005 なんか様子がおかしいって話だぜ
「降りて」
エレナがバイクを停める。
俺はバイクから降り、ヘルメットを脱ぐ。
脱ぐというより、こめかみから外す、が正解だろう・・・
ここは街はずれのモーテル。
ミシェルの旦那と若い女性は、腰を抱き合いケラケラ笑いながら112号室へと入って行った。
俺は、そんなターゲットをセルフォンで写真に撮る。
直球ど真ん中の浮気だ。
これはもう探偵なんか雇わなくてもいいのではないのか?
「行くわよ」
ん?
「どこに?」
「隣の部屋を借りるのよ」
「何で?もう証拠は充分だ」
「まだよ。決定的な証拠が必要だわ。これだけじゃ弱いわ。
こんなの、優秀な弁護士ならいくらでも覆せるわ。
もしそうなったら、ウォルトに貸しを作る事になるわ。
あんな男に貸しなんか作りたくないのよ。ほら、行くわよ」
エレナが大きなサングラスをかけ、モーテルの受付へと向かう。
チッ!
もういいだろコレで・・・
俺はブツブツつぶやきながらエレナの後を追う。
受付で、不愛想な中年の女がセルフォンをいじっている。
エレナが受付を済ませる。
余分に支払うことで、隣の113号室のガキを受け取る。
不愛想な中年の女が俺をチラッと見る。
年齢差のある男女が、バイクでモーテルに来て、若い女が支払いをする。
確かに違和感がある。というか違和感だらけだ。
「行くわよ」
エレナが俺の前を横切り受付を出る。
俺は、受付に座る不愛想な中年の女から目を反らし、エレナの後を追うように受付を出る。
--- 113号室 ---
ここはモーテルの113号室。
隣の112号室には、ターゲットであるミシェルの旦那と若い女性がいる。
時折、物音が聞こえてくるが会話などは全く聞こえない。
「エレナ、ここで何をやろうってんだ?」
俺がベッドにドスンと横になる。
「浮気しているという決定的な証拠の写真を撮るのよ」
「だからどうやって、その写真を撮るんだ?」
「アンタ、普段どうやってんのよ?」
エレナが壁に耳を当て、隣の112号室の様子をうかがう。
普段、俺はいつも調査には車を使う。
バイクは小回りがきくので追跡しやすいが、張り込みには向かない。
隠れる場所がないからだ。
仮に、モーテルにバイクに乗って来た男女が部屋も借りずにいつまでも駐車場に居たとする。
それはモーテル側からすると、ただの営業妨害か、れっきとした不審者だ。
だから、
「俺は、基本、車内からターゲットを狙う」
「・・・・・」
エレナが壁から耳を離し、ゆっくりアゴを上げて細い目で俺を見る。
「俺はバイクで調査はしない」
「・・・・・」
「俺はバイクで調査は、しない」
「聞こえてるわよ・・・
それ、何?もしかして私が悪いってこと!?
バイクで来た私が悪いって言ってんの!?」
「いや、そうは言っていない。
車で来れば良かったと言っている」
「・・・・・」
「車で来れば良かったと言ってい・・うぐっッッッッツ!!」
俺のノドにダガーナイフが食い込む。
エレナが俺に覆いかぶさり顔がグッと近づく。
威圧感と殺気だつ眼力で俺を鋭くにらむ。
ここ、ころされる・・・
俺は微動だにせず目を見開く。
「・・・・・」
エレナがダガーナイフを俺のノドに食い込ませたまま無言でにらむ。
エレナが静かに呼吸しているのが分かる。
「・・ぅ・・・」
俺は微動だにせず、うめく。
「・・・・・」
エレナが俺をにらみながら、無言でゆっくりと離れる。
く、くっそー・・
こいつ・・事あるごとにダガーナイフなんか振り回しやがって!
俺は、無事を確かめる様に右手で首をさする。
「ねぇ、アンタ・・・」
エレナがダガーナイフを腰のケースに戻す。
「・・な、なんだ?」
「さっきから何で抵抗しないのよ?」
「は?」
それ、どういう意味だよ!
ダガーだぞ!ダガーナイフだぞ!
そんな殺人ナイフを首に突きつけられて、どうやって抵抗すんだよ!
んな事できるか!!
「アンタ、本当にエスコット・・?ボビー・エスコットなの?」
「ああ・・そうだ・・」
何だ?どういう意味だ?
「ふ~ん・・・」
エレナが細い目で俺を見る。
な、なんだその疑いの目は!?
というかだ。
さっきから俺は、エレナとの会話に何かしっくりしない感じがしている・・・
ぁ・・もしかして・・こいつ、
ガチャ。
隣のドアが開く音がする。
エレナがそっとカーテンの隙間から外の様子をうかがう。
俺も首をさすりながら窓へ近づく。
「女が出てきたわ」
エレナが窓から視線を外さずささやく。
俺もカーテンを少しずらし、窓に顔を近づける。
112号室から若い女が1人で外に出て、駐車場へ向かう。
「写真よ、ボビー」
「ああ」
俺はセルフォンで若い女を撮る。
若い女が駐車場に停めてあるガンメタリックのSUVに近づく。
SUVから3人の男たちが降りてくる。
その男たちに若い女が目配せをし、入れ違うようにSUVの後部座席に乗り込む。
3人の男たちが112号室へ入って行く。
「様子が、変だ・・」
俺が写真を撮りながらつぶやく。
「・・・・・」
エレナが無言でカーテンから離れる。
「エレナ・・どうする?」
俺がエレナを見る。
「そうね・・・行くわ」
エレナが少し考えつぶやく。
「行くって、まさか、」
「隣よ、今から中に入るの」
「それは、お前、」
ガシュッ!!
突然の重い金属音に、俺とエレナが同時にビクッとなる。
ガシュッ!!
ガシュッ!!
重い金属音が立て続けに鳴る。
銃声!?
カーテンの隙間から覗くと、隣の112号室から3人の男たちが足早に出てくる。
俺は写真を撮る。
男たちは、誰も声を発する事無くガンメタリックのSUVに乗り込む。
俺は写真を撮る。
ガンメタリックのSUVが、モーテルの駐車場をゆっくりと後にする。
俺とエレナは顔を見合わせ、すぐに部屋を飛び出し、隣の112号室へ向かう。
112号室のドアは、開いたままだ。
部屋の中に入ると、ベッドに男が倒れている。
ターゲットであるミシェルの旦那だ。
ミシェルの旦那は左目だけが半開きになり、ピクリとも動かない。
ベッドの横の床に銃が落ちている。
「サプレッサー・・」
エレナがつぶやく。
サプレッサー、いわゆる消音器付きの銃である。
何だ?
なにが起こっている!?
「何も触らないで」
エレナが部屋中に視線を送る。
「エレナ・・こいつは一体・・」
俺は動揺する。
何だよコレ!
この男、死んでんのか!?
何が起こってんだコレ!?
「ぎゃぁああああああ!!!!」
受付の中年の女が112号室の入口で叫ぶ。
中年の女は、よろめきながらも受付へと駆け込んでいく。
恐らく通報するのだろう。
「逃げるわよ」
エレナが、静かだが、しっかりとした口調で言う。
「ああ・・」
俺とエレナはバイクにまたがる。
エレナがハンドルを握る。
俺はこめかみまでヘルメットを装着する。
「行くわよ!」
カチャ、ブオオオオオーーーン!!!
バイクが重低音を響かせ、モーテルを後にする。
さて、俺たちは一体どうなるのだろうか・・・




