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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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101/121

第101話 敗者

その報せは、どんよりとした雨が降るロンドンの街を、文字通り激震のごとく駆け抜けた。


「ネルソン提督、討ち死にーッ! 救援艦隊、壊滅ッ!」


 新聞売りの少年たちが張り上げた叫び声は、テムズ川沿いの港湾労働者から王立取引所の相場師、そしてウエストミンスターの政治家たちに至るまで、すべてのイギリス人の血の気を引かせた。


「ば、バカな……! あのネルソンが……我が国が誇る海の英雄が敗れたというのか!?」


「救援艦隊が全滅したなら、ノルマンディーに渡った我が子らはどうなるのだ! アランソンに留まっている陸軍の兵たちはどうなるのだッ!」


 ロンドン王立取引所では、パニックに陥った投資家たちが一斉に国債と海運株を投げ売り始めた。

史実であれば世界最高の信用を誇ったイギリスの金融市場が、一瞬にして音を立てて崩壊していく。売り叫ぶ声と悲鳴が渦巻き、紙くずと化した株券が床を真っ白に埋め尽くした。


 イギリスという国家が誇っていた二大の柱「無敵の海軍」と「絶対の経済力」が、マサト総裁率いるフランスの鉄と蒸気、そして綿密な戦略の前に、わずか数日のうちに両方とも粉砕されたのだ。


 同じ頃、ダウニングの首相官邸。

重々しい扉を突き破らんばかりの勢いで、怒号が響き渡っていた。


部屋を埋め尽くしているのは、ロンドンに居を構える有力な公爵や子爵、男爵といった貴族たちである。彼らは普段の気品など微塵も見せず、ピット首相とその閣僚たちの胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄っていた。


「ピット! 貴様、我が子を……我が公爵家の三男を、見殺しにする気かッ!?」


「アランソン近郊に留まっている数万の兵は、我が国の貴族の令息ばかりだぞ! 救援艦隊が壊滅した今、奴らは糧食も弾薬も尽きてフランスの包囲網の中に置き去りにされているのだ!」


「今すぐフランスと和睦しろ!マサト総裁に頭を下げて、彼らを無事に送還させろ! さもなくば、我らは政府を不信任し、内閣を叩き潰してやるぞ!!」


閣議室のテーブルを囲む閣僚たちは、顔を青ざめさせ、ただ震えることしかできなかった。

無断で軍を動かし、アランソン奇襲という無謀な賭けに出たのは彼ら貴族の息子たち自身だ。


しかし、いざ包囲され救援も絶たれるや、その責任をすべて政府になすりつけ、身内の救出をなりふり構わず要求してきているのだ。


ピット首相は、深々と刻まれた眉間のシワを指で押さえ、途切れ途切れの声で潰やくように呟いた。


「……和睦……だと? どの面を下げてマサト総裁に和睦を申し込むというのだ……。我が国はアミアンの講和を破り、独断でフランスの心臓部を不法に奇襲したのだぞ……」


「どんな条件でも飲めばいいだろうがッ!」


ある子爵が目を血走らせて叫んだ。


「港湾使用料でも、関税でも、領土の割譲でも何でも差出せ! フランスが望むなら、我が国の全貿易港をフランスの管理下に置いても構わん! とにかく、息子たちを……イギリスの未来の貴族たちを生きて帰らせるのだ!」


かつて世界を統治しようとした誇り高きイギリス帝国政界の姿は、そこにはどこにもなかった。

ただ、フランスという「絶対的な強者」の怒りに怯え、身内の保身のために国権すら売り渡そうとする、哀れな敗者の群れが蠢いているだけであった。

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