7 初めて会う親戚
今日も読んでくださってありがとうございます。
今日でちょうど投稿を始めて1週間になりました!
なろうは初めてだったので、手探りで投稿しておりますが、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
土の精霊王、『土のじいじ』に挨拶をしたあと、父と祝と、守り刀の姿に戻った藍は父の手に持たれた状態で、淡いの森を抜けて母が待つ車まで戻った。
車に乗り込み、町へ戻る。
これから父の実家へ行き、そこで泊まる予定になっている。
母の方の祖父母に会えるのは明日以降ということだった。
車の中で母に土の精霊王のことや、淡いの森の木霊ちゃんたちの話をしたけれど、反応は悪かった。
大袈裟に言えば、機嫌が悪そうに見える。
「お母さん、怒ってる?」
祝としては何かやらかした心当たりがないので、待っているあいだに何かあったのかと心配になった。
「ごめんごめん、違うのよ。大丈夫よ。それより、土の精霊王とお会いできて良かったわね」
母の声は言っている内容からは程遠いほど、どこか緊張の色を含んでいた。
母と話をして驚いたのは、母には土の精霊王どころか木霊も見えないということだ。
『鍵』となった人間以外には見えない、と運転しながらときどき会話に参加してくる父が教えてくれた。
見えないのに、その存在を信じていることに祝は驚いた。
だから、母に何で信じられるの? と聞いてみた。
「そうね、小さいころから聞かされるし、学校でも習うから存在を疑うことはないわね」
「学校で習うの!? 何年生で!?」
祝はまだ精霊とかについての授業を聞いたことがないから、もっと上の学年で習うのだろうか。
「祝の通ってる学校では習わないのよ。この町の子が行く学校では授業があるんだけどね」
なーんだ、ちょっと期待したのに、と祝が拗ねると母はびっくりする提案をした。
「じゃあ、この町の学校に転校する?」
転校かあ。
実はちょっと憧れたことがあるのだ。
新学期にやってくる転校生はどこかミステリアスで賢そうに見えるし、かわいさも三割増しぐらいに映る。
祝にとって、中身が伴わないとバレてしまうまでの期間限定の転校生マジックではあっても、一度は経験してみたいと思っていた。
今の学校では『死神』っていうあだ名がついているけれど、ここの学校ではそんな縁起の悪そうな二つ名なんて誰も知らないし、仕切り直しするにはいいんじゃないの?
そんなことを心の中でニタニタと笑いながら考えていたのに、父の「ダメ」の一言で終わってしまった。
さようなら、転校生マジック。
墓堀家の実家は町の中心地から離れた場所にあった。
淡いの森とは反対側になるそうだ。一本道を緩やかに上った先に門が見えた。門が家に見えるほど大きい。立派な瓦の載っている漆喰の門は開かれていた。
開けられている門を抜けて敷地に入って車を停めると、車を降りた。
父と母は荷物を降ろしている。
祝は目の前に建っている家の大きさに驚いて、正直言って声も出なかった。
まず、隣家が無い。そして、何もない。墓堀家の家しかない。
祝たちがやってき上り坂の突き当りが墓堀家の実家なのだけれど、その道沿いにも家がなかった。それに、上り切った丘にあるのはこの家だけだった。振り返るとさっきまで走っていた街並みが眼下に見えた。
正面にあるのは和風建築の老舗旅館のような木造建築で、その右手には真っ白な壁の西洋風の建物がある。さらに和風建築と白い建物のあいだには広い庭園が広がっていて、こちらからも東屋が見えた。
「お父さん家って、旅館だったの!?」
「いや、個人の住宅」
「どこがっ! お父さん頭おかしくなってるんじゃないの!?」
個人の住宅っていうのは祝が住んでいるような3LDK2階建て、しかも建売住宅のことだ。
1階にリビングがあってお風呂があって、2階に各部屋があるような80㎡ぐらいの広さの住宅のことだ。父の実家のようにかくれんぼしたら行方不明者が出るような広い家のことではない。
この庭にある東屋と祝の家の大きさはいい勝負が出来る。この家が象なら、祝の家はネズミぐらいの大きさだった。
和風建築の建物へ向かって歩き始めた父と母の後ろを慌てて追いかける。
どれだけ立派な建物でもおかしいぐらいに統一感がない。
和風建築と白い西洋風建築が競い合っているみたいに見える。
「おかえりなさいませ、瑞祥さま、奥様」
玄関に着くと、五十代ぐらいの女性に出迎えられ、母から荷物を受け取っていた。
「部屋は離れを使う。当代はどちらに?」
「ご家族用の応接室でお待ちでございます」
父は、わかった、と返事をし、荷物を預けたあとで腰を反らせて背伸びした。
応接室がある家というのも祝にとっては珍しいのに、それが家族用、来客用に分けられているというのも珍しい。これだけ大きな屋敷だから部屋が余っていて、そういう使い方をするのだろうか。
