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9  魔の物『化け鴉』

いつも読んでくださってありがとうございます。

異世界移転、転生しない現代ファンタジーです。

宜しくお願いします。

明日も更新します。

 真っ黒な長い嘴の鳥は甲高い声を響かせながら、空中に出来た割れ目から身体を押し出した。

 出てきた鳥は羽を大きくはばたかせて、祝たちの頭上を旋回する。

 羽が動くたびにピリピリと痺れるような風が身体に当たった。


「あれは『化け鴉』だ。こんなところにいるはずもないのに」


 従弟の(ゆずりは)は祝の手を握って立たせる。そばにいた使用人頭の由美子と一緒に家へ向かって走りだした。

 あと20メートルほどで家へ入る扉に着く、というところで、化け鴉は急降下し祝たちに嘴をぶつける。

 祝は楪と繋いでいた手をその衝撃で離されてしまい、地面の上に転がった。


「祝っ、頭を下げろ!」


 楪の声に反射的に頭を下げる。さっきまで頭があった場所をめがけて化け鴉が鋭い嘴で襲う。

 化け鴉がそばを通った風圧で祝はさらに庭の奥へと転がっていった。

 それを見た由美子が祝に駆け寄ろうとするけれど、方向を変えて向かってきた化け鴉の爪でブラウスの腕の部分が破れた。その場所からは赤い血が滲んでいる。


祝は離れてしまったけれど、楪との扉の距離はあと少しだ。


「楪、家に入って誰か呼んできて!!」


 祝は大声で叫ぶ。

 その声に反応するように、化け鴉はこっちへ向かって急降下を始めた。


 ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ怖いっっっ!!!


 慌てて立ち上がり、駆け出して逃げる祝の後ろからは化け鴉が起こす風が容赦なく吹き付ける。その風圧で今度は前に吹っ飛ばされた。


「まっ、待ってろ! すぐに呼んでくる」


 楪は家へと走っていく。由美子は血の流れた腕をそのままに祝の方へ駆け寄ろうとしていた。


「由美子さんっ、こっちにこないで! 大丈夫だから! たぶんだけどぉぉぉっ!!」


 化け鴉も怖いけど、指先まで血を滴らせて鬼のような形相でこっちへ向かってくる中年女性も恐ろしい。

 祝は化け鴉から逃げるべく庭を走り回った。

 化け鴉は完全に祝をターゲットに決めたようで、もう由美子には見向きもしない。

 春の庭の薔薇の茂みの下を通り、夏の庭の燭台の後ろに隠れたとき、家の扉が開く音がした。


「祝、どこだっ」


 聞き慣れた声にホッとして涙が出そうになる。


「おとーさぁぁぁぁぁーん!!!」


 祝が燭台の後ろから大声で叫ぶと、化け鴉はこっちへ向かってスピードを上げる。

 ダメだ、見つかった。

 祝は燭台から飛び出し、家の扉のある方へ全力で走った。

 目の前には祝に向かって走ってくる父の姿がある。その後ろには同じように走っている伯父、扉の前で伯母に押さえつけられているのは楪だ。母も伯母の横で心配そうにこっちを見ていた。


 父は守り刀を化け鴉に向かって投げる。


(らん)、行け!」


 守り刀は空中で精霊『藍』の姿に戻り、化け鴉に向かって光の鎖のようなものを投げる。

 化け鴉はそれを避けると速度を緩め、祝から少し距離を取った。

 父は走ってきた祝を抱き留めると、伯父に向かってそのまま祝を投げる。

 伯父は投げられた祝をきっちりと器用に受け止め、地面に降ろすと後ろに隠すように前に立った。


「大丈夫かい?」

伯父に声をかけられたけれど、父と藍から目が離せない。ぎゅっと両手を握り、二人を見つめる。

「お父さんは……」

「ああ、化け鴉程度なら何の心配もいらない。大丈夫だよ」


 伯父の声はお気楽なものだったけれど、祝は心配で握った手に力を込めた。

 藍は化け鴉へ向かって飛び上がり、手に握っていた光の鎖を投げた。

 化け鴉がその鎖に絡まる。

 その身体からはシューシューと音を立てて紫色の煙が立ち上っていた。

 地面に着地した藍に引っ張られるように化け鴉は墜落する。

 地面でもがきながらも長い嘴を裂くように開けて甲高い声で鳴いていた。


「妖精王の祝福を受けし鍵が命じる。魔の物は魔の地へ。穢れを祓いこの地に清浄を」


 父が化け鴉の前に手を出すと藍が持っていた鎖よりさらに大きく太い光の束のようなものが現れ、それが化け鴉を覆っていく。

 最期に甲高い声を残し、化け鴉は光の束と共に消えてしまった。


「お父さんっ!」

 祝は光が消えるのを待って、父に駆け寄った。立ったままの父の腰に後ろからぶつかるように抱きついた。


「ケガはないか?」


 父は片手で祝を抱き上げると、もう一方の手で涙でぐちゃぐちゃになった顔をぬぐう。

 その顔で、にへら、と祝が笑うと、「不細工だなあ」と父も笑った。


「あれ? お父さん、目の色がおかしい」


 近くで見た父の目の色が金色に見える。

 さっきまでまぶしい光を見ていたから祝の視力がおかしくなってしまったんだろうか。


「怖い?」

 父はちょっとだけ心配そうな顔をしていた。

「ううん、きれいだなあって」


 いつもの真っ黒の目も好きだけれど、今の蜂蜜のような色の目はとてもきれいだ。

 日の光を吸い込んだような目に祝が映ってる。

 父はホッとしたように笑うと、祝を抱いたまま家の方へ向かって歩き出した。


 父が歩くリズムがゆらゆらと心地よく、もう自分が安全だということも合わさって瞼がとろんと降りてくる。

 眠い目を擦りながら見たのは、玄関で真っ青な顔をして立っている楪とその肩を押さえている伯母、腕から血を流した由美子の止血をしている母と伯父の姿だった。




 


明日も更新します。


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