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48 風の守り

 風の祝福を受けることが出来た日、夜になって祝はこっそりと自分の部屋の窓を開けて風を入れた。

 部屋に入ってきた風に呼びかけると、風が祝の身体の周囲を漂い始めた。

 

「フィートに声を届けてくれる? 祝福を受けることが出来たら呼ぶって約束していたの。ちゃんと祝福を得ることができた、と伝えてね」


 祝がそう言って大きく窓を開けると、部屋の中から外へ向かって空気が動いた。


 うーん、これで合ってるのかな?

 よくわからないけど、まあ、良しとするか。


 精霊にとって約束というのはとても強いものだから、一応ちゃんと守りましたよ、という姿勢は見せておかなければならない。

 明日から風斗と有馬と一緒に風の祝福を使う練習をすることになっている。風が使えるようになれば、比較的自分の身を守りやすくなるのだ。

 今の祝は、先日の襲撃のような場合、誰かに守ってもらわないといけなくなる。それをするのは大抵護衛として付いている風斗なのだけれど、誰かを守りながら攻撃を仕掛けるのは大変だ。

 祝は先日のことで、自分がどれだけお荷物なのかということを実感した。

 もし、自分の身ぐらい守れる状態だったなら、風斗はケガなどしなかったのではないだろうか、と何度も考えた。

 目の前で肩と太ももから出血し、それでも祝たちを守るように立っていた風斗を思い出す。

 風斗は痛みを感じない分、危機感が薄い気がする。せめて自分が迷惑をかけないように、護衛の仕事がしやすいように出来ることをしていかなくては。


 祝がそろそろ寝ようか、とベッドへ向かったとき、閉めたはずの窓が開いた。

 外から一気に風が中へ入ってくる。机の上に出したままの本のページを風がめくり上げた。風はさらに強くなり、祝は思わず目を閉じてしまった。


「おめでとう、祝。これでやっと連絡が取りやすくなったよ」

「フィート!?」


 風がおさまって目を開けると、そこには白い髪と肌をした真っ青な瞳の風の精霊が立っていた。


「なんでこんな時間に来るの!?」

「だって、呼んだでしょ?」

「呼んでないわよ、報告したの! ちゃんと祝福を受けることが出来たっていう報告よ、報告!」

「それってどう違うの?」


 祝は肺の中の空気を全部吐き出すように長いため息を吐いてその場に座り込んだ。

 精霊の基準が分からない。

 報告と呼び出しは違うだろう。

 だけど、ここでそのことについてフィートと議論したところで解決するとは到底思えなかった。

 祝は窓のカーテンを閉める。

 前に精霊歌を口ずさんで精霊が集まって来て夜に大量の光を撒き散らしてから、予防のために遮光カーテンにしてあるのだ。もちろん、蝶子の差し金なのだけれど、何が驚いたっていうと、遮光カーテンで精霊の光を抑えられると思っていた蝶子の思考に驚いた。


 まあ、レースよりは光を抑えることができるよね、たぶん。


「それで、祝は風を使えるようになったの?」

「ううん、だって今日頂いたばかりだもの」


 フィートは表情があまり変わらない。何を考えているのか分かりにくい精霊の中でもトップクラスにわかりにくいのではないだろうか。

 それでも、敷居の高くない人当たりが祝をリラックスさせてくれた。


「ふうん、じゃあ、一つ教えてあげるよ」


 フィートはそう言うと、風を呼び全身に纏わりつかせる。


「これは人の子っぽく言うと、なんだ……、あれだ、鎧」

「鎧? って身を守るための?」

「そう。こうやって身体の周りを風で強化するんだよ。そうしたら大抵のものは弾き飛ばされる」


 身体の周りを風で固めるのも、力の差や経験の差があるようで、祝は教えてもらった通りにしてもそよ風ぐらいしか纏わりつかせることができなかった。


「練習あるのみだねえ。イメージだよ、イメージ。祝は想像力が足りてないんじゃないの?」


 フィートが言うように、竜巻が自分の周りを回っているようなイメージを作る。そのイメージのまま風を呼ぶのだ。

 ようやくちょっとしっかりとした風の防具が完成したと思ったら、フィートからまたダメ出しが出た。


「遅い。遅すぎる。風を呼ぶまでそんなに時間をかけていたら、その間に殺されちゃうよ。僕はね、大抵のものに興味がないんだ。だけど、祝は面白いしもう少し頑張って生きてて欲しいなって思っちゃうんだよねえ」