「ねえ、お母さん。お父さんって家にいるときと違う感じに見えるね」
祝が母に耳打ちすると、「そうかしら。お父さん自体は何も変わってないのだけれどね」と苦笑いしている。
祝は注意深く周りを観察する。
父は家でもたくさんしゃべる方ではないし、ときどき、主語が抜けるから会話が成り立たないこともある。ここでも同じように口数は少ないのはいつもと変わらない。
それに感情の起伏の波が少ないから、父の感情は読み取りにくい。
それでも父が違うように見えるのはなぜだろう。
祝は屋敷の中で父の後ろを歩くことで、その違和感の正体を見つけることができた。
父が歩くと、みんな壁際に寄って頭を下げるのだ。
掃除をしている人も偶然通りかかった人も関係なく、父の姿を見ると手を止めスッと頭を下げる。
父はその人たちを一瞥することもなく、まっすぐ前だけを見て歩いている。壁際に寄った人たちの存在が見えていないようだった。
うー、なんか感じ悪いよねえ……。
祝はフォローをするべく、父の後ろを歩きながら壁際で頭を下げている人にペコペコと礼をしながら歩いた。
おかげで、応接室に着いたときには頭を振りすぎてクラクラしていた。
外観は和風建築だったのに、応接室の中はフローリングにソファという祝にとってもなじみのある作りだった。
大きい窓のには白いレースカーテンが揺れ、太陽の光を通して部屋を明るい空間にしている。焦げ茶色のフローリングは磨き上げられているのか、艶々して揺れるレースカーテンの影を映していた。
「おかえり、瑞祥」
ソファから立ち上がった男性は父と兄弟だとすぐにわかるぐらい良くに似ていた。癖のある真っ黒な髪、それに口元もよく似ていた。パーツは少しずつ違うのだけれど、雰囲気が良く似ているのだ。
だけど、目元は違う。父の目は大きくて垂れ気味だけど、伯父のそれは細く涼やかだった。
「沙織さんもよく帰ってきてくれた」
母は、ご無沙汰しております、と小さな声で挨拶する。声にピリピリとした棘のような音が混じって聞こえる。母はピンと張った糸のように、身体に纏う空気を硬くしていた。
「祝だね、会えてうれしいよ」
伯父は自分たちの向かい側のソファに座るように手で示した。
父が伯父と向き合うように座り、母が伯父の隣の女の人の前に座る。
祝が座った前には祝より少しだけ年上の男の子が座っていた。
女の人は伯母で、百合子と名乗った。少し上がり気味の目元に通った鼻筋、薄い唇は百合の中の王様のカサブランカを連想する華やかな容姿だった。
男の子は従兄で祝より2歳年上の9歳。
祝との共通点があるとしたら、人類という枠で括れる、程度のものしかなかった。
彼はとても優しい笑顔の男の子だった。
目元は父親にで涼やかな切れ長で、髪は伯母に似てエアリーな茶色のやわらかそうな毛質をしていて、薄い唇は祝よりよっぽど女の子らしいさくらんぼ色でぷるぷるしている。
完全に性別を超えて負けてる……気がしてならない。
「初めまして。僕の名前は楪っていうんだけれど、名前が長くて言いにくいと思うから、『ゆずお兄様』と呼んでくれてかまわないよ」
従兄、楪は白い肌を上気させほんのりとピンク色に染まった顔ではにかんだように祝に微笑んだ。
「……へっ?」
思わず変な声が出た。
『お兄様』なんて呼ぶ方が舌を噛んでしまいそうだ。
『ゆずりは』って呼ぶ方が文字数も少ないし簡単なのに。
誰しも欠点があるのだ。
楪は気品ある顔立ちの割に頭の中身が残念なのかもしれない。
『おにいさま』の5文字と『ゆずりは』の4文字すら数えることが出来ない人なのかもしれない。
自分のことを棚に上げておいてアレだけれど、残念な人には関わらないのが無難だということを、祝は身をもって知っている。
ここは最初が肝心だ。
はっきりと、イヤです、とお断りしておこう。
祝がそう思って口を開こうとした瞬間、横から母の声がした。
「まあ、良かったわね。祝、あなた兄弟欲しがっていたものね」
母が取ってつけたような笑顔でこっちを見ている。
いいえ、まったく欲しがっていません、と顔に書いて母に向けて首を振る。
母の目はまったく笑っていない。目から『余計なことを言うんじゃなわよ!』っていうビームを撒き散らしていた。
「あらそうなの? うちの楪は妹が欲しい欲しいって小さいころからずっと言っていたのよ。良かったわ、祝ちゃんを本当の妹だと思って大事にするのよ」
百合子伯母さんは母の言葉を真に受けたようで、本気で喜んでいる。
「良かったわね。ねえ、祝?」
母にそう言われて、祝は引き攣った顔で頷くしかできなかった。
従兄に顔を向けると、目の前でもじもじと『ゆずお兄様』呼び待ちをしていた。
明日も投稿しますのでよろしくお願いします。




