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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第90話 庭

地中海を荒らしまわっていた海賊のほとんどが、フランス海軍の装甲蒸気艦『マサト号』によって壊滅させられたという報せは、瞬く間に地中海沿岸の港町を駆け巡った。


 かつて欧州諸国の商船を恐怖に陥れた海賊どもは影を潜め、風の有無にかかわらず波を切って進む「鉄の船」の存在に、港の船乗りたちは畏怖と称賛の声を上げた。


「……信じられん速さだな」


 マルセイユの軍港を見下ろす高台で、ラトゥーシュ=トレヴィル提督が感嘆の息を漏らした。


彼の視線の先には、パリを中心にして伸びる鉄道によって運ばれてきた膨大な石炭と最新の艦砲、そして補給物資が、次々と蒸気船へと積み込まれていく光景が広がっていた。


「アミアンの講和によってイギリスとの表面的な平和が保たれ、さらにスペインが我が国の鉄道による経済圏に組み込まれた……。これにより、ジブラルタル海峡の通行は何の障害もなく進む」


 俺は提督の隣に立ち、地中海の海図を広げた。


「さらに、オスマン帝国は友好関係が健在だから、地中海からアレクサンドリア、そしてスエズを越えて紅海に至るルートは、実質的にフランスの独壇場だ」


 ラトゥーシュ=トレヴィルは口元に不敵な笑みを浮かべた。


「かつてなら、イギリス海軍の目を盗み、地中海の風と格闘しながら何週間もかけて移動していた航路だ。それが今や、我が艦隊は『自国の庭』のように自由に往来できるというわけか」


「あぁ。だが、目的は地中海の制海権だけに留まらない」

 

俺は海図のさらに先……アフリカ東海岸からインド洋、そして東南アジアへと続く遠洋航路を指差した。


「これより我が国は、既存の海外拠点サン=ドマング(※現在のハイチ)やインド洋のモーリシャス島、の連絡網を完璧に固める。蒸気船による『定期連絡網』を敷くことで、本国からの補給と命令を従来の三分の一の期間で届ける」


「なるほど。現地での反乱や、他国の横やりが入る隙を完全に潰すわけですな」


「それだけではない。蒸気船が世界を駆け巡るには『石炭』が必要です。今後は、航路上の主要な港や島々に、現地政権との経済協定を通じて『フランス軍専用の給炭基地』の建設していく。巨大な領土を武力で奪うのではなく、海の『要衝』だけをピンポイントで確保するのです」


 その頃、パリ・総裁府。


 ナポレオン・ボナパルトは、地中海から届いた最新の作戦報告書を読み終えると、マサトの執務デスクの前でピシッと背筋を伸ばし、感服したように息を吐いた。


「……見事な手腕にございます、マサト総裁。見事に海の『動脈』を繋ぎ切られましたな」


「そうですね」


 横に立つラ=ファイエット総裁も、敬意を持って頷いた。


「イギリスはかつて『海は女王の所有物だ』と誇っておりましたが、いまや地中海から紅海へ至る最も効率的な通商路は、マサト殿の敷いた鉄道と蒸気船によって完全に押さえられました。ロンドンの海軍省は生きた心地がしていないでしょう」


「その通りです」


 ナポレオンは胸を張り、力強く言った。


「陸では鉄道が走り、海では鉄の船が風を無視して突っ走る……。イギリスが古い木造帆船を何百隻並べようが、総裁たちが作り出したこの『物流と移動の速度差』には絶対に逆らえません。我が陸軍も、総裁の築かれた海の拠点と連動し、全欧州の抑止力として完璧な陣形を整えてみせます!」


 地中海の制海権を完全なものとし、マサト総裁の指導のもとスエズ・紅海ルートを通じた「世界への給炭港ネットワーク」の構築へと乗り出したフランス。


銃声の一発も交えることなく、マサトが率いるフランスの「鉄と蒸気」は、静かに、しかし確実に世界の海の構造を塗り替えようとしていた。

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