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006 まんざらでもないって話だぜ


「一体どうなってんだ!」

俺がイスに座り右手を広げる。


ココはエレナの家。

高層マンションの一室だ。

もう俺の探偵事務所には戻れない。

なぜなら俺たちは、殺人現場で目撃され、逃走したからだ。

さすがにまだ正体はバレてはいないはずだが、用心に越したことはない。

そのため、エレナが匿名(殺し屋用)で借りている高層マンションの一室に逃げ込んでいるのだ。

ここなら今のところ見つかる心配はない・・・はずだ。


「ボビー!とりあえずウォルトに連絡よ、早くして!」

エレナがベッドの下からスーツケースを引っ張り出す。


「ああ、そうだな」

俺がウォルトに電話する。

呼び出し音が聞こえる。


「ウォルトが出たら、スピーカーにして」

エレナが俺を見る。


俺がうなずく。

「あ、ウォルトか!?そうだ、俺だ!

 ちょっと待て!エレナも一緒だ!スピーカーにする!」


『おい!どうなってんだ!お前らッ!』

ウォルトが電話越しに叫ぶ。


「ウォルト!それはこっちが聞きたいぜ!」


『大富豪のババアの旦那が、安モーテルで殺されたんだぞ!

 しかも!お前ら!目撃されてんだろ!?

 お前らが捕まったら俺もヤベぇじゃねぇかッ!!』


「ウォルト!アタシよ!警察にはもうバレてるの!?」

エレナが電話のそばに来て叫ぶ。


『いや、まだだ。

 けど、モーテルの女が言ってる目撃証言が、どう考えてもお前らだ!そうだろ!?』


「ああ、モーテルの女に見られた」

俺が答える。


『で、やったのか!?お前らが!?』


「違う!俺たちじゃない!

 俺たちが部屋に入った時にはもう死んでた」


『お前たち、もしかして犯人は見たのか?』


「ああ見た。証拠もある」


『証拠?』


「そうだ。写真がある。犯人全員と逃走したSUVのナンバーも写っている」


『そうか!そりゃ朗報だぜボビー!』


「ウォルト、今すぐ証拠写真をメールする」


『よし!すぐに送れ!

 それと、まず会って話がしたい!お前らどこにいる?』


「誰にも見つからない場所よ、ウォルト!」


『そうか!よしエレナ!その場所は誰にも言うんじゃねぇぞ!』


「わかってるわ、ウォルト!」


『それじゃ、どっかで待ち合わせしよう!』


「待ち合わせ・・・そうね、ウォルト!じゃ、あのバー覚えてる?

 ジョンとキャシーの誕生会をしたバーよ!

 あそこならこの時間から開いてるはずよ!」


『ああ!分かった!あそこだな!

 よし!あのバーで待ってろ!すぐに行く!』


「それじゃ、後で!」

エレナが電話を切る。


「何とか、なりそうだな」

ウォルトのクソ野郎がこんなにも頼もしく思えたのは初めてだぜ。


「そうね。でも油断はできないわ。変装して行くわよ」


「変装?」


「そうよ」

エレナがスーツケースを開ける。


「こ、これは・・」


「変装セットよ」

エレナが俺を見る。




--- 変装完了 ---



「ほら!行くわよ!早く!」

黒髪から金髪に変装したエレナが玄関で手招きをする。


「なぜだ?」


「は?なぜって、バレたら困るでしょ?」


「だから、なぜ俺が・・」


「決まってるでしょ?

 警察が探してるのは、歳の差の離れた男女なんだから」


「だからって、なぜ俺が女装を・・・」


「女2人は捜査対象じゃないでしょ?

 それにボビー。結構、似合ってるわよ。いいから!早く!行くわよ!」


女装した俺と、変装したエレナは、待ち合わせ場所のバーへと向かう。




--- 待ち合わせのバー ---


女装した俺とエレナは、バーの奥のテーブル席に、向かい合って座っている。


「おい!なんでパンストまで履かなきゃいけないんだよ!?」

俺が小声でエレナに言う。


「は?」

エレナが注文したビールをゴクゴク飲む。


「これお前ズボンだろ!?

