8 四季の庭
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応接室で伯父たちとの初めての対面のあと、両親たち大人は大事な話をするからと、祝と楪は庭にでも出て遊ぶようにと部屋から追い出されてしまった。
初対面の従兄である楪と一緒に遊べと言われても、なかなかハードルが高い。
お互いの趣味も知らないし、どんなことをして普段遊んでいるのかも知らない。
そんな祝の心配をよそに、楪は「庭を見せてあげるよ」と祝の手を引いてずんずんと歩き出した。
和風建築と洋風建築のあいだに広がっている庭は外から見た時より奥行きがあり、東屋を中心として4つの区域に分かれていた。
一つひとつに季節の名前が付いている。
春の庭の奥には滝があり、小さいながらも庭園を川が流れている。
春の花が植えられているのかと思ったら、そうでもないみたいだ。
整えられている花壇はいたるところに薔薇の木があり、庭師の苦労が見て取れる。
夏の庭の中心には、祝の背の高さぐらいの燭台のようなものが置かれていて、覗き込むと中には火を点けたあとの炭の残りのような黒い残骸があった。
夏の庭に花はなく、代わりに足元にはアラバスターが敷き詰められている。
バーベキューでもする場所なのだろうか、と思ったけれど、口には出さなかった。
秋の庭は木々が多く、子どもには小さな森に来たようにさえ思える。
案内してくれた楪によると、ここには食用の木ばかりが植えられているということだった。
秋になると栗やリンゴや梨、それにカリンなどが採れるらしい。
冬の庭は真っ黒な土が盛り上がっているだけだった。
だから、「工事中なの?」と聞くと、楪はちょっとだけ笑って、「ここは豊かな土を置く場所なんだ。この土が冬の庭にとっての草木なんだよ」と教えてくれた。
祝には良く分からない答えだったけれど、「ふーん、そうなんだ」で乗り切った。
庭を一周したあと、東屋に戻ると冷たいジュースが置かれていた。
楪が祝が座ろうとしたイスを引こうとしたから、とっさにイスを掴む。
「そんな意地悪しなくてもいいじゃない!」
祝がそう言って楪からイスを引っ張って座ると、彼はどうして怒られているのか分からないという顔をして、立ちつくしていた。
そんな二人のやり取りを見ていたのは、祝たちがこの家に到着したときに玄関に迎えに来てくれた女の人だった。
その人は我慢できないとばかりに吹き出すと、祝のそばに来て「楪さまは意地悪をされたわけではないのですよ」と堪え切れなかったのか、また吹き出した。
その人は笑い過ぎて目尻に溜まった涙を指先で拭い、楪は祝の隣のイスにショックを受けたような顔をして座っている。
「あの、さっきの意地悪じゃなかったんですか?」
祝はその人の笑いが収まるのを待って問いかけた。
てっきり、祝が座ろうとしたイスを後ろからこっそり引いて、尻もちをつかせようとしたと思ったのだ。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私はこの家の使用人頭を務めております由美子と申します」
祝は同じように名前を名乗って、ぺこりと頭を下げた。
「それで、先ほど楪さまは祝さまが座りやすいようにイスを後ろに引いただけなんですよ。お父上が奥様にされているのを見てマネをしてみたくなったんでしょうね」
伯父は伯母がイスに座るときに、わざわざそんなことをするのだという方が、なかなかの驚きだった。
由美子は祝がわかりやすいように話してくれた。
これは相手に対しての思いやりからの行動らしい。
「てっきり、イタズラをされているんだって思ってしまいました」
イスを引いて尻もちをつかせて笑うというイタズラがある。学校でも男子にときどきやられるので祝は疑いもしなかった。
「なんでそんなバカなことを僕がしなきゃならないんだ!」
楪はそれを聞いてずいぶんと機嫌を悪くした。
由美子がこっそりと教えてくれたのは、伯父がイスを引くと必ず伯母は「ありがとう」と笑いかけるらしい。
から、祝が楪に同じようにすると思っていたのに、怒鳴られてショックを受けたのだろうと言っていた。
祝が「ごめんね」と謝ると、楪はにっこり笑う。
従兄ながら単純な人で良かったと、祝は心から思った。
2人がジュースを飲みながら、そんな話をしていたときだった。
冬の庭の方向から身体がチクチクするような風が吹いてきた。
それは一瞬で風圧を強め、髪がくしゃくしゃに巻き上げられる。
「危ないっ!」
楪はそう大声を出すと、祝の手を引っ張りイスから地面に倒した。
「痛い…。って、あれはなに?」
祝が頭を起こして冬の庭の方を見ると、そこには嘴の長い真っ黒な鳥が空中に開いた裂けめから飛び出そうとしているところだった。
明日も更新します。




