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47 風の祝福

 フィートから新しい精霊歌を貰った祝は風の精霊王の前で披露するために、水の精霊王に手伝ってもらいながら練習をした。水の精霊たちは芸術を愛する精霊でもあるので、指導は的確だった。

 水の館で精霊王や精霊たちに合格を貰うのに二週間もかかってしまった。


 風の妖精王に披露するために、風の谷へ同行するのは風の祝福を持つ、父と有馬と風斗の三人になった。

 前回と同じように淡いの森から風の谷へ向かう。

 やはり今回も祝は風の祝福を得る前なので、風の谷へ向かう道が見えない。従兄の楪は何の祝福も受けてないから、道が見えない中を祝たちと一緒に水の館へ向かったことを思うと、少し彼を見直してしまう。


 目の前にはどこまでも広がる森しか見えないし、鬱蒼と茂った木々に遮られて視界も良いとは言えない。そんな中、味方かどうかわからない祝たちと一緒にこの森に入ったのだ。

 いくら水の精霊王から呼ばれたからだとしても、怖さもあったのではないだろうか。


「さて、ここからは祝独りで頑張らないとね」


 父がそう言って止まると、目の前に急に谷が広がった。

 灰褐色一色の世界は眩暈を起こすような錯覚に陥る。さっきまで緑に囲まれていたのに、急に石と岩だけの世界になるのだ。

 足元の悪いなか、谷を四人で下る。谷の底に着くと、祝はその場に跪いて風の精霊王に挨拶をした。


「光の祝福を受けし『鍵』の祝です。課題のフィートの新曲を持ってきました!」


 祝が頭を下げ、声がかかるのを待つ。すぐに目の前の景色が歪みだし、その中から要塞のような館が現れた。前と一緒で、石造りの館は見上げるほど高く、尖塔から光の粒が風に乗ってクルクルと舞っていた。


「ようこそ、『鍵』の祝。そして、有馬、風斗もよく帰ってきました。瑞祥も久しぶりですね」


 風の精霊王は緩やかな髪を風になびかせて、口元を柔らかく緩め、微笑みかけていた。


「大変な課題をよくこなしましたね。まさかフィートが祝を気に入るとは思いませんでしたよ」

「……幸運なことに、フィートが歌を作ってくれました」

「幸運などで動くような精霊ではありませんよ、フィートは。自分の価値を見直しなさいな」


 イタズラが成功したように微笑んでいる風の精霊王に、祝は引き攣った顔で何とか笑顔を作り、小さく頷いた。

 風の精霊王は風の精霊たちに自分が座るイスを用意させ、それに座ると祝に前に立つように指示した。


 ヴィー様は祝福を受けてない風斗も楪も館へ入れることを許したけれど、風の精霊王はその辺の線引きがはっきりしてるみたい。


 祝福を受けている父たちは風の精霊王によって館の中へ招かれて入ってしまった。

 館の外、灰褐色一色の谷の上に立っているのは祝独りだ。その前に猫脚付きの真っ白な長イスに寝転ぶようにもたれている精霊王がいるだけだった。


 祝は緊張で冷たくなっていく指先を動かして感覚を確かめた。

 水の館であれだけ練習したのだから大丈夫。

 自分に言い聞かせると、息を吸い込み声が震えないように気を付けながら歌い出した。


 歌っている最中、目の前の風の精霊王は瞬きすらせずにじっと祝を観察している。

 それは指先や祝の心の中まで見透かしているような視線だった。


 祝が歌い終わると、風の精霊王は目を閉じたまましばらく動かなかった。そして、パチパチパチ、と単調な拍手をし「まあ、いいでしょう」と呟いた。


「正直言って、あなたがフィートを捕まえることが出来るとは思いませんでした。確かに、この歌は新しい精霊歌でフィートが織ったものです。祝、あなたに風の祝福を与えましょう」


 祝は風の精霊王の前に跪く。

 風の精霊王の指先からは、館の尖塔から流れているのと同じ光の粒が飛び出した。それを祝に向ける。光の粒は祝の身体の周りで一度強くキラキラと光ると皮膚に触れた箇所から消えていった。


「これから先、風はどこでもあなたの味方となりましょう。おめでとう、風の祝福を受けし『鍵』よ。さあ、皆が首を長くして待っていることでしょう。館へ入りなさい」


 風の精霊王が長イスから立ち上がり、歩き出すと要塞のような館の鉄の大きな両開きの扉が音もなく開いた。

 祝もその後を歩く。

 風の館は芸術を愛する水の館とも柔らかさのある土の館ともまったく印象が違った。

 

 言うなれば合理的、実用的な館だ。

 無駄なものは一切なく、装飾などが施されていないつるりとした石の壁は愛想がないのを通り越して、潔いとさえ思えた。


 こういうの、なんて言うんだっけ。

 ああ、ミニマリズムっていうやつだ。


 必要最低限まで無駄を省いた建物は風の精霊王にとても良く似合っていた。

 通された部屋にもさっき外へ運び出した長椅子が戻されているだけで、テーブルすらない。

 壁際に置かれている同じタイプの長椅子に父たちが座っていた。


 三人に祝福を得たことを伝えると、ホッとしたような顔をして喜んでくれた。

 そして、父は代表して風の精霊王にお礼を言った。

 有馬はさっそく風の祝福を使えるようになるためのカリキュラムを考える、と張り切っていた。


「瑞祥、風斗、話がありますから、少し残ってください。有馬は祝を連れて帰ってくださいね」


 風の精霊王はそう言うと、父と風斗を連れて部屋を出て行ってしまった。残された祝は有馬の顔を見上げる。

 有馬も何があったのか分からないようで、肩をすくめていた。


「まあ、風斗もいるし、守り刀の藍も戻ってきて瑞祥の腰にぶら下がってるんだ、心配ないだろう。さあ、祝、離れに戻って沙織さんたちに報告してやらないとな」

「帰りに水の館に寄ってもいいですか? ヴィー様や水の精霊さんたちにはお世話になりましたから一番に報告したいのです」


 祝がそう言うと、有馬は笑顔で頷いた。

 こうして、祝は風の祝福を受け、父と風斗を残して有馬と一緒に水の館に向かった。



 


 


 

読んでくださってありがとうございます。


ようやく風の祝福を受けることが出来ました。


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よろしくお願いいたします♪

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