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10 墓堀家の異母兄弟

いつも読んでくださってありがとうございます。

明日も更新しますので、よろしくお願いします。

 遠くから声が聞こえる。

 良く知った父と母の話し声だ。

 (まぶた)が重たくて、なかなか目が開けられない。

 それでも、聞こえてくる声に意識を集中させると、会話の内容が鮮明になり瞼がふっと軽くなった。


「目が覚めた?」


 目を開けて最初に視界に入ったのは、祝を両方から覗き込むようにしている父と母の顔だった。

 祝が返事をして起き上がろうとすると、父が背中を抱き起してベッドに座らせてくれる。


「どうだ、痛いところはないかい?」


 手のひらとヒザが痛いけれど、化け鴉から逃げるときに転んだから擦りむいたのだろう。

 手のひらを開く。擦り傷は手当てがされたようで、ガーゼが貼られていた。


「うん、ちょっと痛いけど大丈夫。それよりのどがカラカラ」


 祝は母が渡してくれたグラスを受け取って口をつける。

 ひんやりとした水が渇いた身体に沁み渡る。


「丸一日寝てたのよ。良く寝たわね」


 母は飲み終わったグラスを祝から受け取ると、サイドテーブルの上に置いた。


「ここはどこ?」

 首を大きく倒して天井を見ても部屋を見渡しても、祝が知らない場所だった。


「ここはお父さんが育った家だよ」

 そう教えてくれる父の目はいつもの黒色に戻っていた。

「お父さん、目の色が戻ったね」


 化け鴉を光の束で消し去ったあと、父の目は光を吸い込んだような金色に変わっていたはずだ。


「せっかくきれいだったのに」


 父の目を覗き込むと、大きな手でくしゃくしゃと祝の頭を撫でた。


「お父さんの目の色が変わることはこの家だけの秘密なんだよ。だから、祝も誰にも話しちゃいけない。約束できる?」

「どうして秘密なの?」


 せっかくあんなにきれいな瞳になるのに。隠さないといけないのは少し残念な気もした。


「ちょっと難しい話になるけど……」


 そう言って父は話し出した。

 祝は、難しい話なら別に聞かなくてもいいけど、と思ったけれど、言うタイミングを逃してしまい、最期まで話を聞く羽目になった。


 父の話は確かにややこしかった。

 まず、伯父と父は『異母兄弟』というものらしい。伯父の母は出産後、体調を崩して亡くなってしまったそうだ。

 そのあと後妻を貰い、父が生まれた。


「父が母を後妻に迎えたのは、あくまでも仙境の鍵を作るためだったんだ。鍵が1人というわけにはいかないからね」


 祝にとっての祖父は後妻に迎えた祖母のことを愛情があって迎えたわけじゃない、ということらしい。

 祖父にとっての最愛の妻は最期まで先妻である伯父の母だった、と父は言った。


「父は母のいない兄が相続で不利にならないように、第一子がこの家の当主となることを決めたんだ」


 兄である伯父が家を継ぐことに、祝は違和感を覚えなかった。


「それはそうなんじゃないの? お父さんが弟なんだから。伯父さんが長男だもん」


 一人っ子の祝にとって、あまり身近に感じないことだけれど、テレビなんかで観るホームドラマでは大抵、長男が家を継いでいる。


「そう。お父さんも別にそれで構わなかった。家の相続なんて興味もなかったし、正直言って『鍵として必要だから』という理由で自分が産まれてきたと知ってからは余計にね」


 それを聞いて、父が実家に祝を連れてきたがらなかった理由が見えた気がして、胸の奥の方がチクっと痛んだ。


 先妻の産んだ長男と、後妻の産んだ次男への祖父の態度の違いに、後妻である祝の祖母が腹に据えかねたらしい。


「もちろん、母は息子であるお父さんを跡取りにしたいとも思っていなかったんだよ。だから、自分の息子をこの家の当主にすることはありません、という意味を込めて敷地内別居に踏み切った」

「敷地内別居!?」


 家庭内ならわかるけど、敷地内別居は初めて聞いた。


「ここに着いたときに、表から見ると本家は和風建築で右側に真っ白な西洋のお城のような建物があっただろう?」


 祝は頷く。

正面に和風建築、四季の庭を挟んで右手に西洋建築の真っ白な建物があった。


「母が建てたんだよ」


 祖母は墓堀家とすべて正反対の家を作り、そこに籠ることで「私は関係ありません、どうぞご自由に」という意思を示したのだそうだ。


 ……おばあちゃん、激しい人だった……。


 祖母と父はその西洋のお城のような家で暮らし、伯父とはまったく関わり合いにならずに大きくなったそうだ。


「だけど、ここでひとつ問題が出てきたんだ」


 伯父と父の『仙境の鍵』としての能力の差が大きく、親戚の中には父を跡取りに、という人たちが出てきた。


「金色の目は、ここでは『妖精の目』と言われているんだ。より力のある人間に現われると言われている」


 伯父の目は金色にならないらしい。


 跡取りになりたくない金色の目を持つ父と、長男を跡取りにしたい祖父とのあいだで不必要な問題が起こらないように、『妖精の目』が現れたことは親戚には伏せておくことにした。

 そうすることで伯父をすんなりと跡取りに据えることが出来たし、父はその対価として、この町を離れて暮らすことを望んだ。


「だから、この目のことは秘密にしないといけないんだ。わかった?」


 祝は頷いた。

 父の平穏のため、しいては祝の平穏のためだ。

 あんな化け鴉が出てくるような家の跡取りとか絶対になって欲しくない。


「わかった。絶対に内緒にする」

 行きつくところは己の保身だ。


「……それで、聞きたかったんだけど、わたしって今どこいるの?」

 祝は寝てしまってどこに運ばれたのか知らなかった。


「墓堀家の離れ。ここはお父さんが育った家だよ」


 それって西洋のお城のようなアレですね?

 あの大きな建物を『離れ』と言ってしまうのもどうかと思うけれど、父にとっては和風建築の母屋より過ごしやすいのだろう。


 おばあちゃん、きっと、おじいちゃんへの当てつけでこの家を建てたんだろうな。


 祝はベッドから降りて窓から下を眺める。

 窓からは四季の庭と墓堀家本家が見下ろせるようになっていた。






明日も更新します。

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