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004 目隠しって話だぜ


「着いたわ」

俺とエレナはタクシーを降りる。


ここは俺の探偵事務所から、タクシーで3分ほどの距離だ。

近すぎる、という理由でタクシー運転手とひと悶着あったが、チップをはずむという条件で丸く収まった。


「エレナ・・ここ、メールの場所か?」


「私のホームよ。ちょっと待ってて」

エレナが高層マンションの地下へと降りて行く。


ホーム?

今、ホームって言ったか?

俺の事務所から、およそ8ブロックという所か・・・

えらく近いな。


俺は高層マンションを見上げる。

しかしまぁ・・・殺し屋ってもんは、儲かるもんなんだなぁ・・・

ま、俺には縁のない世界だぜ・・・

俺はポケットからタバコを取り出し、口にくわえる。


ん?まてよ?

これ、逃げるチャンスじゃね?

よし、逃げるか・・


ブロロロロロ・・・


重低音のバイクに乗ったエレナが、地下駐車場から現れ俺の前で止まる。


ふっ、単車か・・・渋いな・・


というか俺は、逃げるチャンスを逃したことを後悔する。クッソー!

俺はイラつきながらもライターを取り出す。


「何やってんのよアンタ!タバコなんか吸ってるヒマないわよ!」

パシッ!

エレナが俺の口からタバコを奪う。

流れるような動きで俺の胸ポケットにタバコをねじ込む。


「それに困るのよ」


「何が?」


「仕事に支障が出るのよ臭いは!」


「は?」


「特徴のある臭いってのは特定されるきっかけになるのよ」


「特定?」


「そうよ。

 例えば犯行現場で目撃者とすれ違ったとするでしょ?


「ああ」


「その時にタバコの臭いがしたら、捜査範囲を絞る要素になるでしょ?」


そりゃ、お前みたいな裏稼業だとそうかもしれねぇが、

「これは尾行するだけだぞ?」


「チッ!とにかくタバコの臭いが付くのがイヤなの!

 いいから!ほら、これかぶって乗って!」

エレナがフルフェイスのヘルメットを俺の胸に押し当てる。


「お前はかぶらなくていいのか?」


「ひとつしかないのよ!いいから後ろに乗って!」


「ああ」

俺がバイクの後部にまたがる。

そしてフルフェイスのヘルメットをかぶる・・・・が、

ヘルメットが小さいのか、俺の頭がデカいのか、こめかみまでしか入らない。

フルフェイスの口の部分が目の位置で止まる。

目がふさがれ、俺の頭が長い状態だ。


「いい?かぶった?」

エレナが前を向いたままハンドルをグッと握る。


「いや・・・」


「え?なに?」

エレナが振り向く。


「目隠し状態だぜ」


「はぁ?アンタ何やってんのよ!?」


「入らねぇんだ」


「もう!いいわよ!それで!

 ボビー!行くわよ!しっかり捕まって!」


カチャ、ブオオオオオーーーン!!!


急加速のGが俺を引っ張る。

と同時に頭の上のフルフェイスヘルメットがグワン、グワンと暴れる。

時々、暴れるヘルメットの口の部分が、エレナの後頭部にガツンと当たる。


「ちょッ!やめてよボビー!痛いじゃない!!」


「仕方ねぇだろ!サイズが合ってねぇんだからッ!!」

俺は目隠しの状態で風圧とエンジン音に負けない声で叫ぶ。


意味あんのか?


この状態のヘルメット、意味あんのか?

安全性に問題があるんじゃないのか?


・・・て!あるやろ!!

意味ねぇだろ!これ!!

しかも前、見えてねぇんだぜ!?


カチャ、ブオオオオオーーーン!!!


重低音のバイクがGの加速で俺を揺らす。

頭の上のヘルメットもダイナミックに揺れる。

エレナの後頭部にガツガツ当たる。

ブチギレのエレナの絶叫が聞こえる。


俺たち何やってんだって話だぜ・・・



--- 10分後 ---



「着いたわ。降りて・・・痛ッて・・・」

エレナが後頭部を押さえる。


「済まねぇ・・・」

俺は目隠しの頭が長い状態で謝る。


「もう、取んなさいよ!それ!」

エレナがブチ切れている。


俺はフルフェイスのヘルメットを取り、バイクのヘルメットホルダーにかける。

バイクを停めた向かい側に、会員制のフィットネスクラブがある。

もうすぐターゲットであるミシェルの旦那がやってくる。

これから四六時中、旦那をつけ回す事となる。

それが浮気調査だ。


エレナが右手を出す。

「電話貸して」


「ん?」


「ん?じゃないわよ、ボビー。万が一の連絡用よ!

 登録すんの!早くアンタの電話貸して!」


「あ・・ああ」

俺はセルフォンをエレナに渡す。


「ミシェルの旦那がフィットネスクラブの中に入ったら、裏へ回るわよ」

エレナが慣れた手つきでセルフォンを操作する。


「どっちが裏に行くんだ?」


「どっち?・・・2人で行くに決まってるでしょ!」


「表から出てきたらどうすんだ?」


「こういうのは裏から出るに決まってるのよ」


「そうなのか?」


「フィットネスクラブの中で女と合流して裏から出てタクシーに乗る。基本よ・・・はいコレ、返すわ」

エレナがセルフォンを俺に渡す。


くそ!

俺は、表と裏に別れた所でトンズラをかます作戦だった。


「それにアンタ、別行動したら、」

エレナがじっとりとした目で俺を見る。

「逃げるでしょ?」


くそ!

バレてやがる!トンズラ作戦失敗だぜ!!


「あ・・来たわ、アレよ・・。早く写真撮って!」

エレナが俺を肘で付く。


ミシェルの旦那がピカピカの高級車でフィットネスクラブの前に乗りつける。

時間通りだ。

俺はセルフォンで写真を撮る。


と同時に、フィットネスクラブから若い女性が笑顔で車に走り寄る。

俺はセルフォンで写真を撮る。


若い女性が車に乗り込む。2人がキスをする。

俺はセルフォンで写真を撮る。


車がゆっくりと走り出す。


「・・・・・」

「・・・・・」


中に入んねぇし・・・

裏なんか行かねぇし・・・

なんなら堂々とキスなんかしてるし・・・

これもう、浮気を隠す気なんかサラサラないし・・・


ターゲットであるミシェルの旦那が運転する車が、俺たちの前を通過する。


「ちょ!何してるのアンタ!ほら!乗って!追いかけるわよ!」

エレナがヘルメットを俺に押し付ける。

俺はバイクの後部にまたがる。


さて、どうする?

俺はヘルメットをかぶるのか?

かぶらず手に持っておくのか?

いや、これ、エレナがかぶればいいんじゃないのか?


「行くわよ!」


カチャ、ブオオオオオーーーン!!!


重低音のバイクがGの加速で俺を揺らす。

俺は、ためらう事無くヘルメットを装着する。


前が見えない・・・


さて、これから俺は一体どうなるのだろうか・・・




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