表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上で結わう花  作者: pan
第2章 来たる文化祭、そして
60/63

第58話 大きい方か小さい方か

 合図と共に、作業が始まる。駈は普段通りまわりに気を配りながら手を付ける。


 クラスでも数少ない友人である美術部員がいないこの状況にまだ慣れているわけではないが、少なくとも以前よりは雰囲気に溶け込んできていた。


 質問にはすんなり受け答えできるし、時には雑談に混じることもある。(かける)主体でなくても、口を挟むことも増えた。たまにクラスメイトが羽目を外すことがあり、それを注意することにも抵抗はない。


 着々とクラスの中心といべきか。少なくとも今は、駈が率先して文化祭の準備を進めていた。




「よし……。今日はこんなもんかな」


 駈は時計を確認しながら呟く。気づけば時刻は18時を回る頃。


 学校に残れる時間は19時まで。部活をやっている人以外はこれまでに下校しなければならない。文化祭の一週間前になれば、そんな時間は作らなくていいのだが仕方のないこと。


 駈は膝に手を置きながら立ち上がる。


「よし、今日はここまでにして掃除しよう。とりあえず提灯とか色を塗ったものは乾かしておくとして、そこに落ちてる色紙とか塗るときに使った絵具を片付けよう」


「りょーかーい」


 手伝っていたクラスメイトが作業の手を止め始める。中には中途半端は嫌だと作業を続けていた人もいたが、まわりは気にしない。


 駈も積極的に参加してくれているのだから手を止めてとも言えない。


「じゃあ、俺は美術室に行ってくるから片付け頼んだよ」


 美鈴(みすず)がいない日は、駈自ら美術室に出向いて報告しに行く。毎回のことなので男子は気にしない様子で「うい」とだけ返事をした。その合図と共に駈は教室を出る。


 廊下は片付けを始める人で忙しない。準備も中盤で、廊下の一部が埋まるほど大きい創作物がちらほら。それに伴って出てきたゴミが散らかっている。


 人が一人通れるほどの廊下を歩いて美術室に向かうことになるため一苦労。時折、道を譲り合うこともあった。


 唯一の救いは、美術室が3階にあるということ。2年生の教室と同じ階にあるため廊下を真っ直ぐ進んでいけばいい。


 今はA組の前を通っているため、左に曲がれば突きあたりに目的地が見える。


「お、駈じゃん」


「ん。神戸(かんべ)さんか」


 教室から駈の姿を見つけた彩夏(さやか)が声をかけてきた。今日は部活には出ていないようだ。


「これから美術室?」


「そうだけど。美鈴に報告しにいかないといけないからね」


「そういうことなら、美鈴は今いないかもな。さっき部活用の絵の具やら筆を買いに行くって言ってたし。もしかして聞いてない?」


「初耳だよ……」


 聞いていないも何も、聞く手段がない。あるとしたら直接聞くくらいなのだが、その時間が取れないほどの急用なのだろう。


 しかし、ここで待っていてもA組に迷惑がかかる。駈は一旦教室に戻ろうと話を切り上げようとした瞬間。


「あ、もうそろ戻るってよ」


 彩夏はスマホを手に持っていた。わざわざ確認してくれていたようで、なんだか申し訳なくなる。今後こういうことがないように対策を取りたいが思いつかない。


「そうか。ありがと」


「美術室で待ってたらいいよー。どうせ今は(ゆたか)(はるか)が楽しくやってるだろうし」


 そういえば今日は隆も悠もいなかった。それほど部活の作品づくりが忙しいのだろうか。でも、楽しくやってるとはどういうことなのか。


 駈は「それじゃ」と手を振ってから美術室に向かった。


 美術室には他に人がいるのかもしれないが、美鈴を待つだけというなら別に中に入る必要もない。ドアの前に立っていれば誰にも迷惑はかからないだろうし。


(ん……?)


 向かっている途中、突き当りから言い争っている声が聞こえてきた。どこか聞き覚えのある声だったが、頭の中に浮かび上がる人物からは想像もできない声量。


 それほどまでに大きい声を出していることから、何かあったのではないかと焦らされる。


 しかし、駈以外は気づかない。それも、まわりは文化祭の準備中。それに争っている声が聞こえてきたのは角の美術室。


 教室にいる人たちには聞こえるわけがない。駈があと少しで着くというところまできてやっと聞こえる。


 次第に大きくなる声に恐る恐る近づきながら、聞く耳を立てる。


「――だって、良いに決まってるだろ!!」


「こっちの方が――だし!!」


「お前は分かってない!!」


「あ、ちょっと、取るなよ!! この野郎――」


 椅子か何かに当たっているのか聞こえない部分もあったが、やはり喧嘩している雰囲気。声は隆と悠で間違いない。


 喧嘩をしたことがないと聞いていた駈はそのままドアに耳を付ける。


「それの何がいいんだ!! こっちの方がいいだろ!!」


「こっちにも良さがあるんだよ!!」


 作品の完成度で張り合っているのだろうか。


 しかし、このままでは聞いている方も心配になってくる。とにかく言い争いを止めなければ。


「ちょ、ちょっと! 何やっ……は?」


「あ! 三橋くん良いところに!!」


「お! 駈じゃねぇか!!」


 てっきり作品のことで揉めているのかと思っていた。

 しかし、目の前に広がる光景からそれは絶対に違う。


 隆と悠のまわりに作品などない。


 隆の手にはスマホがあり、その画面には水着姿の女性が映っている。

 そして、胸が大きい。


 悠の手にはアニメキャラが描かれたクリアファイルを持っている。

 そして、胸は小さい。


 何かを察した駈は美術室に入れた足を出そうとしたが、時すでに遅し。二人に腕を掴まれて詰め寄られる。


「駈はでかい方が好きだよな!?」


「いや、三橋くんは小さいほうが好きに決まってる!!」


「ちょ……」


 なにやら足を踏み入れてはいけない領域に来てしまったようだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ評価(下の☆マークのとこ)やブックマーク登録をしていただけると大変励みになります!

感想やレビューもお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