第52話 襲撃
パリの凱旋フィーバーに街が沸き立つ裏で、闇は静かに、そして確実に深く濃くなっていた。
その夜、マサトはラ=ファイエット派の議員たちとの会談を終え、数名の護衛とともに滞在先の宿へと向かって馬車を走らせていた。
街灯の少ないパリの路地裏。石畳の道を馬の蹄の音だけが虚しく響いている。
「マサト、何かおかしいぞ。さっきから人っ子一人通りが───」
『ガチャンッ!』
路地の前後に突如として打ち立てられた頑丈な木製の柵。同時に、暗がりから松明を掲げた数十人の男たちが雪崩れ込んできた。
「マサトだ! 反革命の首魁、マサトを殺せ!」
「ジャコバン派と人民の敵に天罰を!」
刺客たちの手には、銃だけでなく、刃物や棍棒、さらには投擲用の油ビンが握られていた。ロベスピエール派の手先として送り込まれた、過激派だ。
『ドォン!』
不意を突かれた馬車の前脚が銃撃で撃ち抜かれ、馬が狂ったように暴れて馬車が激しく横転した。
「ぐっ……!」
馬車ごと叩きつけられたマサトの視界が大きく揺らぐ。
さらに、割れたガラスの破片が不運にも、目の上を切り裂き、血が下垂れ落ちる。
「マサト! 無事か!?」
倒れた馬車から這い出したジャンが、必死に銃を撃ち込みながら叫ぶ。
「……問題ない、かすり傷だ!」
マサトは血を左手で強引に押さえつけ、横転した馬車を盾にして立ち上がった。
傷は浅くはない、目の上をガラス片で切った事により、出血で片目の視界が悪い。さらに横転した衝撃で肋骨が何本か折れてる可能性がある。
だが、マサトの瞳に宿る冷徹な光は失われていなかった。
奴ら、最初から俺の命だけを確実に奪うために、この狭い路地に誘い込んだか。
「囲め! 奴は怪我をしているぞ! 叩き潰せ!」
手傷を負ったマサトを見て、色めき立った刺客たちが一斉に間合いを詰めてくる。距離、わずか十数メートル。
「甘く見るなよ、虫ケラどもが……!」
マサトは激痛を噛み殺しながら、片目を瞑り、手元のライフル構えた。
『バンッ!!』
先頭の刺客が、何が起きたかも理解できずに血煙を上げて倒れ伏した。
そこまで距離が離れてるわけじゃないのなら、俺でも頭に当てられる。
「な、なんだあの銃は!? 怪我しているのに、なぜ撃てる!?」
「動揺するな! 殺せえぇぇっ!」
恐怖を打ち消すように、残りの刺客たちが怒号を上げて迫ってくる。ライフルをリロードする暇などないため、投げ捨てて腹を括る。
俺は、1番最初に飛びかかってくる男の子孫断絶させる勢いで容赦なく金的をかます。
そして、次の男にはナイフを何とか受け流し、そのまま刺客たちの方へ向かって背負い投げをする、男は容赦なく固い地面に叩きつけられ、人間から鳴ってはいけない音がした気がするが、気にする余裕などない。
そうやって奮戦していると、後方から足音が響く。
『そこまでだ!!』
路地の屋根の上、そして後方から、黒い制服を着た男たちが疾風のように躍り出た。
駆けつけたのは「アラマサ自警団」スラムで生き永らえていた少年レオが率いる精鋭部隊だ。
「マサトさんに手を出すな! 全員、蜂の巣にしてやれ!」
『バンッ!!』
圧倒的な銃撃を叩き込まれ、刺客たちは悲鳴を上げる暇もなく、路地裏の泥の上に次々と身を投げ出していった。わずか数分の間に、襲撃部隊は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。。
「マサト! しっかりしろ! 傷がひどい!」
駆け寄ってきたドニとレオが、血まみれの身を起こそうとするマサトを慌てて支える。
「……はぁ、はぁ……大丈夫だ。今はそこまで痛くない……」
マサトは荒い息を吐きながら、止血してもらう。おそらく今はアドレナリン全開で痛みがほぼ無いが、いずれ出てくる。ひとまず宿に戻りたい…。
そのまま、マサトの意識は闇に落ちた。




