第49話 決戦
アランソンの中央広場に、重々しい足音が響き渡っていた。
整列しているのは、黒の制服に身を包んだアラマサ自警団の千名。
彼らの肩には、アランソンの工廠で増産されたライフルが担がれ、腰には予備の弾薬が整然と並んでいる。寸分の乱れもない陣形と、一切の無駄口を叩かない冷徹な雰囲気は、もはや地方の自警団の域を遥かに超えていた。
「……これが、君の育て上げた軍隊なのか、マサト殿」
隣に立つラ=ファイエット侯爵が、息を呑んでその光景を見つめていた。
彼が率いてきたパリの国民衛兵やフランス正規軍の残党は、士気が低く、服装もバラバラで、敵の影に怯えて愚痴ばかりこぼしている。その惨状と比べれば、アラマサ自警団はまるで
正規軍だ。
「準備は万全だ、侯爵」
マサトは、黒い軍用コートの襟を正しながら告げた。
「我が軍の戦術は、あんたたちが知っている『お互いに並んで順番に単発銃を撃ち合う』ような優雅な騎士道ごっこじゃない。……一瞬で敵の前衛を潰し、混乱したところを覆す。国民衛兵の連中には、絶対に俺たちの射線の前に出るなと徹底させてくれ」
「了解した、改めてよろしく頼むぞマサト殿。」
ラ=ファイエット侯爵と硬い握手を交わす。
「分かった。我が軍には君たちの両翼と、後方の補給線の維持に専念させよう」
「それでいい」
出撃を前に、俺は自警団の前に歩み出た。
「全員、聞け!」
俺の声が広場に響き渡る。
「これより俺たちは、アランソンを出て東の国境へ向かう! 相手はヨーロッパ最強と謳われるプロイセン陸軍、そしてオーストリアの大軍勢だ!」
兵士たちの間に、わずかな緊張が走る。
「奴らは旧時代の戦術と数で押し潰せると思っている! だが、時代は変わったんだ! このアランソンで俺たちが作り上げた『力』が、世界の歴史を塗り替える瞬間が来た!」
俺はライフルを、空へと掲げた。
「アランソンの家族と街を守り、そして無能なパリの連中に誰が本当の勝者かを分からせてやる! 全員、生きて勝って戻るぞ!」
『オオオオオオオオオオッ!!』
千名の兵士たちから、地響きのような雄叫びが上がった。
恐怖などない。あるのは、自分たちが手にした圧倒的な技術と訓練への絶対的な自信だ。
数日後。
アランソン軍とラ=ファイエットの連合部隊は、東部へと到着していた。
冷たい雨が打ちつける泥濘の果て。
地平線の向こう側に、地響きのような大軍の行軍音が聞こえてくる。黒と白の軍服に身を包んだ、プロイセン・オーストリア連合軍の膨大な陣列だ。
「……来たぞ。敵の先鋒だ」
ジャンが、ゴクリと唾を飲み込む。
「マサト、相手の兵数よりうちは少ないが。本当にこの丘で迎え撃つのか?」
ドニが確認するように尋ねてくる。
「ああ。ここが奴らの墓場だ」
俺は冷たい笑みを浮かべ、部隊を丘の斜面に伏せさせた。
「さあ、プロイセン軍に、絶望を教えてやろうじゃないか」
雨煙の向こうで、プロイセン軍の大砲が火を噴く。
歴史を変える決戦の火蓋が、ついに切って落とされようとしていた——。




