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56 情報交換

 学院の休みに合わせて、楪と淡いの森で落ち合うことになった。

 連絡係は七緒の友だちの千尋がしてくれるので、以前に比べると楪と連絡を取りやすくなった。

 

 祝は春の庭の滝から水の館へ向かいそこから、楪はゲートを通り淡いの森へ行く。祝福のない楪は淡いの森で遭難しないために、木の精霊である木霊に頼んで楪を祝の元へ連れてくるように頼んだ。

 楪の護衛と監視をしている影とよばれる人たちが追跡できるのは淡いの森の前まで。入ってしまったらこっちのものなのだ。

 ただ、入り口近くに祝がいると楪が誰と会っているかを気付かれる可能性がある。だから、彼らには見えない木霊に頼んだのだ。


「楪兄さま、お元気でしたか?」


 以前に比べるとちょこちょこ会えるようになったので、お久しぶり、という感覚はないものの、癖で聞いてしまう。

 それに楪は成長期というのもあって、会うたびに背が伸びているように思えた。

 初めて会ったときは祝とそんなに変わらなかったのに、今では首を上に向けないと顔が見えない。


「祝も元気だった?」


 楪はずいぶんと印象が変わった。

 無駄に入っていた力が良い感じに抜けて、自然に笑うようになった。それに、祝に学院のことなどたわいもない話をしてくれることも多くなった。


「ええ、それに聞いてください兄さま。ついに風で鎧を完璧に作れるようになったんですよ」


 風斗と風の鎧を作る訓練を始めたときは、風を暴走させることが多かったけれど、コツがつかめたのか最近ではさほど意識しなくても身体を覆う鎧を作ることが出来るようになった。


「すごいじゃないか。祝はよく頑張っているね」


 楪はそう言って祝の頭を撫でる。祝福がないことがコンプレックスだった楪は、今では吹っ切れたように祝の成長を喜んでくれるようになった。それに彼は彼で自分の出来ることを頑張っている。経営に必要な勉強の教師をつけて貰ったそうだ。

 こういう時間をもっと早く持ちたかった。

 祝も楪の兄弟がいない。だけど、今はお互いを兄妹のように思っている。


「風斗さんのおかげなんですよ」

「風斗はすごいね」


 祝はそう言いながら後ろに控えている風斗に視線を向けると、楪も同じように目を向けた。


「それで、今日、兄さまに来てもらったのは領主会議の間のことなんです」


 一年に一度、淡いの森へ繋がるそれぞれの領地の当主が集まって話し合いが持たれる。

 通常であれば伯父が当主なので出席しなくてはいけないのだけれど、祖父が亡くなったあとはずっと父が出席している。呪詛に倒れていた三年間のみ、伯父が出席したらしいのだけれど、祝福のない『鍵』である伯父は上手く対応できないことが多かったそうで、今年はまた父が出席することになった。


「父と護衛として有馬と七緒が一緒に会議に向かいますから、うちの離れは手薄になります。その間、伯母様が変な動きをしないように何とか出来ないかと思って」


 父と有馬だけなら何とかなるけれど、七緒まで取られるのは正直言って痛い。

 風斗は最近ずっと祝の護衛に付いているので、母を護衛してくれる人がいなくなる。祝が母と一緒にいればいいとはいえ、何かあったとき、風斗は母より祝を優先するのは目に見えていた。

 だから、祝と母の両方を風斗独りで護衛するのは難しい。祝は祝福があるからある程度の抵抗は出来ても、父たちに比べると経験値が低いから、咄嗟の判断が付きにくい。

 それに母は丸腰以外の何者でもないのだ。抵抗するすべすら持たない。


「伯父様が会議に去年と同じように行ってくだされば一番良いのですが、父のいなかった三年間に最果ての地の管理区域が増えたりとか、色々と不利益を被ってしまっているのです。だから、今回は父が行って元に区域の引き直しをしてこないと」


 領主は『鍵』であることはもちろん、大抵の人が四代精霊王すべてから祝福を得ているし、父と同じように妖精王の愛し子も多い。そんな中に祝福のない、一度も参加したことのない伯父が三年も行っていたのだから、墓堀家の領地の立場はずいぶんと舐められたものになってしまったそうだ。


 最果ての地の各領地の管理割合はそれぞれの『鍵』の数に比例するのに、この三年間で墓堀家が担当しなくてはいけなくなった区域が広くなってしまった。

 実際、最果ての地で動ける『鍵』は父だけなのに、呪詛から目覚めたら今までの倍近い広さになっていて、管理区域を走り回る羽目になった。

 なので、父は今年は自分が復活したことを知らせる意味と、三年間で受けた不利益を払拭するために自分が出席すると言っていた。


「叔父上のことだから、それなりの手を打つ算段は付いているのではないか?」

「もちろん、結界も張っていくでしょうし、出来ることはしてくれると思うのですが……」

「母上か」


 楪が諦めたように呟いたその言葉がまさに今回の変数なのだ。

 伯母は祝にケンカを売ってきて以来、目立っては動いてない。川渡も同じだ。けれど、もし領主会議で父が不在の間を狙って計画を立てていたら、どうなるだろう。


「わかった。母上の動向に注意しておこう」

「ありがとうございます。それともう一つ、保険をかけておきたいのです」

「保険?」

「はい、領主会議の間、楪兄さまが人質としてうちの離れで過ごすというのはどうでしょう? 兄さまがいれば伯母様もあからさまなことはしないと思いますし、離れに泊まるとなればうちの使用人の口から墓堀の親戚筋にそれが伝わりますから」


 父が不在の三日間を乗り切ればいい。

 その間、離れには父が結界を張る。その中に楪を人質をして籠れば、よほどの手練れでないと襲撃も難しいだろう。離れの中から水の館へ避難する経路を水の精霊王に開いてもらう予定にしているから、いざとなったらそこから楪だけでも逃がせる。

 祝たちは仙境へ入れるけれど、母や蝶子、使用人たちは離れに取り残されてしまう。

 だから、少しでも懸念は払しょくしておきたいのだ。

 それと墓堀家の親戚筋を牽制する意味もある。楪と祝が懇意にしていると思われればそれでいいし、人質として離れに滞在する気概があると判断されてもいい。どっちに転んでも良いことしかない。


「それはいい案かもしれないね。川渡一族にとっても僕はまだ駒として有用だからね。人質としてその間は離れでお世話になることにしよう」


 楪が離れに来るのは『楪の発案』で伯父と相談して伯母に話してくれることになった。伯母は反対するだろうけれど、呪詛の件を出して川渡が二心がないことを示すために、と言えば伯父や楪の手前、強くは反対されないだろう、と言っていた。


 父たちには祝から話をと通すことになった。

 あとは来月に迫った領主会議の間に何も起こらないことを祈るだけだ。



 

読んでくださってありがとうございます。


楪と祝は少しずつ従兄妹になりつつあります。


少しでも楽しんでいただけると幸せです。


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