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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第86話 依存

イギリスによる密輸ルートの遮断と、マサトが仕掛けた「高給での作業員雇用」。


 この二重の策によってゲリラは急速に弱体化し、ピレネー山脈を貫く難工事は目覚ましいスピードで進行していった。


 持ち込まれた掘削機と、爆薬を用いた工兵隊の鮮やかな発破作業。



 工事開始から数ヶ月後。ピレネー山脈の険しい部分を避けながら線路を敷いたため、かなり長い鉄道となってしまった。


ついに、漆黒の蒸気機関車が、煙を上げてスペイン側の平原へと滑り込んできた。


 一番列車の先頭車両に掲げられているのは、フランスの三色旗と、スペインの国旗が交錯している。

ピレネー山脈を貫く鉄道が、全線開通した瞬間だった。


「……信じられん。あの険しいピレネーを、鉄の塊が越えてきたというのか……」


 マドリードの駅ホームで出迎えたフェルナンド新国王とスペインの諸侯たちは、目の前で激しい蒸気を吹き上げる巨躯を前に、言葉を失っていた。


 イギリスの援助をあてにし、フランスへの抵抗を画策していた旧国王派の残党たちは、この光景を目にして完全に絶望した。


線路を伝っていつでもフランス軍が即座に雪崩れ込んでくるという現実、そして鉄道によってフランスから安価で膨大な食料と物資が怒涛のように流れ込んでくるという経済的現実。


戦うまでもなく、彼らの立場はスペイン国内で完全に消滅したのだった。


「フェルナンド殿下」


 客車から降り立ったマサトが、静かに新国王の前へと歩み寄る。


「約束通り、ピレネー国際鉄道は開通いたしました。これにより、貴国の貧しい農村部にも我が国の食料と資材が迅速に届き、飢えは過去のものとなるでしょう」


「あ、感謝いたします、マサト総裁!」


フェルナンド新国王は震える手でマサトの手を握り締めた。


かつて銃剣で他国をねじ伏せようとしたフランスが、今や「豊かさ」をもたらす救世主として君臨している。


自国の経済と交通網を完全にフランスに握られたという事実は理解しつつも、この圧倒的な利便性と豊かな未来を拒絶することなど、もはや誰にも不可能だった。


 数日後、マドリードからの帰り道。

軽快な揺れを見せる特別列車の1等客室で、ナポレオンがグラスのワインを口に含みながら、窓の外を眺めていた。


車窓の外には、かつてフランス軍に敵意を向けていたはずのスペインの農民たちが、線路脇で手を振り、歓声を上げる姿があった。


「……不思議なものですね」


ナポレオンが不敵に笑いながら、ポツリと漏らした。


「かつてなら、ここを通過するには数十万の兵を磨り減らし、血の海を作らねばならなかった。今や、兵士の血を一滴も流すことなく、敵国を丸ごと我々の掌の上に載せてしまった」


「これが『新時代の戦争』だ、ナポレオン」


俺は向かいの席でコーヒーを一口含み、微笑んだ。


「軍隊で踏みにじれば怨念が残るが、インフラで豊かにすれば依存が残る。一度この便利さと豊かさを知ってしまえば、彼らは二度とフランスに刃を向けることはできません」


「やはり、マサト総裁は恐ろしい男ですね。敵対したら3日で潰されそうですよ」


ナポレオンは愉快そうに笑い、グラスを掲げた。


イギリスの影の工作を完全に粉砕し、ピレネーを越えて広がり始めた鉄道。


対仏大同盟を陸上で打ち破り、外交でもイギリスを制し、ついにイベリア半島をも経済圏に組み込んだフランス。


マサトとナポレオンたちは優雅にパリに戻るのであった。

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