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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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95話 イギリス

1803年。ロンドン、テムズ川沿いに建つイギリス海軍省の一室。


 部屋には重苦しい静寂が立ち込め、高級なパイプ煙草の煙だけがどんよりと漂っていた。

テーブルを囲んでいるのは、海軍卿、財務大臣、そして数日前にパリでの屈辱的な「新海上経済協定」の調印から戻ったばかりの特使たちである。


「……信じがたい。マサトという男は、悪魔か何かか?」


 海軍卿が、手元の報告書を震える指で叩いた。


「我が国の工場や製鉄所で使われるべき『海外からの石炭や高品質な鉄鉱石』が、フランスの港湾規制と莫大な関税によって、ロンドンへ届かなくなっているだと!?」


「その通りでございます……」


 特使だった財務大臣が、老け込んだ顔で力なく頷いた。


「我が国でも蒸気機関の導入や炭鉱の採掘を進めておりますが、国内の採掘量だけでは工場と船の双方を賄うことなど不可能です。海外の豊かな給炭地や鉱山を、マサト総裁が『経済協定』という鎖でことごとく自国の傘下に収めてしまった……」


「クソッ……! パリの総裁め!」


 海軍卿は苦々しく吐き捨てた。

 史実であれば、イギリスは自国の植民地と圧倒的な木造艦隊を背景に、世界に先駆けて「産業革命」の果実を独占するはずだった。


しかし、この世界ではマサト総裁が敷いた「給炭港ネットワーク」と「海上交通の共通規格」によって、世界のエネルギー資源の流通権をフランスがガチガチに握ってしまっていた。


フランスの給炭港を使いたければ、莫大な通行税を金貨で支払わねばならない。

さもなくば、石炭を積んだ商船すらイギリスの港に届かないのだ。


「海軍省だけではありません」


 財務大臣がさらに絶望的な追撃を口にする。


「マンチェスターの繊維工場や、バーミンガムの製鉄所からも悲鳴が上がっております。『フランスから石炭と鉄が入ってこないため、工場を稼働させられない』『マサト総裁の決めた規格に合わせねば、製品を海外に輸出することすら拒否される』と……」


産業革命の火が灯りかけたイギリスの工場群は、フランスによる資源供給の蛇口の締め付けによって、急速に窒息しかけていた。


大砲を撃ち込まれたわけではない。イギリス経済の根幹である「エネルギーと資源の流通」を、マサト総裁に手張り殺しにされていたのだ。


同じ頃、ロンドン郊外の海軍ドック。

潮風が吹き抜ける足場の上で、イギリス海軍の英雄、ネルソン提督は一人静かに海を見つめていた。


彼の眼下には、イギリスが誇る伝統の120門大型戦列艦が何隻も停泊している。


立派な木造の船体、天を突くような巨大なマスト。……だが、ネルソンにはそれらが、すでに「過ぎ去った時代の遺物」にしか見えなかった。


「……風を待ち、木を削り、石炭すら満足に手に入らぬ我が国が、あの『鉄と蒸気』の艦隊に勝てるはずがない」


ネルソンは、かつてカリブ海で私掠船団を数時間で粉砕したという「装甲蒸気艦」の報告書を思い出し、深く長いため息をついた。


軍事力、技術力、そして何より世界規模のエネルギー物流網

そのすべてにおいて、マサト総裁率いるフランスはイギリスの遙か先を走っている。


「マサト総裁……。貴方は戦わずして、我が国の未来そのものを買い叩いたというわけか……」


今回から西暦を具体的に明記するようになりました。

矛盾点などが生じるかもしれませんがあくまで目安としてお願いします。

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