75 秋の庭
不定期ですが更新していきます。
祝たちは最果ての地でムラタマと別れたあと、本家と離れのあいだにある四季の庭の中の秋の庭に走った。
四季の庭に着いたあと、父は作業していた庭師たちを追い出し、庭全体に結界を張った。こうすれば外からは何も見えないし聞こえなくなる。
闇の祝福を受けた楪と祝には秋の庭にある魔境への出入り口が見える。けれど、父たちにはまったく見えていないようだった。
「ここに紫色の霧がかかっていて……」
「ここを抜けると魔境なのです」
祝と楪はそう説明して身体を半分だけ中に入れる。半分が消えて見えるので、それを見てやっと父たちも納得したようだった。
けれど、父と伯父が入ろうとすると、その紫の霧を通り抜けるだけで魔境へは入れない。
念のため風斗も通ってみたけれど、普通に通り過ぎるだけだった。
「僕たちには紫色の霧も見えないし、ただ庭を横切っているだけだ。淡いの森のように弾かれもしない」
父はそういうと祝の身体が半分隠れたあたりをじっと見つめている。念入りに調べていた父は一つ頷くと、光を手の中に集めて祝がいる場所へぶつけた。
「なるほどな。ここが裂け目になっていて出入口になっているわけか」
紫色の霧がある場所だけが光を通さず形を浮き上がらせている。
祝はまぶしい光を全身に浴びたものの、同じ祝福を持っているのでそれだけで済んだ。離れた場所へ避難していた楪の方が気持ち悪そうな顔をしている。
ここから入ってた人がいるということは、ここから出てくる可能性だってあるわけだ。
「とりあえず、結界を外そう。しばらく見張っていれば中に入っていた奴らも出てくるだろう」
父はそう言い、祝たちは離れで庭を見張ることになった。
見張りは交代で行われることになった。
父と伯父は仕事があるので、基本的にそのメンバーからは外れる。
風斗と祝、七緒と楪、有馬と蝶子の組み合わせで三時間交代することにした。
その日、次の日、となんの動きもなかった。
見張りを始めてから三日後の真夜中、見張りながらもウトウトとしていた祝の肩を揺すって起こした風斗は、明りを消した部屋の窓のカーテンの隙間を指さし、祝にも見るようにと言った。
祝は目を擦りながら、カーテンから庭を覗く。
男二人が魔境から出てくるところだった。
一人目は庭にいたけれど、二人目の身体はまだ半分消えたままだ。
風斗は祝に父を起こしてくるようにいい、同じく離れで泊まっている有馬にも声をかけるようにと、祝の背中を押した。
風斗はその間に庭にいる男を逃がさないようにするらしい。
祝が二階に駆け上がる足音が聞こえたのか、父も有馬も部屋から出てきていた。
「風斗さんが足止めしています」
祝の言葉を聞いて、有馬も父も庭へ向かう。
家の中の異変に気が付いた蝶子と七緒もガウンを羽織った姿で顔を出した。
「私は国継様に連絡を入れます」
蝶子はそれだけ言うと、部屋に戻る。
七緒は祝の護衛に残ってくれた。
「出て行っても邪魔になるだけですから、ここから見ていましょうか」
そう言いながら七緒に笑いかけたものの心配で仕方ない。けれど、祝の力では足手まといになるだけだ。
七緒だって助力に行きたいはずなのに、祝の身辺を守ることを優先してくれている。
「瑞祥様たちはお強いですから、大丈夫ですよ」
「だといいのですけれど」
七緒は祝の背中に手を回しながら優しくさすってくれた。
庭では父が結界を張っているのか、中がまったく見えない。
音も聞こえないから、待つしか出来なかった。
「本家の方と連絡がつきましたから、国継様と楪様もすぐにこちらにいらっしゃいますよ」
いつものお仕着せに着替えて戻ってきた蝶子は七緒にも着替えてくるように、と言って、祝にハーブティを入れた。
「これでしたら飲んでも目が冴えるということはありませんから」
蝶子はそう言い、祝が庭を見ている場所へイスを持ってきてくれた。
祝はそれに座って、マグカップを受け取る。
蜂蜜を溶かしているカモミールティだ。カモミールの香りを運んでくる湯気が祝の気持ちを落ち着かせた。
「ああ、無事に終わったみたいですね」
庭に張られた結界が薄まっていく様子を見ながら、祝は蝶子と一緒に見つめていた。
結界が薄まるとき、景色がぼやけて見えるのだ。
それでも庭がどうなっているかぐらいは判断ができた。
「え、でも、あれ? ちょっと変じゃないですか?」
ホッとしていたのもつかの間で、結界が完全に無くなってしまうとそこにいたのは、倒れている有馬と一人の男を押さえ付けている父、そして座り込んでいる風斗が見えた。
男は二人いたはずなのに、父が押さえているのは一人だけだ。
「祝さまは絶対にここを動かないようになさってくださいませ」
蝶子は七緒を呼ぶと、着替えて戻ってきた七緒と一緒に庭に飛び出していった。
祝は何もできない無力さを感じながらも、じっと庭を見続けることしかできない。
今で出て行っても、足手まといになるだけ。
何度もそう言い聞かせながら、じっと庭を見続ける。
蝶子が父たちの元にたどり着き、倒れている有馬の横に膝をついて何かを父と話していた。
庭の向こう側、本家側の勝手口から伯父と楪が出てくるのが見えた。
二人は倒れている有馬たちに気が付いたようで、秋の庭に走り出した。
家の中からも騒ぎに気が付いたのか、起きてきた使用人たちが庭に向かっている。
――おかしい。
庭に向かっているのは、庭師や離れで住み込みで働いている数人の使用人たちだ。
離れでも庭と反対側に部屋がある彼らが物音に気が付いて起きてきたのに、ここに母の姿がないのがおかしい。
父が起きた時に一緒に目が覚めているはずなのに。
祝は嫌な予感を振り切るように母が寝ているはずの寝室に向かって走り出していた。
階段を一段とばしで上る。
「お母さん?」
部屋の扉を開けると、そこは真っ暗だった。
手さぐりで壁にあるスイッチを探す。
いつも常夜灯を寝ているときにでも点けているはずなのに、足元にあるはずの小さな灯りさえ消えていた。
スイッチを探り当て、照明を点ける。
明るくなった部屋の中には口を塞がれて羽交い絞めにされている母と、庭にいたはずの男が一人、さらに知らない男が一人。
男は二人とも三十代半ばほどで、真っ黒な上下にゴーグルのようなものをはめていた。
「大声を出したらこの女を刺す」
そう言いながら羽交い絞めにしていた男が片手で手のひらに入るぐらいの大きさのナイフを取り出して、母の首元へ先端を当てた。
祝が黙ったままでいると、もう一人の男が祝に近づき後ろから両手を拘束される。
それを見た母は身体をよじって抵抗していたけれど、大柄な男に押さえられていて動かすことはできないようだった。
母を拘束していた男は一度手を緩めると、母の首に腕をまわし締め上げ始めた。口を押えられたままの母はしばらく抵抗したものの、そのまま崩れ落ちる。
「お母さんっ!」
祝がそう叫ぶと、耳の上から舌打ちが聞こえ、腹部に重い衝撃を受けた。
吐きそうになるより、一瞬、息が詰まって吸い込めなくなる。
それがきっかけになったのか、呼吸が乱れて自分では上手く吸うことも吐くことも出来なくなった。
そのまま視界が狭くなっていく。
最後に視界に入ったのは、床に倒れている母の姿だった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
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長い間、お休みを頂いてありがとうございます。
たのしんでいただけたらとても嬉しいです。




