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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第93話 土産

パリ、総裁府の極秘会議室。


 そこには、マサト総裁を中心に、ナポレオン将軍、総裁のラ=ファイエット、そして急遽呼び出された駐仏イギリス特命全権大使の姿があった。


「……マサト総裁。わざわざこのような非公式の場にお呼び出しいただき、一体どのようなご用件でしょうか?」


 イギリス大使は警戒感を露わにしながら、マサトの前で椅子に腰掛けた。


 アミアンの講和以降、表面上は平和が保たれているものの、陸でのフランスの圧倒的覇権と、最近地中海やインド洋で噂される「鉄の蒸気艦隊」の存在に、ロンドン本国が神経を尖らせているのは誰の目にも明らかだった。


「本日は、大使に一つ『素晴らしいお土産』をお渡ししたくてね」


 マサトは静かな口調で言い、手元の革袋から一枚の羊皮紙を取り出してデスクの上に滑らせた。


「……なっ!?」


 羊皮紙を目にした瞬間、イギリス大使の顔から血の気が引いた。


 そこに刻まれていたのは、サン=ドマング(ハイチ)沖でラトゥーシュ=トレヴィル提督が壊滅させた海賊艦隊の旗艦から押収された、イギリス海軍省の極秘印章と国王親書、すなわち、イギリス政府が裏で海賊(私掠船)を雇い、アミアン和約を破ってフランス領を襲わせようとした絶対的な証拠であった。


「こ、これは偽造だ! 我が国王陛下ならびに海軍省が、そのような野蛮な海賊に資金を与えなど……!」


「白を切るのはおやめなさい、大使」


 マサトの横で、ラ=ファイエットが冷徹な笑みを浮かべた。


「その証拠文書の紙質、インク、印章の蝋に至るまで、既に我が国の専門家が完璧に鑑定済みです。おまけに、我が艦隊に捕らえられた私掠船主の生き残り数十名が、すでにパリの監獄で少し痛い目に遭ってもらったら『ロンドンの誰から指示を受けたか』を事細かに供述しておりますよ」


「う……く……ッ……!」


 大使の額からダラダラと冷や汗が吹き出す。

 さらに、マサトの斜め後ろに直立していたナポレオンが、腰のサーベルに手を当てながらギラギラとした目で威圧するように一歩踏み出した。


「マサト総裁。もしイギリス政府がこの不法行為を認めず、誠意ある対応を見せないというのであれば……我が陸軍は直ちに全欧州の全軍に動員令をかけることを進言いたします。さらに、ラトゥーシュ=トレヴィル提督の第一装甲艦隊をドーバー海峡へ回航させてもよろしいですな?」


「……っ!? ドーバー海峡へ……!?」


 大使の身体が恐怖でガタガタと震え出した。

 カリブ海で三十隻以上の巨大帆船団が、わずか四隻のフランス装甲蒸気艦によって「二時間で全滅させられた」という衝撃の報告は、すでにロンドンにも届いていたのだ。もしあの怪物がドーバー海峡に現れれば、イギリス海軍本国艦隊とどれくらい戦えるか未知数だ。


「まあ待ちなさい、ナポレオン。私は平和的な解決を望んでいる」


 マサトが手を挙げてナポレオンを制すると、大使に向き直り、組んだ手に顎を乗せた。


「大使。この証拠と捕虜の供述を欧州全国オーストリア、プロイセン、ロシア、そして全世界の新聞に公開してもいいのですよ? 『アミアンの講和を裏で破り、海賊を雇って平和を乱した裏切り者の島国』として、イギリスは国際社会から完全に孤立することになりますが……どうされますか?」


「ひ、避けていただきたい……! マサト総裁、どうか、どうかそれだけは……!!」


 もはや全権大使としての尊厳など皆無だった。大使は椅子から崩れ落ちるように膝をつき、必死にマサトに懇願した。


「我が国が……我が国がどのような条件を飲めば、その証拠を伏せていただけますか……!?」


「簡単なことです」


 マサトは準備していた新たな協定書をデスクに置いた。


「第一に、カリブ海および地中海、インド洋におけるフランスの給炭港網と貿易権益を公式に認めること。第二に、今後一切の私掠船活動を禁止し、違反した場合は全額の賠償金を支払うこと。そして第三に我が国とイギリスの間で、海上での補給および領海に関する『二大海洋協定』を締結すること」


 それは、「イギリスが自ら海の絶対的覇権を諦め、フランスを同等の『海の共同覇者』として正式に承認する」ことを意味していた。


「……承知……いたしました……。直ちに本国へ戻り、首相ならびに海軍省にこの協定を署名させます……」


 ガタガタと震える手で写しを受け取った大使は、逃げるように会議室を去っていった。


 大使が走り去った後、静まり返った会議室でナポレオンが感服したように深く頭を下げた。


「……見事な外交戦にございます、マサト総裁。自ら出兵することなく、書類一枚でロンドンを完全に屈服させるとは」


「ええ」


 ラ=ファイエットも心底感心したように頷く。


「これでイギリスは、我が国の海洋進出を公式に認めざるを得なくなった。史実のどのような戦争よりも凄まじい大勝利ですよ、総裁」


「これで海の安全と給炭網は完全に保証された」


 マサト総裁は立ち上がり、満足そうに窓の外の静かなパリの街を見下ろした。

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