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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第94話 新協定

パリ、総裁府の特別応接室。


 数日前に青ざめた顔で逃げ帰った駐仏大使に代わり、ロンドンから急遽派遣されてきたイギリスの特使、財務大臣と海軍省の最高幹部たちが、マサト総裁の前に並んで着席していた。


「……マサト総裁。我が国は、前回の基本合意および私掠船問題に関する全責任を認めます」


 大蔵卿は、絞り出すような声で言葉を紡いだ。


「我が国はカリブ海ならびに地中海、インド洋におけるフランスの給炭港の存在を正式に承認いたします。これで……これで本件は手打ちとしていただけないでしょうか」


「手打ち、ですか」


 マサト総裁は冷ややかな微笑を浮かべ、組んだ手に顎を乗せた。


「不十分ですね。貴国が裏で私掠船を操り、我が国の平和的な海上補給網を脅かした事実は消えません。我が国が被った損害と、今後の世界の海上治安維持を考えれば……より実効性のある『構造的修正』が必要です」


 マサトが軽く顎で合図すると、傍らに控えていた総裁のラ=ファイエットが、分厚い新協定書をイギリス特使たちの前に提示した。


「……な、何ですかこれは……!?」


 目を通した大蔵卿の顔が、見る見るうちに土気色へと変わっていく。そこに記されていたのは、軍事的な要求ではなく、極めて冷酷な「経済とインフラの縛り」であった。


「第一に、今後イギリス船が世界各地に点在するフランスの『給炭港』を利用、あるいは近海を通行する際、我が国の定める共通港湾使用料ならびに国際海上税を金貨で支払うこと」


 マサト総裁は淡々とした口調で、追い打ちをかけるように条件を突きつけていく。


「第二に、風に頼る貴国の古い商船・軍艦は、我が国の指定する『海上交通ルール』および『信号規格』に従って航行すること。……これに従わぬイギリス船は、我が国の給炭港への寄港を一切拒否し、違法船として立ち入りを禁止します」


「そ、そんな馬鹿な!!」


 海軍省の幹部が思わず立ち上がり、声を荒げた。


「世界中の給炭港と要衝を押さえているのは貴国だ! そこで石炭の補給や寄港を拒否され、フランス主導の規格に従わせられるとなれば……我が国の海洋貿易は、すべて貴国の上でしか動かせなくなるではないか!!」


「その通りですよ」


 マサト総裁は眉ひとつ動かさず、静かに彼らを見据えた。


「拒否されても構いません。ただしその場合、貴国は私掠船の不正行為に関するすべての証拠と捕虜の供述を、全欧州に公開される覚悟をしていただくことになる。……そして、世界中で孤立し、産業革命の波に取り残されるだけです」


「くっ……!!」


 自前の蒸気船ネットワークを持たないイギリスにとって、フランスの給炭港を利用できなくなることは、世界の貿易網から完全に締め出されることを意味していた。


銃丸を一発も撃ち込まれることなく、自国の経済の息の根を完全にフランスに握られたのだ。


ナポレオンがマサトの背後で胸を張り、ニヤリと不敵な笑みを漏らす。


「マサト総裁のおっしゃる通りにされることですな。自国の非を認め、フランスの定める『新時代のルール』に従うか……それとも、世界中からハブられて自滅するか。選択肢は最初から無いはずですが?」


「……わかり……ました……」


 イギリスの財務大臣は、まるで何十歳も老け込んだかのように肩を落とし、震える手で羽ペンを取った。


「条件を……受け入れます。我が国はフランスの提示した『新海上経済協定』に署名いたします……」


 イギリス特使団が、魂を抜かれたような足取りで部屋を去っていった後。


「……お見事でございます、マサト総裁」


 ナポレオンが深々と頭を下げ、感服の念を露わにした。


「敵の息の根を止めるのに、大砲など不要でしたな。給炭港という『インフラ』と『ルール』で相手を縛り上げ、息をするたびに我が国へ金が入る仕組みを作ってしまうとは……」


「ええ」


 ラ=ファイエットも満足そうに書類をまとめた。


「これでイギリスの経済と海運は、実質的に我が国のコントロール下に置かれました。イギリスが富めば富むほど、その一部が港湾料や関税としてフランスへ流れ込む……完璧な手張り殺しですよ」


「よし」


 マサト総裁は立ち上がり、すっきりと晴れ渡ったパリの空を見上げた。


「軍事でも、外交でも、経済でも、イギリスの脅威は完全に抑え込んだ。上手に行き過ぎて怖いくらいだ」


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