第65話 太陽の回廊作戦
「……なるほど! オスマン帝国の名目を逆手に取るか!」
パリの総裁政府執務室。ラ=ファイエットの膝を打つ音が響いた。
「そうだ」
マサトは地図のエジプトを指差した。
「エジプトは名目上オスマン帝国の領土だが、実情は現地軍閥の『マムルーク』どもが独占し、本国の言うことなど聞きやしない。オスマン皇帝も奴らには頭を痛めているはずだ。……そこを突く」
「私に任せていただこう」
ラ=ファイエットが身を乗り出した。
「私はイスタンブール(オスマン帝国首府)の外交ルートと交渉しよう。『我々はオスマン帝国の敵ではない。主君である貴方様に牙を向く不忠者マムルークを、代わりに征伐してあげよう。その代わり、現地での食料や水の提供を約束してほしい』とな」
「完璧ですね、ラ=ファイエット総裁!」
ナポレオンが不敵に目を輝かせた。
「オスマン帝国公認の『討伐軍』として入れば、侵略者ではなく『正義の味方』として現地補給を正々堂々と受けられる! 補給の懸念はこれで完全に消え去ります!」
「よし。そして一番の問題であるイギリス の海軍だが……」
マサトは自らの胸を叩き、ニヤリと笑った。
「俺が自ら『豪華なダミー船団』を率いて西地中海を派手に航行する。ネルソンは『フランス最高権力者のマサトが動いた』と勘違いして、全力で俺を追ってくるはずだ。ナポレオン、お前はその隙にマルセイユから東へ一気に抜けろ」
「最高権力者が自ら囮になり、元貴族の総裁が外交をまとめ、私が現地で敵を打つ……。なんと贅沢な作戦でしょうか!」
ナポレオンは二人の総裁へ深く敬礼した。
「よし、これで全ピースが揃ったな」
巨大な地中海地図を前に、マサトが不敵に笑いながら作戦書を叩いた。
「本作戦名を太陽の回廊作戦と命名する。……作戦の要点をもう一度、整理するぞ」
地中海方面の地図と指揮棒を用いてマサトが説明をする。
「第一段階として外交交渉だ。担当はラ=ファイエット総裁。 目的としては、オスマン帝国との裏交渉および現地補給線の確保。名目上の領主であるオスマン帝国に対し「主君に不忠を働く現地軍閥マムルークの懲罰代行」を提示。」
マサトの指揮棒が西地中海に動く。
「 第二段階は陽動と牽制。担当は私自ら行う。
目的としては、ネルソン艦隊の目を完全にエジプトから逸らす。「フランス最高権力者マサトの捕獲」という最大の餌でネルソンを西へ全力誘引し、ナポレオンの部隊から目を逸らさせる。
次に指揮棒はエジプトまで動く。
「 第三段階は電撃侵攻と制圧。担当はナポレオンだ。 目的は無傷でエジプトに上陸し、現地軍閥である、マムルーク騎兵隊を迅速に壊滅させる。 絶対条件として『電撃的即時制圧』。私がネルソンを引きつけられる時間には限界がある。ネルソンが罠だと気づいて東へ引き返してくる前に、現地を完全に掌握しなければならない。」
マサトはナポレオンの目をまっすぐに見つめ、語気を強めた。
「ネルソンが『騙された!』と気づいて反転してきた時、お前がまだ砂漠でモタモタしていたら、俺たちの船団もろとも地中海で挟み撃ちにされて詰む」
「承知しております、マサト総裁!」
ナポレオンは背筋を正し、力強く胸を叩いた。
「マサト総裁が命を賭して稼いでくださる『時間』、そしてラ=ファイエット総裁が勝ち取ってくださる『補給』……。これ以上の条件はありません。上陸後、数日以内にマムルークの息の根を止め、ネルソンが追いついた頃にはエジプト全域を我が支配下に置いてみせます!」
「頼んだぞ。……ラ=ファイエット総裁、イスタンブールへの使者は?」
「すでに準備を行なっている」
ラ=ファイエットが優雅に微笑む。
「敵はネルソンとマムルーク。……三人の知略で、地中海を俺たちの庭にしてやろう!」
「「おーっ!!」」
一致団結した三人の雄叫びが執務室に響き渡る。
こうして、フランスの運命を賭けた超大型複合作戦太陽の回廊作戦の火ぶたが切られたのだった。




