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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第39話 理想と現実

パリへ引き返した使者の報告から、わずか数日後のことだった。


「マサト代表! 城門前に、大規模な騎兵隊が接近中!……ですが、攻撃の意図はありません! 先頭に掲げられているのは……『総司令官の個人旗』です!」


 物見の報告に、執務室の空気が一変した。

 ジャンが驚きで目を見張る。


「おいおい……まさか本当に本人が直接来やがったのか!?」


「ああ。ラファイエット侯爵だ。パリの治安維持で猫の手も借りたいはずの男が、わざわざ自ら出向いてきたか」


 俺は口角を上げ、立ち上がった。


「ジャン、ドニ。出迎えるぞ。相手はアメリカ独立戦争の英雄で、今のパリの治安維持を担ってる権力者の一人だ。とびきりのおもてなしを用意してやろう」


 アランソンの城門前。

 白馬に跨り、整然とした自警団の陣形を見上げていた男。ギルバート・ラファイエット侯爵は、静かに息を呑んでいた。


 使者からの報告は聞いていた。だが、実際にこの目で見るアランソンの光景は、彼の想像を遥かに超えていたのだ。


これが……平民の作り上げた街だというのか?


 パリでは民衆が暴徒化し、路地には汚物が溢れ、いつ暴動が起きるかもわからない混沌が支配している。

 だが、このアランソンはどうだ。


 隙間なく平坦に敷き詰められた見事な石畳。生ゴミやドブの悪臭が一切しない清潔な空気。そして城壁の上に並ぶ兵士たちが手にしているのは、最新のライフル銃。


 何より彼らを驚かせたのは、民衆の表情だった。

 恐怖や過激な思想に狂奔する様子はなく、活気に満ちた顔で働き、自警団の兵士たちに親しく声をかけている。


「……信じがたい。まるでここだけ、別の国ではないか」


 ラファイエットが呟いた直後、重厚な城門がゆっくりと開いた。


 現れたのは、ジャンとドニを連れた、堂々とした青年、マサトだった。


「遠路はるばるようこそ、ラファイエット侯爵。アラマサ自警団代表のマサトだ。総司令官自らのお越しとは、恐悦至極に存じます」


 マサトは貴族に対する非の打ち所がない完璧な礼を執りつつも、その瞳には一切の怯えも従属の意もなかった。


 ラファイエットは馬から降りると、真っ直ぐにマサトへと歩み寄った。


「私が直々に来た理由はわかるな、マサト殿。使者からの報告を受け、この目で確かめずにはいられなかったのだ。君がこの街で成し遂げた秩序と……そして、使者に突きつけた不躾な要求の真意を」


「不躾、ですか? 俺はごく当たり前の商取引を提案したつもりですが」


 マサトの不敵な笑みに、ラファイエットは眉をひそめた。


「フランス全土が飢えと混乱に苦しんでいるのだぞ! 今、我々に必要なのは国民の団結と人権宣言に基づく平等だ。それを君は、パリの弱みにつけ込み、金や権利を要求するのか? それが君の言う秩序なのか!」


 理想に燃えるラファイエットの熱弁。だが、マサトの冷徹な眼光は揺るがなかった。

「侯爵。美しい紙切れ(人権宣言)で、民衆の腹が膨らみますか?」


「なに……?」


「言葉や理想で腹は膨らみません。腹が減った人間は、どんなに正しい理屈を並べられても最後は略奪に走る。俺がこの街でやったのは至極単純なことです。金を刷り込み、仕事を与え、まっとうな給与と食料を配った。それだけです」


 マサトはアランソンの街並みを指差した。


「貴方がたがパリで理想論を語り合っている間に、俺は現実の胃袋を満たした。……食料を無償で渡せば、パリの民衆は貰えて当然と思い、また次の要求をして暴れますよ。対価を払わせるからこそ、人は自分の労働と価値を実感するんです」


「……ッ!」


 ラファイエットは絶句した。

 アメリカ独立戦争を戦い抜き、理想の自由を追い求めてきた自分に対し、この眼前の若者はあまりにも圧倒的な「現実」を突きつけてくる。


なんだ、この男は……。ただの商人でも、尊大な貴族でもない。時代そのものを客観的に見下ろしているかのような、恐ろしいほどの冷徹さ……!


「いいでしょう、侯爵。せっかくお越しいただいたんです。我がアランソン自慢の温かいスープと焼き立てのパンでも召し上がりながら、じっくりと交易の条件を詰めようではありませんか」


 マサトはニヤリと笑い、応接室へと手招きした。


 革命の英雄ラファイエットは、完全にマサトのペースに呑まれながら、アランソンの敷居を跨ぐのだった。

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