↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物は討伐しません、診察します〜転生獣医のもふもふサファリパーク開拓記〜  作者: あおにし
第2部 夜魔族ノクシア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/74

第37話 診察は、プライドに先んじます

いつも応援ありがとうございます!お楽しみください!

その日の午前、ルミナ村の冒険者ギルドに緊張が走った。


農家のマルタが、自らの畑で「サンダーラビット」に襲われ負傷したという報せが入ったからだ。


「よりによって、めぼしい腕利きが全員出払っている時に……」


ギルドマスターのモルガナが忌々しげに呟く。


ギルド内に残っているのは、新人のレオン一人だけだった。モルガナはレオンを一瞥したが、すぐに首を振って、そこにいた甥の門番キャスパーを呼んだ。


「キャスパー! すぐにワタルを呼んできな。これは討伐じゃない、診断が必要だ」


「ギルマス、俺がいけます! マルタさんが怪我をしたんだ、俺だって村の役に立てるはずだ!」


レオンが必死に声を張り上げた。


最近、妹のサラがモルガナに「兄より筋がいい」と認められ始めたことも、彼の焦りに拍車をかけていた。


しかし、モルガナの眼光は鋭い。


「あれはただのウサギじゃない。瘴気を吸って神経が焼けたみたいに跳ね回り、近づくものを反射で撃つ厄介な相手だ。今のあんたには荷が重い。ワタルに任せる」


モルガナの言葉は、レオンのプライドを粉々に打ち砕いた。


キャスパーが保護区へ走るのを見送ったレオンは、拳を握りしめ、モルガナの制止を無視してギルドを飛び出した。


***


俺は朝の回診を行っていた。


コロもリーフもハニーも順調だ。彼らはこの施設で生活することになる。ストレスなく暮らすための施設づくりを進めなければならない。


そこへキャスパーが駆け込んできた。


「ワタル! 大変だ!」


「キャスパーさん。どうかしましたか?」


「マルタさんが畑でサンダーラビットに襲われて、けがをしたってギルドに連絡があった。叔母さんがワタルに診てほしいって言ってる」


「わかりました。急行します」


俺は診察室に戻り、往診バッグを掴んだ。そんな俺の姿を見て、窓際にいたプルツーが往診バッグに飛び込んだ。


「プルツー。お前の力を借りるぞ。プルは引き続き施設で浄化を進めてくれ」


「ぷるるっ」


プルはそう言って、少し弾んだ。


「リコ、行くぞ。マルタさんが危ない」


***



俺とリコはキャスパーの案内でマルタの畑へ急行した。


到着した現場では、夫のトーマが負傷したマルタを抱え、必死に介抱していた。右手の甲が赤く腫れ、指先が小刻みに震えている。


そしてその前方では、一人の冒険者がサンダーラビットと対峙していた。


「あれはレオン。どうして……」


キャスパーが冒険者を見て呟いた。


俺は『絶対診察眼』を起動し、遠目から魔物の状態を観察した。


「――診えた」


サンダーラビットの耳は恐怖で伏せられ、目は見開かれている。体毛は細かく震え、周囲の物音やレオンの足音に過敏に反応しては、バチバチと青白い放電を繰り返していた。自らの放電音に驚いてさらに跳ねるという「反射のループ」に陥っている。


「レオン君、下がれ! それは攻撃じゃない、感覚過敏による拒絶反応だ!」


俺の叫びも、焦燥に駆られたレオンには届かない。彼が剣を振り上げた瞬間、サンダーラビットの神経が限界を超えた。凄まじい放電がレオンを直撃し、彼は一言も発せぬまま、畑の土の上に崩れ落ちた。


「……まずい。放電が止まらない限り近づけない。キャスパーさん! 診療所の新棟で人間の診察をしているエーリスさんを呼んできてくれ!」


「わかった。任せてくれ」


キャスパーが保護区に向かって走っていった。


俺はレオンを『絶対診察眼』で確認した。


気絶しているが、命に別状はない。少し安心した。


マルタとトーマのところに行き、事情を聞いた。


「今日、畑に来たらあのサンダーラビットがいたんだよ。普段なら畑の端で草を食べてるくらいで、害を与える魔物じゃないから、放っておいて農作業をしていたんだけど……」


マルタは右手をさすりながら言った。


「最近ね、土の味が変わってきてたんだよ。酸っぱくて、舌の奥に嫌な苦みが残る。作物だけ見てりゃ、まだ誤魔化せる。でも土を舐めれば分かる。根の下に、瘴気が戻ってきてる」