「縁起でもないこと言わないでちょうだい」


 縁起の悪いのは名前だけで十分だ。


 けれど、フィートの言うことも一理ある。

 素早く風を展開することができなければ、モタモタしている間に攻撃されてもおかしくはない。


「っていうか、わたし、殺されるかも、ぐらい危ないの!?」

「やっと、そこに気が付く?」


 フィートは、トロいんだから、と呆れて肩をすくめていた。


「今日さ、珍しく風の館に帰ったんだよね。祝の声が聞こえてきたからさあ。そしたら、祝はもういないし、風の精霊王は瑞祥とこないだ血まみれになっていたヤツと話し込んでいたんだよ」

「ああ、帰りにお父さんと風斗さんだけ残るようにって言われたの」


 フィートはそこで聞こえてきた話をしてくれた。


「精霊王が言うには最果ての地で良からぬ動きがあるらしいんだよね。まあ、あそこは昔から良からぬことばかりだけれど、どうもちょっとややこしそうな感じだった」

「もっと具体的に何か聞いてないの?」

「聞いた気がするけど、あんまり興味もなくて。ただ、本当に危ないから精霊王が忠告したんだと思うよ。だからさ、祝に防御を教えてあげようと思って来たんだ」


 フィートが聞いたことを父や風斗に祝が尋ねても、きっと教えてはくれないだろう。

 精霊たちは人の理に関わらないというのが鉄則だ。忠告したとなると、人の理に外れているからなのだろうか。


「ま、考えても仕方ないよね。だからさ、祝はさっき教えた『風の守り』を展開できるように練習した方がいいよね」


 フィートにそう言われ、祝は頷いた。

 精霊自ら教えてくれることは稀だし、有難い。

 フィートがいる間に少しでも上達しよう、そう思って竜巻をイメージした。

 素速く、強く、高速回転する大きな竜巻を頭の中に描く。


 祝が風に呼びかけた瞬間、祝のやる気が伝わったのか、とてつもない風が部屋の中に巻き起こった。

 ガラスが割れ、部屋の中の本やシーツが巻き上がる。


「うわわわっ」


 完全にコントロール出来なくなって祝を中心に部屋にあった物が宙に浮いてグルグルと洗濯槽の中で回転しているように回っていた。


「なんの騒ぎだ!?」

「祝さま!?」


 ドアが開けられ、両親と蝶子が飛び込んでくる。

 その顔を見た瞬間、風がぱたりとおさまった。浮かんでいた物がパタパタと音を立てて床に落ちる。


「アハハハ、すごい、祝、やっぱり君は面白い!」

「笑い事じゃないわよ、フィート!」


 祝は窓から出て行こうとしているフィートに怒鳴った。

 一人だけ逃げるなんて、なんて卑怯な。

 一緒に怒られてくれてもいいじゃないの!


「ええ、本当に笑い事ではありませんよ、祝さま」

「ひっ……」


 静かに怒りを含んだ後ろから聞こえる声に、恐る恐る振り返る。

 そこには腕を組んで仁王立ちの蝶子と両親がいた。

 祝はそのあと、台風の後のような部屋の中で、主に蝶子とときどき両親のお説教を聞くことになったのだ。



読んでくださってありがとうございます。


フィートが再び襲来しました。


みなさま、素敵な連休をお過ごしくださいね。

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