 パンストなんか見えないんだから履く意味ないだろ!?」

俺が自分の履いているズボンを指差す。


「は?当然でしょ?

 完璧にしないとバレるからよ」

エレナがビールをゴクゴク飲む。


「だから、パンストは見えないんだから、」


「来たわ!」

エレナが俺の言葉をさえぎり、バーに入って来たウォルトに向かって小さく手を挙げる。


それに気づいたウォルトが、バーのマスターにビールを注文して、滑り込む様にエレナの横に座る。


「ちょ!・・・お前、ボビー?・・・ボビーか?」

ウォルトがサングラスをずらして俺を見る。


「ああ・・・」


「何やってんだお前?それ変装のつもりか?」


「ああ・・・」


「まるでバケモンだぜ」


「・・・・・」

この男、言い過ぎだろ・・・俺はウォルトをにらむ。


「ウォルト、そんな事はどうでもいいのよ。今、警察はどうなってるの?」


「ああ、それだ。かなりマズいぜ。

 マスコミも騒ぎ出した。とにかくお前ら、今は身を隠してろ」


「ウォルト、俺の送った証拠写真は?確認したか?」


「おう。アレな。

 悪いがアレはまだ使えない」


「まだ使えない?どういう意味だ?」


「情報源がボビー、お前だって言うと俺との関係がバレる。

 そうなると被害者の調査を依頼したのが俺だって分かるだろ?」


「ウォルト、別に副業は悪い事じゃないわよ」


「ああ、だが勤務時間中の副業は禁止されてる。

 ヘタに内部調査なんかされちゃ、俺の他の事も芋づる式にバレる。

 そうなると俺が悪徳警官だって事がバレちまう。だろ?」


だろ?じゃねぇよ。

コイツ、自分から悪徳警官なんていいやがって・・・

まったく、ウォルト、お前ってヤツは、たいしたタマだぜ・・・


「それにお前ら、事実証人として裁判に出るのか?」


俺とエレナが顔を見合わせる。

「・・・・・」

2人の顔が曇る。


「ほらな?

 とにかく、あの証拠は最後の切り札だ。

 だからボビー、あのデータは必ずコピーを取っておくんだぞ。お前らの命綱だ」


「ああ、わかってる。だがこのままじゃ、俺たちが犯人にされちまう」


「そこは大丈夫だ。俺が何とかする。てか、そうしなきゃ俺までパクられるからな!

 とにかくお前ら、ヘタに動くんじゃねぇぞ!わかったな!また連絡する!」

ウォルトが立ち上がり、俺たちのテーブルを後にする。


「おい、ちょっと!あんた!ビールは!?」

バーのマスターがドアから出ようとするウォルトに叫ぶ。


「奥のレディにやってくれ!俺からのおごりだ!」

ウォルトが俺たちの方を指差す。


バーのマスターがビールを俺の前に置く。

明らかに俺の顔をジロジロ見ながらカウンターへと戻って行く。

俺は、気まずい表情を出すまいと下を向く。


「レディ・・・ねぇ・・」

エレナがつぶやき、俺を見る。

そして小さくニヤけながらビールをグビッと飲むと、何かに気付いた様子で一瞬動きが止まる。


向かいに座るエレナの視線が止まっている。

「マズいわ・・・」

エレナが一点を見つめたままつぶやく。


俺がその方向をゆっくりと振り向く。

バーの天井に固定されたテレビ画面に、俺の顔写真と名前がデカデカと映し出されている。


「早いわね・・・」

エレナがつぶやく。


へへ・・そうか、俺・・ついに指名手配か・・・

それにしても何て報道の早さだ。

俺の顔写真まで用意してやがる。

女装した俺はビールを飲み干す。


「ボビー、アンタ・・・目尻のツケマツゲが取れてるわ・・・」

無表情のエレナが俺の顔を見てつぶやく。


「え?」


「そっちじゃないわ、左よ・・・

 ほら、付けてあげる。顔出して」


「ぁぁ・・すまねぇ・・・」


さぁて、俺たちは一体、どうなるのだろうか・・・




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