新規雇用について報告。ルシェルドは保護区北側外縁で安定しており、村への接近行動は認めない。

情報管理:ノクシアの夜魔族および元魔王軍観察官としての経歴について、村長への共有は当面見送る。村行政を不要な危険および政治的判断に巻き込まないため、開示範囲を限定する。

特記事項:マスク事業の拡大により、保護区の活動が村外へ波及し始めている。保護区の生活環境を守るため、引き続き除染作業と患者管理を継続する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。