第37話 使者
アランソンが「仕事とパンがある楽園」と化してから、街の人口は爆発的に膨れ上がっていた。
周辺の街や村から押し寄せる人々を受け入れるため、俺は長官の遺産を注ぎ込み、次々と新しい居住区の建設を進めさせた。ドニの指揮のもと、突貫工事で建てられる集合住宅は、すべて頑丈なものだ。
「マサト、新しく入ってきた連中のうち、若くて動ける男たちを自警団の訓練に組み込み始めたぜ」
ジャンが、訓練場から戻ってきた汗を拭いながら執務室に入ってくる。
「助かるよ、ジャン。彼らの様子はどうだ?」
「最高だな。みんな『アラマサに命を救われた』って本気で感謝してるから、訓練への身の入り方が平民のレベルじゃねえ。あのライフルを渡したら、みんな目の色を変えて練習してるよ。今や自警団の規模は、ちょっとした一国の正規軍並みだ」
頼もしい報告に、俺は深く頷いた。
飢えから救ってくれた組織のために戦う兵士は強い。これでアランソンの防衛力は、数週間前とは比較にならないほど強固なものになった。
だが、そんな俺たちの急速な拡大を、周囲がいつまでも黙って見ているはずがなかった。
「マサト代表! 街の城門に、パリの『国民衛兵』の紋章を掲げた騎馬隊が接近中との報告です!」
自警団の物見が、血相を変えて執務室に飛び込んできた。
ついに来たか。
前から情報は入手している。ラファイエット侯爵率いるパリの民兵組織、国民衛兵。その使者が、このアランソンへ直々にやってきたのだ。
「ジャン、自警団の精鋭を城門前に配備しろ。銃をしっかりと構えろ。俺たちをただの地方の暴徒だと思ってナメてかかってくるなら、まずはその鼻をへし折る」
アランソンの強固な城門の前。
隙間なく舗装された石畳の上に、パリからやってきた十数騎の騎馬隊が佇んでいた。彼らの身に纏う制服は立派だが、長旅のせいか、あるいはパリの混乱のせいか、どこか疲弊した空気を漂わせている。
使者のリーダー格である男が、城門の上に立つ俺を見上げ、高圧的な声を張り上げた。
「私は国民衛兵総司令官、ラファイエット侯爵が使者である! アランソンの新たな統治者を名乗る平民マサトよ、直ちに門を開け、我らを受け入れよ!」
俺は城壁の上から、冷ややかな視線を男へと向けた。
「アランソンの統治は、前地方長官の遺言によって俺が引き継いだ。ここは現在、革命側にも王党派側にもつかない中立地帯だ。パリの議会であれ、国民衛兵であれ、武装したままこの街に立ち入ることは許さない。用件があるなら、そこで聞こう」
「なっ……! 狂ったか! 国家の命令に背くというのか!? 貴様らのような平民の暴徒など、我が国民衛兵が本気を出せば一瞬で――」
男が怒りに任せて剣の柄に手をかけた、その瞬間だった。
城壁の上にずらりと並んだ精鋭のアラマサ自警団が、一斉にライフルの銃口を使者たちへと向けた。
使者たちにとって、見たこともない洗練されたデザインの最新鋭の銃。そして、兵士たちの寸分の乱れもない一糸乱れぬ規律。
使者の男の顔から、一瞬で血の気が引いた。馬たちがそのただならぬ殺気に怯え、不穏にいななきを上げる。
「……馬鹿な、地方の平民が、なぜこれほどの装備と練度を……」
男は引きつった声を漏らし、伸ばしかけた手をそっと剣から離した。
「脅し合いをしに来たわけじゃない」
俺は声音を和らげ、だが圧倒的な威圧感を込めて告げた。
「アランソンはフランスと敵対するつもりはない。だが、俺たちの平和を乱す者には容赦はしない。……さあ、ラファイエット侯爵は何を求めて使者を寄越した? 伝えるだけでいい。内容次第では、話を聞いてやってもいいぞ」




