第45話 内部抗争
パリで狂気の嵐を巻き起こしつつあるジャコバン派。
だが、アランソンの情報網、アラマサの隠密部隊がもたらした最新の報告書は、奴らが決して一枚岩ではないという決定的な事実を示していた。
「……なるほどな。一口にジャコバン派と言っても、中身はドロドロの派閥争いか」
執務室で報告書をめくりながら、俺は思わず薄い笑みを漏らした。
「マサト、どういうことだ? あいつら、全員一丸となって過激な革命を推し進めてるんじゃないのか?」
ジャンが不思議そうに首をひねる。
「表面上はな。だが、実態は違う。過激な暴力で富裕層を打倒しようとする『エベール派』、これ以上の流血を避けて現実的な妥協を模索する『ダントン派』、そして理想主義を掲げてすべてを恐怖で統制しようとする『ロベスピエール派』……。奴らは『革命』という看板を共有しているだけで、腹の中ではお互いを蹴落とそうとギラギラした目を光らせている」
史実におけるジャコバン・クラブの内部対立。
権力の頂点に立とうとするロベスピエールにとって、外部の敵以上に邪魔なのが、同じジャコバン派内部の別派閥なのだ。
「ロベスピエールは今、自分以外の派閥を不純分子として片っ端から排除しようと裏で動き始めている。同じ仲間同士で足の引っ張り合いを始めたってわけだ」
「へっ、とんだ傑作だな」
ドニが腕を組み、鼻で笑った。
「じゃあ放っておけば、勝手に潰し合って自滅してくれるんじゃないか?」
「甘いぞ、ドニ」
俺は首を横に振った。
「ロベスピエールという男の恐ろしいところは、派閥争いを通じて他のライバルを全員ギロチンへ送り送り込み、最終的に自分一人による絶対的な恐怖政治を完成させてしまうことだ。奴がジャコバン派を一本化させて完全な権力を握ったら、その巨大な暴力の刃は真っ直ぐこのアランソンへ向かってくる」
だからこそ、奴が他の派閥を掃除して独裁者になるのを指を咥えて待つ気はない。
「ロベスピエールが他派閥を排除しようと動いている……ならば、俺たちはその暗闘の『隙』を突く」
「どうするんだ、マサト?」
ジャンの目が鋭くなる。
「ロベスピエールに消されそうになっている他派閥の連中や、排除された過激派の残りかすに、密かに接触する。奴らに金と情報を与え、ロベスピエールの足元を徹底的に揺さぶらせるんだ。……敵の敵は利用できる捨て駒だからな」
ロベスピエールが他派閥を攻撃すればするほど、追い詰められた連中は俺たちの資金と情報が欲しくなる。
ジャコバン派の内部抗争を裏から操り、ロベスピエールを孤立させ、最終的に奴ひとりを内部から引きずり下ろす。
「ロベスピエール、お前が仲間を排除する毒薬を撒くなら、俺はその毒をさらにお前に送り返してやる」
俺は地図上のパリのコマを静かに倒した。
アランソンの防衛線を固めつつ、パリの権力の中枢へと手を伸ばす。
ロベスピエール打倒に向けた、マサトの密やかな謀略が静かに動き出したのだった。




