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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第72話 野心家

side:ナポレオン


パリ郊外にひろがる試運転場。


 無数の市民が地鳴りのような歓声を上げる中、大気を震わせて走り去る黒い鉄の巨躯『蒸気機関車』の姿を、ナポレオン・ボナパルト将軍はただ一人、絶句して見つめていた。


馬も引かずに、何十トンもの鉄塊や物資が、あの速度で移動していく……


 軍事の天才であるナポレオンの脳裏には、瞬時に恐るべき戦場の光景が描かれていた。


 戦役において最も重要であり、最も指揮官を悩ませる「兵站」。食料の輸送、大砲の移動、増援の到着速度。それらすべての限界を、マサトという男はたった一台の機械で過去のものにしようとしている。


「どうした、ナポレオン? 難しい顔をして」


 ふと横から声をかけられ、ナポレオンは我に返った。


 隣に立つのは、腕を組みながら満足そうに機関車を眺めるマサト総裁だ。


「……いえ。マサト総裁の底知れなさに、改めて武者震いをしていたところです」


「ハハ、大袈裟だな。これはただの技術と物流の第一歩だよ」


 マサトは軽く笑って肩をすくめ、集まった民衆の歓声に応えるべく手を振りながら歩き出した。


 ナポレオンはその少し後ろを歩きながら、自らの内に渦巻く冷徹な「野心」と「計算」に思いを馳せていた。


かつての私は、このフランスの頂点に立ち、自らの手で世界を再構築する野望を抱いていた……


 ナポレオンは自分自身の能力に絶対の自信を持っている。戦術、戦略、兵の掌握、軍事において自分を超える存在など、この世界にただ一人として存在しないという自負があった。


 だが、マサトと出会い、その隣で戦い続けるうちに、ナポレオンは恐るべき事実に思い至ったのだ。

もし……私がマサト総裁に反旗を翻し、この国のトップを奪おうとしたらどうなる?


 頭の中で、冷酷な軍事的シミュレーションが始まる。


 自分が軍を率いて挙兵したとしても、マサトは即座に『アランソンの技術』と『全国の鉄道網』を駆使して、無限の補給と新兵器を敵対勢力に送り込むだろう。


 自分がどれほど完璧な戦術で勝利を重ねようとも、マサトは経済と物流、そして民衆の絶対的な支持という『圧倒的な地盤』でこちらをすり潰してくる。


勝てない。……戦術で百戦百勝したところで、国家の構造そのものを書き換えてしまうあの男には、どう足掻いても勝てんのだ。


 マサトを倒してトップに立つことの不可能性。それを世界で誰よりも正しく理解しているのが、天才であるナポレオン自身だった。


 だが、ナポレオンの心に浮かんでいたのは敗北感ではなく、ゾクゾクするような歓喜だった。

だからこそ……この男の下に就くのが最も面白い!


 マサトは権力に執着しておらず、軍事の全てをナポレオンに委ねてくれている。


 マサトが完璧な補給と最新の兵器を用意し、ラ=ファイエットが完璧な外交で盤面を整え、ナポレオンがその圧倒的な盤上で軍を振るう。


私一人で世界を相手にするよりも、マサト総裁の「補給と技術」を背に受けて戦う方が、遥かに世界を征服できる……!


「ナポレオン、次は軍用の線路も優先して敷くからな。お前が世界中どこへでも数日で兵を運べるようにしてやる」


 立ち止まったマサトが振り返り、不敵な笑みを向けてくる。


 ナポレオンは一瞬だけ息を呑み、そして腹の底から湧き上がる熱い感情とともに、深く、誇り高く頭を下げた。


「……ハッ! マサト総裁。このボナパルトの剣とナポレオンの軍略、すべて貴方とフランスのために捧げましょう!」


 天才ナポレオン・ボナパルトが、自ら進んで「最強の第二首脳」として生きることを誓った瞬間だった。

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