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丘の上で結わう花  作者: pan
第2章 来たる文化祭、そして
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第46話 明けた夏休み

 夏休みも終わり、登校初日の朝、(かける)は一人で朝食を作っていた。


 今日は駈も早苗(さなえ)も午前中で授業が終わるため、いつもなら学校に持っていく弁当は作らないため時間に余裕があり、夏休み同様のメニューとなっている。


「あ、お(にい)。おはよ……」


「……おはよう、早苗」


 早苗は怠そうにリビングに入ってくると、目の下には分厚い黒いクマがあった。


 駈は気にしない様子で準備を進めている。それもそのはず、原因は早苗自身にあると知っていて、実際に現場も目の当たりにしていたからだ。


「あ、ありがとー。今日は、私が当番だったのに……」


「まあ、今回は大目に見るけど。ちゃんと夏休みの課題は最終日前日までに終わらせておけよ」


 駈はテーブルに朝食を並べながら、説教がましい低い声を出した。


 夏休み中、駈は早苗がいつ課題に取り組んでいるのか知らなかったため、北海道から帰ってきたときにそれとなく聞いてみたことがある。


 すると、「あーまだやってないわ」と他人事のように返された。

 その時は少し小突いた程度で終わったのだが、その後もやっているような気配がなく、一昨日ぐらいから焦りだしたのか部屋にこもり始めた。


 どれくらいの量が渡されていたのか明白ではないが、飯時やトイレなど最低限の生活習慣しか送っていなかったことを考えると、後回しにしたことを後悔するほどの量があったのだろう。


「んで、ちゃんと終わったのか?」


「なんとか……」


「それならいいけど。いただきます」


 いただきます、と元気のない声が駈の前から聞こえてくる。

 寝る間も惜しんでやっていたようなので当然なのだが、最初から計画的に取り組んでいればそんなことにならないはずだ。


 駈はお盆前に体調を崩していたものの、初日からコツコツとやっていたため、ある程度余裕をもって終わらせていた。


 早く終わらせることはいい事なのだが、残りの期間をどう過ごすか考えていなかった。そのため、その数日間は長ったらしく感じ、一人で過ごす時間がここまで退屈なのかと、不思議な感覚になっていた。


 花火を見た後は時折、結花とメッセージでやり取りをすることが何度かあった。

 日常会話のような軽いもの、夏休みの思い出話やお土産の話。その時だけは退屈に感じず、有意義に過ごせていたのだと思う。


「よし、とりあえず俺は学校に行く準備するから。食べたらちゃんと片付けてね」


 駈は一足先に朝食を平らげ、食器をシンクへと運ぶ。

 早苗はというと、重たそうな瞼を必死に開けながら、たどたどしく箸を口に運んでいた。

 そんな様子を横目で見ながら、軽く食器を水で洗い、リビングを後にする。


「ふう……」


 自室に戻った駈は、まだ時間はあったため椅子に座り、体を労わった。

 準備と言っても、すでにカバンの中に必要なものは全て入れてあるため、あとは制服を着るだけで完了となる。


 まだ有り余る時間をどのように過ごすか考えたが、久しぶりの登校で気分が落ち着かない。


「はあ……」


 意識すればするほど、学校に対してどこか嫌悪感を抱いてしまう。それでも行かなくてはならないため、重たい腰を上げ、制服に着替える。


 久しぶりに身にまとう正装に気持ちの切り替えがついたのか、学校ではいつも通り過ごしていればいい、と心に決めた。




 いつもより早くついた教室には、人が少ない。夏休み明け初日だからか、他の教室に向かう生徒の姿もいつもより少ない気がする。


 その中、駈は自分の席に座ってから、いつも通り本を読んでいた。


 何人かいるクラスメイトに挨拶もせず、ひっそりと自分の世界に潜り込んでいる。時間が経つにつれて集まるクラスメイトにも興味を示さず、ただ本に一点集中している。


 周りから聞こえてくる談笑も耳には入ってくるものの、反対側からそのまま抜けていく。


 たまに名前を呼ばれているような気もするが、気にせず本の世界に――


「おーい、駈。おはよう」


「あ、おはよう」


 決して気のせいではなく、後ろから速人が声をかけてきていた。

 その後ろには見覚えのある人物が二人おり、駈のことを不思議そうな目で見ている。


「おはよう、三橋。今日も本読んでんな」


 少し気だるそうな声を出したのは、同じクラスの宮地隆(みやち ゆたか)

 いつも適当に過ごしているのか、髪はボサボサしていて制服も乱れている。隆の席は駈よりも前にあるため視界に入ってくるのだが、最後に一時間目に寝ていない日がいつだったか覚えていない。


「お、おはよう、三橋君」


 気弱そうな声でおどおどしているのも、同じクラスの一色悠(いっしき はるか)

 人前で話すことが苦手なのか、今のようにボソボソとしたこもった声で目線を泳がせることが多い。クラスでは目立っていないが、成績は毎回上位に食い込んでくるほどで、先生からは期待されているが、あくまで成績だけの話だ。


 二人は夏休み中に行ったプールで一緒に遊んでおり、一応面識はある。声までは覚えていなかったが、顔が見えてきてやっと誰か分かったため、遅くても挨拶はしなければと口を開く。


「お、おはよう。宮地君と一色君?」


「おー覚えてたー。嬉しいな、悠」


「そ、そう?」


 二人は小学校から同じらしく、性格が対称的であるにもかかわらず喧嘩をしたことがないらしい。

 実際に目の前で小突いている隆の表情と小突かれている悠の表情を見るに、お互いに嫌な雰囲気を感じ取れない。それほどの信頼関係があるのだろう。


「よーし、朝のホームルームをやるから席に着けー」


 ドアから担任が現れ、方々に散っていたクラスメイトが自分の席に向かわんと急ぎ始める。

 近くから聞こえてきた雑談もすっかりなくなり、教室内には鐘の音だけが響き渡った。

どうもお久しぶりです、panです。

今日から第二章が始まりますので、よろしくお願いいたします。


お読みいただき、ありがとうございます。

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