第57話 噂話
お久しぶりです
週が明けてから本格的な準備が始まった。それは駈たちのクラスだけでなく、他のクラスも同様。
廊下を歩けば教室から聞こえてくる賑やかな声。真面目に取り組む人もいれば、はしゃぎながら取り組む人もいる。
どんなに楽しい授業でも文化祭の準備に勝るものはない。ある程度自由がきく時間に童心がくすぐられる。
かと言って、ふざけすぎるのも良くない。文化祭当日までにきちんと準備を終わらせ、満足のいく作品を完成させる。それを目標に全クラス取り組んでいるはずだ。
そこで、駈がやっている文化祭実行委員の出番。実行委員が中心となって場をまとめる。時折、担任が教室にやってきて様子を見に来ることがあるのだが、それは稀だ。
そのため、実行委員がクラスメイトを見守る。
駈が実行委員になりたての頃はなかなか声をかけられず、美鈴に任せっきりとなっていた。しかし、今では美鈴が美術部の作品づくりや彩夏から聞かされた心配事を受けて、積極的に声をかけるようになった。
駈がひとりで負担を背負っているわけでなく、分担を設けて作業を行っている。駈が毎日クラスのグループにメッセージを送っている効果もあり、ここのところ毎日20人ほどが残ってくれている。
だから、駈は苦労を感じていない。むしろ、楽しさを覚えていた。
初めてまとめ役を任された。最初は緊張と怖さがあったが、やってみれば慣れてくる。
未だに明音たちに声をかけることは出来ていないが、今は問題視していない。それほど作業は円滑に進んでいた。
一週間で小道具の造形、お化け役の衣装の型など。お化け屋敷内部に必要な下準備は終わりかけていた。
早いペースで進んでいる作業。気を緩めず、そのまま突き進む。なんてことはない。
怠けてサボってしまうことは良くないが、駈たちは雑談を交えて作業することが増えてきた。準備のこと、授業のこと、文化祭当日のこと。様々だったが、中でも際立つ話題、それは。
「なあ、駈。秋川さんとなんかあったの?」
部活に行く準備をしながら速人が話しかけてきた。駈は相変わらず文化祭の準備があるので席に座っている。
しかし、表情はどこか曇っており不機嫌そうに見える。
「何か最近よく聞かれる、それ。特に何もないよ」
「そうなのか。よく部活のやつらに聞かれるんだよねー」
「なんでそこまで広まってんだよ……」
「まあ、ただの噂だと思ってたし。そもそも駈にそんな話は似合わん」
噂話。これこそが最近よく雑談で出てくる話題。
それは、駈と美鈴が付き合い始めたのではないか、というもの。思春期の高校生が好きそうな噂話に、ここ一週間は持ちきりだった。
事の発端は、駈と美鈴が名前で呼び合うようになったこと。
駈は結花との一件以降、美鈴のことを下の名前で呼んでいた。本人は気にしていなかったが、まわりは驚いていたようだ。
それもそのはず、週末から週明けで下の名前で呼ぶようになっている。そして、美鈴も駈のことを下の名前で呼んでいる。しかも、『くん』付けで。
ただ仲良くなったように思える関係なのだが、まわりはそう思えなかった。それも、駈は仲が良かったとしても名前で呼ぶことは少ない。それも、女子を下の名前で呼んでいる人はいない。
そして、極めつけは美鈴の態度。いつもなら優等生のような振る舞いを見せている美鈴だが、駈と一緒にいるときは柔らかい物腰で話しているように見えた。そのギャップに噂話が誇張されていったのだろう。
駈は一度美鈴に噂話について聞いてみたのだが。
「それはただの噂話でしょう。第一、私たちはお互いに付き合っていないことを知っているのだから気にする必要なんてないわ」
そう言っていた。本当に気にしていないのか、その後もいつもと変わらない様子で話しかけにくる。
駈も気にしない素振りを見せながら過ごしてきた。が、速人の言う通りこの噂話の中にいる駈には似合わない。
美鈴は学校ではちょっとした有名人。美術的センスもそうだが、学校の成績もトップクラス。速人と彩夏がいるから見劣りするが、毎回上位10位以内にはいる。
今までが学校を休んだことはなく、もちろん遅刻もない。毎学期学級委員長を全うするなど、誰もが認める優等生。
そんな美鈴と駈が釣り合うはずがない。そういった声も時折聞こえてきた。だから、駈は気にしない素振りを見せて過ごしてきた。
もちろん、速人はそのつもりで言ってきたわけではないと思う。だが、駈は気にする。
美鈴が気にしていないと言っても、駈は気にしていたのだ。
「似合わんよなー。美鈴にも失礼だしな」
「……多分、勘違いされる理由がそこに詰まってるぞ」
「……どういうことだよ、わけわからん」
はあ、駈は溜め息をつく。鈍感なのか、それとも気づいていないフリをしているのか。
速人は「それじゃ」と言って、荷物を持ち上げた。準備が始まったとは言え、速人は部活で忙しいらしい。今までも準備を手伝いに来たことはない。
駈にとって痛手ではあったが、仕方のないこと。
「……よし」
駈は席を立ち、今日も文化祭の準備に取り掛かる。
今日は美鈴たち美術部員の面々は作品づくりに没頭するため教室にいない。そのため、今日は何をするか伝えられている。
そのノルマを達成するために、駈はいつものように準備に参加するクラスメイトをまとめ始めた。
「今日準備に参加できる人たちは、小道具の色塗りを手伝ってもらいます」
自信に満ち溢れた瞳。普段より張った声。姿勢も正されており、普段の駈とは違う。その姿はまるで美鈴と重なる。いつも隣で見ていた美鈴を無意識に、意識しているのだろう。
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