115話 プロイセン
ベルリン、プロイセン王宮。
国王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世の執務室には、痛々しいほどの重苦しい空気が立ち込めていた。
「……で、パリの動きはどうなっているのだ!?」
国王が机を叩いて問いただすと、外相のハルデンベルクが冷や汗を拭いながら深々と頭を下げた。
「は、はい……。英首相アディントン、オーストリアのヨーゼフ大公、さらにはスペインの特使がパリに集結し、フランスとの間で『新生同盟』なる巨大な協定を結ぶことで合意した模様です……」
「関税の完全撤廃と、フランス軍主導の共同防衛だと……!? バカな、あのイギリスやオーストリアが、そこまでフランスの傘下に下るというのか!?」
「下るというよりは……フランスの提示した莫大な経済利益と『最強の盾』に、喜んで飛びついたという表現が正しいかと……。現にオーストリアの商人たちは『これでフランスの最新技術が少し自国持って帰れる』と歓喜に湧いております」
ハルデンベルクの報告に、国王は絶句した。
プロイセンは強大な陸軍を誇る軍事国家としてのプライドがある。しかし、イギリスとオーストリア、スペインがフランスと手を組み、完全な自由貿易と安全保障のネットワークを築いてしまえばどうなるか。
プロイセンだけが……この広大なヨーロッパの経済網から完全に締め出されるのではないか!? 関税の壁に阻まれ、貧困に喘ぎ、孤立した我が国を……新生同盟の連合軍がいつでも包囲できる状態になる……!
背筋に冷たいものが走る。誇り高き軍事国家が、戦うことすらなく「時代の蚊帳の外」に置かれて自滅する未来がはっきりと見えた。
「で、では……フランスのマサト総裁から、我が国への招待状や打診は届いているのか!?」
「それが……何ひとつ届いておりません」
「な……なぜだ!? 我がプロイセンは列強の一角だぞ!? なぜ声をかけん!」
「おそらく……先の戦争で我が国が示した態度や、プロイセン陸軍のプライドに配慮し『無理に誘うのは失礼か』と、遠慮されているのではないかと……」
「た、たわけ! 遠慮などいらん! 誘わねば入れるわけがなかろうが!」
プロイセン王宮は大混乱に陥っていた。
自分たちから『入れてくれ』と頭を下げるのは軍国プロイセンのプライドが許さない。しかし、誘われないまま置いていかれるのは死を意味する。あまりにも惨めなジレンマに陥っていたのだ。
「いいかハルデンベルク! パリに手紙を送るぞ! 決して『入れてくれ』と懇願するなよ!? あくまで『プロイセンも新生同盟にふさわしい』という体裁を整えるのだ! マサト総裁からの連絡を……一刻も早く待て!」
「は、ははっ!」
必死に威厳を保とうとするプロイセン王の姿は、もはや滑稽ですらあった。
パリの総政府執務室。
マサトの机の上には、プロイセンから届いた密使による「遠回しな探りの手紙」が何通も積み重なっていた。
「……マサト、ベルリンからの『お便り』がまた一通増えたぞ。『我が国の工業力もヨーロッパ随一であるゆえ、意見を述べる準備はある』だってさ。相変わらず上から目線だが、文面が日に日に必死になってきて笑えるぜ」
ジャンが手紙の束を指で弾きながら呆れ顔で笑う。
「放置でいいよ、ジャン」
マサトは手紙に目もくれず、別の書類に署名を走らせた。
「えっ、放置か? 誘い状を送るんじゃなかったのか?」
「プロイセンはまだ『入ってやる』という態度の裏に、自国の軍事力を盾にした特別扱いを期待している。ここでこちらから頭を下げて誘ったら、同盟の中で余計な特権を要求してくるよ。……彼らが自分から『頼むから入れてくれ』と泣きついてくるまで、とことん焦らそう」
「くう〜、相変わらずエグいなマサトは。じゃあ、まずは英・墺・西の3カ国だけで先行して『見せせびらかす』わけだ」
「そういうこと