マルタは腫れた右手をかばうように抱え、畑を見渡した。


「畑を捨てたいわけじゃないよ。でも、今まで通りの場所で、今まで通りに作り続けるのは……そろそろ難しいのかもねえ」


マルタが下を向いて消え入るような声でつぶやいた。


「とりあえずは、治療を優先しましょう。エーリスさんが来ますから、それまで待ってください。プルツー、この辺りの浄化を任せた」


「ぷるっ」


プルツーはレオンの周囲を円を描くように這い、土の表面に残った瘴気だけを少しずつ吸い取っていった。


***


しばらくして、人間の患者の処置を終えたエーリスが現場に駆けつけた。


「お待たせしました、ワタルさん! レオンさんは、大丈夫ですか?」


「はい、気絶していますが、命の危険はないようです」


「マルタさんは右手にけがを負ったのですね。それで、あれがサンダーラビット……」


「はい。感覚過敏による拒絶反応で放電を繰り返しています。何とか落ち着かせないと」


リコがエーリスに語りかけた。


「ずっと見ていたけど、放電する前には体毛が細かく震え、耳が大きく動くのだ。その放電直前であれば、一瞬固まるから魔法をかけやすいと思う」


「そうですね。では、タイミングをリコさん、お願いします」


「わかったのだ。……今、エーリスさん」


リコの言葉を聞いて、エーリスが『魔力鎮静』をかけた。柔らかな光がサンダーラビットを包み込む。荒れ狂っていた魔力が凪ぎ、魔物は半ば眠るように体を丸めた。


「よし、今のうちに確保する。リコ、木箱を」


サンダーラビットは小型だ。俺は導電しにくい厚手の布でその小さな体を包み、金具のない木枠の運搬箱へ収容した。これなら俺とリコだけでも運べる。


問題は、電撃を浴びて失神しているレオンだった。


「キャスパーさん、ギルドから誰か呼んで担架を持ってきてください。レオン君を安全に搬送する必要があります」


「おう。わかった」


***


俺たちは手分けをして、二人の患者を保護区へと運んだ。


魔物用隔離処置室にはサンダーラビットを、竣工したばかりの新棟にある人間用病室にはレオンを。診療所が初めて、人間と魔物を同時に受け入れた瞬間だった。


病室のベッドの上で、レオンがうっすらと目を開けた。


「……う、俺は……あのウサギ、を……」


起き上がろうとする彼を制し、俺は静かに彼の脈を取った。


「動かないでください。今は冒険者としてのプライドより、心臓と呼吸の方が大事です」


俺はそう告げてから、エーリスに頷いた。


「レオン君をお願いします。俺はサンダーラビットの処置に入ります」


人間用病室と、魔物用隔離処置室。この日、診療所は初めて、二つの病室を同時に動かした。


魔物も人間も、今はどちらも患者だった。


【施設管理カルテ:多種同時収容フェーズ】

患者経過(魔物):サンダーラビット。重度の瘴気中毒に伴う末梢神経の異常興奮および反射性放電。魔力鎮静下で隔離処置室へ収容。低刺激環境で経過観察。

患者経過(人間):レオン(冒険者)。電撃による一過性ショックおよび失神。人間用病室へ収容。バイタルチェック(心拍・呼吸)および火傷の有無を継続観察。

施設運用:診療所新棟の「人間用病室」を初稼働。魔物区画(旧家畜小屋)と人間区画(新棟)の分離運用を実地確認。

供給ライン:マルタの負傷および従来畑への瘴気再侵入により、野菜供給の一時停滞リスクを計上。

特記事項:本保護区は、討伐対象とされた魔物と、討伐に向かった人間を、同時に患者として扱うフェーズへ移行した。

もし『続きが気になる!』『この話、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。